2016/11/15
2016年11月15日掲載
和歌山県を通って太平洋へ流れる川の上流で小水力発電所が運転を開始した。流域にある町がダムの放流を利用して発電事業に取り組む。県内最大の和歌山市では下水の汚泥を燃焼させた廃熱で2段階に発電するバイオマスプラントが稼働した。風力と太陽光でも大規模な発電所の建設が続々と始まる。
[石田雅也,スマートジャパン]
和歌山県の内陸部にある有田川町(ありだがわちょう)には、東西に広がる町を横断して有田川が流れている。川の上流にある「二川(ふたかわ)ダム」の直下で、町が建設・運営する小水力発電所が稼働中だ。
2016年2月に運転を開始した新しい発電所で、ダムから下流の枯渇を防ぐために放流する水を取り込んで発電する。水流の落差は35メートルになり、水量が最大の時には199kW(キロワット)の電力を作ることができる。年間の発電量は120万kWh(キロワット時)を見込み、一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算すると330世帯分に相当する。
発電した電力は固定価格買取制度で売電して、年間に4000万円の収入を得られる想定だ。20年間の買取期間の累計で8億円になる。一方で建設にかかった事業費は2億8600万円だった。この事業費は町内の家庭から排出するゴミの分別・減量によるコスト削減で捻出したものである。今後は小水力発電で得た収益を生かして、ゴミを減量する機器の購入費や再生可能エネルギーの導入補助費を確保していく。
発電設備には落差の大きな水流に適した横軸フランシス水車を採用した。水力発電では最も一般的な方式で、流れ込む水が横軸を中心に垂直方向に回転して発電機を回す構造になっている。発電した後の水は従来と同様に放出するため、下流の自然環境には影響を与えない。
従来と比べて違う点は放流する水の勢いだ。小水力発電所を建設する以前には、ダムの壁から横向きに勢いよく水をはき出していた。発電に利用した後では水のエネルギーの多くが電力に変わるため、放流の勢いは大幅に弱まる。これまで生かすことができなかった再生可能エネルギーを有効に活用している状況が見た目にもわかる。
下水処理場に革新的なバイオマス発電
和歌山県にはバイオマス発電の先進的なプロジェクトもある。人口が35万人を超える県内最大の和歌山市では、下水の汚泥を利用した高効率の発電設備の実証に取り組んだ。国が推進する「下水道革新的技術実証事業(B-DASHプロジェクト)」の一環で導入した設備である。
市内に3カ所ある下水処理場の中で最大の「和歌山市中央終末処理場」の構内に2014年に完成した。下水の汚泥を脱水してから、焼却処理する時の廃熱を回収して蒸気で発電する。さらに発電した後の温水を使って、低温の熱でも効率よく発電できるバイナリー方式で2段階に電力を作ることができる。
1日あたり35トンの下水汚泥を燃料に利用した場合に、発電能力は2つの発電機を合わせて120kWになる。小型の蒸気タービン発電機とバイナリー発電機を組み合わせる方式を採用したことで、従来は発電設備の導入がむずかしかった小規模な下水処理場にも設置できるメリットがある。
さらに汚泥を焼却して廃熱を回収する設備に低消費電力の技術を導入した。階段式の焼却炉と廃熱ボイラーを組み合わせたもので、従来の方式と比べて消費電力を4割も低減できる。このエネルギー回収設備で電力を消費しても、廃熱を使って発電した電力の余剰分が生まれて売電が可能だ。
下水汚泥のもつエネルギーから電力と熱に高効率に転換できるシステムの効果が実証運転を通じて検証できた。国土交通省は下水処理場のエネルギー消費量を削減できる革新的な技術として、和歌山市の事例をもとに導入のガイドラインをまとめて全国各地に普及を図る。
沿岸部と山間部に巨大なメガソーラー
和歌山県では風力発電の導入も活発だ。固定価格買取制度の認定を受けた発電設備の規模は全国で第7位である。内陸部の広川町から日高川町に連なる山の尾根には、「広川・日高川ウィンドファーム」が発電能力20MWで2014年に運転を開始した。
