2016/09/20
2016年9月20日掲載
静岡県では温暖な気候と傾斜の多い地形を生かして多品種の農作物を栽培している。農地に水を供給する用水路に小水力発電が拡大中だ。ブルーベリー栽培と太陽光発電、トマト栽培とバイオガス発電などユニークな取り組みも広がってきた。港の防波堤に波力発電を導入する計画もある。
[石田雅也,スマートジャパン]
静岡県の中央を流れる大井川は周辺地域の貴重な水源である。流域の9つの市と町に広がる農地に水を供給するため、国が中心になって終戦直後の1947年から22年間をかけて「大井川用水」を整備した。完成後40年以上を経過して老朽化した施設が増えてきたことから、大規模な改修事業を実施中だ。
用水路の改修に合わせて、維持管理費の軽減を図るために小水力発電の導入にも取り組んでいる。その方法は用水路の流れを分割するために設けた「分水工(ぶんすいこう)」と呼ぶ施設に水車発電機を設置する。大井川用水の分水工の中でも規模が大きい「伊達方(だてかた)分水工」と「西方(にしかた)分水工」の2カ所で2016年5月に発電を開始した。
2カ所のうち発電能力が大きい「西方発電所」では、分水工にある5メートルの落差を利用して発電する。既設の水路から水車発電機に水を取り込むために「ヘッドタンク」を造成したほか、発電後の水を分水工から先の水路に流すための「放水槽」、さらに増水時の余剰の水を流すための「余水吐(よすいばき)」を新設した。
発電能力は169kWになり、農業用水路を利用した小水力発電としては規模が大きい。年間の発電量は105万kWh(キロワット時)を想定している。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算すると290世帯分の電力になる。
2台の水車発電機を水量に合わせて運転
もう1つの「伊達方発電所」は発電能力が142kWで、年間に91万kWhの電力を供給できる。発電に利用できる水量は西方発電所とほぼ同じだが、分水工による水流の落差が0.6メートル低い分だけ発電能力が小さくなっている。この点を除けば発電設備の構成や導入した水車発電機は2カ所ともに同じだ。
水車発電機には「水中タービン水車」を採用した。水を供給するヘッドタンクの下部に設置して、垂直に流れ込む水の中で水車を回転させる方式だ。水中で稼働するために、小水力発電で問題になる騒音や振動を抑えられる。加えて水車発電機の上部にある「シリンダーゲート」を昇降させるだけで運転の開始・停止を操作できることも運用面のメリットが大きい。
2カ所の小水力発電所では用水路を流れてくる水量が季節によって大きく変動する。水量の変動に合わせて発電効率を高めるために、出力の違う2台の水車発電機を設置して、運転パターンを変える方法を採用した。水量が多い5月から8月は大小2台をフル稼働させる一方、それ以外の季節は水量に応じてどちらか1台だけを運転させる。水車発電機の運転と停止を簡単に切り替えられる利点を生かしている。
発電所の建設費は2カ所の合計で11億5000万円かかった。国が50%、県が25%、用水路を運営する地元の土地改良区が25%を負担して、土地改良区が発電所を所有・運営する体制だ。発電した電力は静岡市を拠点に電力小売事業を展開する鈴与商事が20年間にわたって固定価格で買い取ることが決まっている。
鈴与商事は県内の自治体や企業、商業施設や一般家庭にも電力を供給して、再生可能エネルギーの地産地消を推進していく。一方で土地改良区は売電で得た収益の一部を用水路の維持管理費にあてて負担を軽減する狙いだ。地域の資源を活用してエネルギーの地産地消と農業の効率化を図るモデル事業になる。
ブルーベリーとトマトと再生可能エネルギー
再生可能エネルギーを農業に生かす取り組みは小水力発電にとどまらない。大井川の上流に広がる川根本町(かわねほんちょう)は南アルプスの山ろくにあって、町の面積の94%を森林が占めている。日本茶の生産と林業が盛んな地域だが、町内の農地ではブルーベリーを栽培しながら太陽光発電を実施するソーラーシェアリングが2015年11月に始まっている。
面積が300平方メートルある傾斜地に高さ2.6~3メートルの支柱を立てて、108枚の細長い太陽光パネルを設置した。パネル1枚あたりの発電能力は112ワットで、全体で12kWになる。年間の発電量は1万3000kWhを見込んでいて、42万円の売電収入を得られる想定だ。パネルによる遮光率を27%に抑えることで、ブルーベリーの収穫量は地域の平均値と同程度になる見通しを立てている。
