2016/01/24
2016年1月24日掲載 4月の電力小売り全面自由化も見据え、発電出力千キロワット未満の小規模な水力発電「小水力」の事業化に企業の関心が高まる。大規模な水力発電に比べ、水の自然な流れを生かす小水力は周辺環境への負荷を減らし、ほかの再生可能エネルギーより安定的に発電できる。これまで採算性が課題だった100キロワット以下の小水力でも、工事の効率化などで収益を見通せるようになったことも背景にある。
工事効率化で収益
太陽光や地熱発電など再生エネに取り組む新電力の洸陽電機(神戸市)は、岩手県八幡平市の農業用水路で37キロワットの小水力の建設を進め、4月の運転開始を目指す。規模は92世帯分の電気使用量だ。再エネの電力を国が決めた価格で販売する「固定価格買い取り制度(FIT)」を活用し、東北電力への売電を検討する。同社は「必要な工事を最小限に絞り、採算性を確保した。天候に左右される太陽光に比べ、水力は小規模でも安定した電源になる」と説明。民間事業者による東北での100キロワット以下の小水力の売電事業は初めてとなる。
その100キロワット以下の全国初の取り組みは昨年、滋賀県長浜市の農業用水路で始まった。大阪ガスの子会社、エナジーバンクジャパン(大阪市)などが建設した15キロワットと10キロワットの小水力2基がそれぞれ7月、11月に運転を開始し、FITで新電力最大手のエネット(東京)に販売している。
小水力の建設費は、出力200キロワット前後の発電機で1キロワットあたり80万~100万円かかるとされ、採算ラインだった。一方、出力100キロワット以下の小規模なものでは、建設費が1キロワットあたり200万円近くもかかり、採算性が課題になっていた。
しかし近年、設置ノウハウの蓄積で工事の効率が高まるとともに、FITによって電力の販売価格が一定に決められたため、小水力が事業として成り立つ見通しが立ち、企業の進出も進んだ。
普及をサポート
これまで小水力の担い手は、自然環境に配慮した自治体や市民団体、水路を管理する水利組合などが主だった。
先駆けは平成17年12月に設置された京都の景勝地、嵐山の小水力で、桂川の上流約150メートルに設けた出力5・5キロワットの発電機で渡月橋の街路灯60基の電源に活用している。企業や地元商店主などでつくる「嵐山保勝会」が手掛けた。東日本大震災以降、自治体やNPO法人などの視察が増えるなど注目を集め、今春発足のミャンマー次期政権を主導する野党、国民民主連盟(NLD)のアウン・サン・スー・チー氏も25年4月に見学した。
小水力は増加傾向だ。経済産業省資源エネルギー庁によると、全国でFITを活用した千キロワット未満の小水力導入は27年8月で263件にのぼり、25年8月の27件から10倍近く増えた。
普及をサポートする動きもみられる。関西電力は昨年11月に、近畿、北陸、東海の3地域に「水力調査所」を設置。小水力をはじめ水力発電を検討する自治体などの支援窓口として機能する。関電は調査から設置工事まで一貫受注し、収益性を高める狙いもある。
電力小売り全面自由化を控え、電力業界に新規参入する企業にとって、電源確保は課題だ。小規模でも安定した発電が可能な小水力には注目が集まりそうだ。(藤谷茂樹)
渡月橋の街路灯の電源となっている小水力発電(右)=京都市右京区
http://www.sankei.com/west/news/160124/wst1601240054-n1.html