海に近い印南町(いなみちょう)では、大型風車13基を配置する「印南風力発電所」の建設が進んでいる。発電能力は合計で26MWになり、2018年6月に運転を開始する予定だ。大阪ガスグループが再生可能エネルギーの電力を拡大する長期計画の一環で建設する。
風力発電に加えて太陽光発電の取り組みが急速に広がってきた。中でも和歌山市の山間部で2016年2月に運転を開始した「DREAM Solar 和歌山市」の規模が大きい。以前に関西国際空港を埋め立てる土砂を砕石した場所で、36万平方メートルの広さがある。この用地に合計で8万4000枚の太陽光パネルを設置した。
発電能力は21MWに達して、年間の発電量は2360万kWhを見込んでいる。一般家庭の6500世帯分の使用量に相当する電力になる。固定価格買取制度で関西電力に売電して、年間に8億4800万円の収入を得られる想定だ。20年間の累計では170億円に達する。この売電収入のうち3%を和歌山市の公園や緑地の整備に生かすことが決まっている。
南部の白浜町の海沿いにある県内で唯一の「南紀白浜空港」でも、メガソーラーを建設する計画がある。滑走路の脇に残っている南西向きの斜面を利用して太陽光パネルを設置する予定だ。県が事業者を公募して2.8万平方メートルの用地を貸し付ける。
このほかに北部の紀の川市では、ゴルフ場の跡地で大規模なメガソーラーの建設が進んでいる。合計で38万平方メートルの用地を使って発電能力は15MWになる。総事業費は50億円を見込んでいて、2016年11月中に運転を開始する予定だ。
太平洋に面した和歌山県は日射量が豊富で、太陽光発電に適した場所が多い。県内の全域には森林が広がっていて、バイオマス発電を開発できる余地も大きい。自然環境の保全に配慮しながら再生可能エネルギーの拡大が続いていく。
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1611/15/news028_3.html
2016/11/12
2016年11月12日掲載
昨年6月に着工した糸島市端梅寺ダム小水力発電所の工事が終わり、11日に現地で開所式があった。県営端梅寺ダムの放流水(最大有効落差46・09メートル)で発電する。県が管理するダムの放流水を活用した市町村レベルの小水力発電所は九州初のケースだ。
同ダムは端梅寺川上流に位置し、洪水の調整や水道用水の供給などのための多目的ダム。発電所は最大出力100キロワット、発電量は約67万4000キロワット時で一般家庭約190世帯分に相当する。エネルギーの地産地消を目指す糸島市は、放流水を生かした発電を市の再生可能エネルギーの基幹事業と位置づけ、発電した電力を全て九州電力に売る。売電収入は年間約2290万円を見込む。総事業費は2億3200万円。
小川洋知事ら関係者約50人を前に月形祐二市長は「東日本大震災を機に県や福岡市などと協議し結実した。開所を機に再生可能エネルギーの更なる推進を図りたい」と述べた。【三嶋祐一郎】
〔福岡都市圏版〕
2016/11/11
2016年11月11日発表
福岡県では、環境に優しく安定的なエネルギーの供給を目指し、市町村などと連携して、地域の資源や特性を生かした再生可能エネルギーの導入を積極的に推進しています。
11月11日、県営ダムの放流水を活用した市町村による設置としては九州初となる、糸島市瑞梅寺ダム小水力発電所が完成し、開所式が開催されました。
開所式に出席した小川知事は「各分野でエネルギーに関する先進的な取り組みを進めている糸島市に、新しい形の再生可能エネルギーの先進モデルが加わりました。今後の糸島市の発展を心からお祈りします」とあいさつしました。
http://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/20161111kaisyosiki.html
2016/11/10
2016年11月10日掲載
唐津市七山滝川の観音の滝周辺で計画されている小水力発電所を巡り、七山地区全体の住民を対象にした説明会が8日夜、七山公民館で開かれた。発電用の取水で滝の流量がどの程度減少するのか、事業主体の九州発電(本社・鹿児島市)に実証実験を求める意見が住民側から相次いだ。