発電事業を運営するのは地元の民間企業や団体が共同で設立した川根スカイエナジーである。建設費の378万円は市民の共同出資で集めた。出資者には年利1%の金利と地域の特産物を還元しながら10年後に返済するスキームだ。日本で初めて市民の共同出資で実施するソーラーシェアリングとして成果が注目されている。
川根本町から大井川を下った菊川市では、トマトの生産現場でバイオガス発電プラントが2016年4月に運転を開始した。大井川用水の小水力発電事業で電力を買い取っている鈴与商事が建設・運営している。同じグループに属する農業生産法人が菊川市内で展開する大規模なトマト栽培ハウスの隣接地に建設した。
トマト栽培ハウスに併設した食品加工の工場では、トマトジュースやトマトピューレなどを製造している。工場の製造工程で発生する食品廃棄物と地域で排出する刈り草を発酵させてバイオガスを作る。そのバイオガスを燃料に利用して120kWの電力と熱を供給できる。年間の発電量は105万kWhを見込んでいて、鈴与商事が小売電気事業者として地域で販売する体制だ。
このプラントの役割はエネルギーを供給するだけでは終わらない。バイオガスを発生させた後の消化液から肥料を製造して農業に役立てるほか、バイオガスを燃焼させた後の排気ガスからCO2(二酸化炭素)を回収するシステムも導入する計画だ。CO2はトマト栽培ハウスに供給して光合成を促進させる。農業と再生可能エネルギーを組み合わせて地域の資源を循環させる取り組みである。
2つの市が波力発電の候補地に
静岡県の再生可能エネルギーは太陽光からバイオマスまで全方位に広がってきた。固定価格買取制度の認定を受けて運転を開始した設備の規模では、地熱以外の4種類が全国のトップテンに入っている。
太陽光発電では自動車メーカーのスズキが建設した「スズキ牧之原太陽光発電所」の規模が大きい。工場に隣接する46万平方メートルの用地に、11万枚の太陽光パネルを設置した。2016年4月に運転を開始して、年間の発電量は3220万kWhを見込んでいる。一般家庭の8900世帯分に匹敵する電力を供給できる。
このメガソーラーが立地する牧之原市は太平洋に面して、日射量が全国で最も多い場所である。市が率先して太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの導入を推進中だ。未来に向けて波力発電の候補地にもなっている。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトで、静岡市に本社がある協立電機が東海大学などと共同で「越波式波力発電システム」を開発中だ。港の防波堤に沿って発電装置を並べる方式で、装置の内部にプロペラを備えている。波が装置を乗り越えて中に落ちる勢いでプロペラが回って発電する。
実際の海域に波力発電システムを設置して実証実験に取り組む予定で、有力な候補地が牧之原市から隣の御前崎市にまたがる港湾地帯だ。全国各地にある大きな港には防波堤や突堤が設けられているため、実用化できれば海洋エネルギーを利用した発電設備として有望である(図15)。その第1弾が静岡県の港から始まる期待は大きい。
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1609/20/news025.html
2016/05/09
2016年5月9日掲載
静岡県は、大井川右岸地域3,512haの田畑を潤す大井川用水を活用した小水力発電所2カ所が完成したと発表した。
完成した西方発電所(菊川市)および伊達方発電所(掛川市)は、農業用水を活用した小水力発電として県営で初めて事業化された。ここで発電された電気の収益は土地改良区が管理する水利施設の光熱費や点検・補修費等に充当され、施設の維持管理費の負担軽減を実現する。
この負担軽減により、農業用水を管理する土地改良区の体質強化が図られ、多彩な農産物を産出する同地域の農業のさらなる発展が期待される。
また、水力発電は純国産の再生可能エネルギーであり、発電するのに二酸化炭素を発生しないクリーンエネルギーでもあるため、安全安心で持続可能な社会の構築に寄与するとともに、県の進める「エネルギーの地産地消」の推進にも貢献する。
この2カ所の発電所で、一般家庭約600戸分の年間消費電力量を賄える。西方発電所の使用水量は1.8~4.8立米/秒、出力(最大/常時)は169kW/33kW、年間可能発電量は105.1万kWh。伊達方発電所の使用水量は1.7~4.7立米/秒、出力(最大/常時)は142kW/30kW、年間可能発電量は90.6万kWh。水車形式はともに水中タービン水車。
なお、5月23日に両発電所の開所式を西方発電所敷地内で開催する。