住民約90人が参加し、九州発電の担当者が説明した。1年で最も滝の流量が少なくなる冬場の写真を示し水量減少のイメージを伝えた。稼働した場合、滝川など関係3地区に支払う協力金とは別に、消防団の備品購入などで七山地区全体を支援する考えも示した。
質疑では「水がどのくらい減るのか、やってみないと分からない」「パイプを置いて実験してほしい」と、目に見える形で示すよう求める声が続いた。滝川区の住民からは、区の役員が一定の任期で交代することを踏まえ、「同意の協定書を結ぶ場合、唐津市は立会人ではなく、窓口になるべき」という意見も出た。
九州発電は、稼働時と同様の状況をつくる実験に技術面などで難色を示したが、検討する姿勢は見せた。古田功社長は「宿題がいくつか出た。これには必ず回答させていただく」と述べた。今後のスケジュールについては未定としている。
2016/11/09
2016年11月9日掲載
京都を代表する景勝地のひとつ、嵐山(京都市右京区)。その象徴的存在が大堰川-桂川にかかる渡月橋です。かつては景観上の理由などで渡月橋に照明がなく、ために地域住民の交通や防犯への不安が大きかったといいます。この不安をうけて地元任意団体・嵐山保勝会が関係当局と交渉、小水力発電(サイフォン式プロペラ水車)によるLED照明施設の設置許可を獲得して2005年に発電(最大出力5・5キロワット)を開始、橋を奇麗に明るくしました。
嵐山保勝会のホームページによると、この取り組みは1級河川に小水力発電設備を設置する国内初のケースであったそうです。国内初といえば、1891(明治24)年に送電開始した蹴上(けあげ)発電所が国内初の商業用水力発電所であり(現在も稼働)、その4年後にはこの電力がこれもこの国初の市街電気鉄道(市電)の開通(塩小路-伏見間)に寄与しました。
さて、小水力発電の取り組みが全国的に大いに注目されるようになったのは、やはり福島第1原発事故(2011年3月)以降のことです。ひとたび原発が過酷事故を起せば被害は甚大で、その終息には目途がたたず、安倍首相の“アンダー・コントロール”発言(2013年9月の東京五輪誘致演説)にもかかわらず、たとえば汚染地下水問題ひとつとっても、福島第1原発がなおも“アウト・オブ・コントロール”(制御不能)の状態にあることは周知の事実です。また、地球温暖化の観点からしても、もはや化石燃料依存の発電に頼るわけにはまいりません。そこで原子力や化石燃料に替わる自然の再生可能エネルギーに注目が集まっているのですが、小水力発電は他の再生可能エネルギー(太陽光、風力など)と比較して設備利用率(100%運転を続けた場合に得られる電力量の比率)が高く、発電原価も安いのが特徴です。
むろん、課題もあります。水利権や環境に関する法的規制をクリアするのが意外に難しいこと、地元漁協を含めて河川と共に生きてきた地域の人々の合意と参加が不可欠なこと、そして何よりも資金調達が隘路(あいろ)となることがあります。しかし、筆者の友人で関西広域小水力利用推進協議会理事(事務局長)の里中悦子さん(伏見区在住)は、「食糧とともにエネルギーの自給がなければ今後の日本を考えることはできない」と、小水力発電による“限界集落”克服にもユメをはせます。里中さんは、この運動の原点を自らのマンション管理組合の活動に求め、また、ペシャワール会・中村哲医師のアフガニスタンでの取り組みを教科書にしています。前者では住民一人一人が賢くなって、管理会社などの言いなりにならないこと、後者では、中村医師がアフガンと日本にある伝統的な水利技術を用い、アフガンの人びとと協働している事実、つまり、自力自闘の作風を文化として共有することの大切さを里中さんは“合わせ鏡”にしているわけです。
小水力発電はまさに、地域の、地域による、地域のための開発ですが、やがては、自分の、自分による、自分のための発電になる可能性も秘めています。たとえば、小水力発電の先進地・オーストリアでは、一家に1台の小水力発電機が今では必ずしも珍しくないそうです。筆者にとっても、クリーン・エネルギーの地産地消・自産自消は、“脱原発・脱化石燃料”への非常に説得的な道筋であるように思われます。(八木晃介花園大学名誉教授・元毎日新聞記者=社会学)=次回は11月30日