2017/03/01
2017年3月1日掲載
福岡県の山間部にある治水用のダムに新しい小水力発電所が完成した。4月1日に運転を開始する予定で、年間に270世帯分の電力を供給できる。売電収入は年間3300万円を見込む。ダムが立地する県南部の、うきは市が建設・運営する。3億円を超える総事業費のうち1億円を福岡県が補助した。
[石田雅也,スマートジャパン]
福岡県が管理する15カ所のダムの中でも、うきは市にある「藤波ダム」は最も新しくて2010年に運用を開始した。県の南部を通って有明海へ注ぐ「筑後川」の上流にある。川の流域の洪水を防ぐ目的で造った治水用のダムだ。
通常時も下流の自然環境を保護するために放流を続けている。その放流水を取り込んで小水力発電に利用する。
うきは市は2015年度から小水力発電所の建設に着手、2017年2月に工事を完了した。藤波ダムの取水設備から延びる既設の放流管に水圧管路を追加して、発電所の内部にある水車発電機まで放流水を取り込む仕組みだ。この間の水流の落差は40メートルに達する。
最大で毎秒0.55立方メートルの放流水を使って、発電能力は162kW(キロワット)になる(図3)。現在は発電設備を調整中で、4月1日に運転を開始する予定だ。年間の発電量は98万kWh(キロワット時)を見込んでいる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して270世帯分に相当する。設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は69%になり、小水力発電の標準値60%を上回る。
発電した電力は全量を固定価格買取制度で売電する方針だ。1kWhあたりの買取価格は34円(税抜き)で、年間に3300万円の売電収入を見込める。20年間の買取期間の累計では6億6000万円になる。一方で建設工事にかかった総事業費は3億4400万円である。そのうち1億円を福岡県の補助金でまかなった。稼働後の運転維持費を加えても十分に採算がとれる。
20年間に約1億円の利益を見込める
福岡県は再生可能エネルギーの導入量を拡大する施策の1つとして、県営ダムの放流水を利用した小水力発電の可能性を2013年度に検討した。すでに水力発電を実施中のダムを除く12カ所を対象に、想定できる発電量と建設工事費・運転維持費をもとに収益性を評価して候補を絞り込んだ。
その結果、藤波ダムは買取期間の20年間に9300万円の利益を上げることが可能で、15年で投資を回収できるめどが立った。この時点では発電能力を153kW、年間の発電量を86万kWhと見込んでいて、実際よりも少し低い水準で収益性を評価していた。発電能力と発電量を増やすことができたため、投資回収年数は短縮する見通しだ。
12カ所の中で収益性の評価が最も高かった「瑞梅寺(ずいばいじ)ダム」では、2016年11月に小水力発電所が運転を開始している。発電能力と発電量は当初の想定どおりで、20年間に1億4800万円の利益を上げられる見込みだ。ダムが立地する糸島市が2億1200万円の総事業費で建設した。うきは市と同様に福岡県から1億円の補助金を受けている。
県営ダムの放流水を利用する2カ所の小水力発電所は、ほぼ同じ構造で造られている。ダムの放流管から水車発電機へ水流を取り込む仕組みだ。この方式だと落差が大きくて水量も安定しているため、水車発電機には最も汎用的な横軸フランシス水車を採用した。
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1703/01/news055_2.html
2016/11/16
2016年11月16日
福岡県の県営ダムの直下で小水力発電所が運転を開始した。ダムの放流を活用して190世帯分の電力を供給する。ダムが立地する糸島市が運営して、売電収入により20年間に2億5500万円の利益を得られる見込みだ。県営ダムの中から小水力発電を実施した場合に最も収益性の高い場所を選定した。
[石田雅也,スマートジャパン]
福岡県の西部にある「瑞梅寺(ずいばいじ)ダム」の放流を活用した小水力発電所が11月11日に運転を開始した。福岡県が管理する15カ所のダムの1つで、洪水対策と水道用水の供給を目的に1978年から稼働している。川から流れてくる水をせき止めるための堤体は高さが64メートルあり、その直下に小水力発電所を建設した。
堤体の放流口から水を取り込む方式で、水流の落差は46メートルに達する。最大で毎秒0.3立方メートルの水量を利用して、発電能力は99kW(キロワット)になる。発電に利用した後の水は従来と変わらず下流に放水するため、水道の供給量や下流の自然環境には影響を及ぼさない。
年間の発電量は67万kWh(キロワット時)を見込んでいる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して190世帯分に相当する。発電した電力は固定価格買取制度で売電して、年間に2270万円(税抜き)の収入を得られる想定だ。20年間の買取期間の累計で4億5400万円の収入になる。
一方で発電所を建設する事業費は2億1200万円かかった。そのうち1億円を福岡県の補助金で充当したため、糸島市の負担額は1億1200万円である。年間の運転維持費に350万円を見込むほか、10年に1回実施する発電機の大規模なメンテナンス費として1回あたり800万円を予定している。
県の補助金を加えて計算すると、20年間に2億5500万円の利益を得られる見通しだ。わずか6年間で事業費を回収できる。補助金を受ける条件として、売電収入は基金などで管理することになっている。その基金を使って公共施設に再生可能エネルギーの発電設備や蓄電設備を導入していく。
小水力発電の収益性が最高と評価
福岡県は県営ダムの放流水を活用した小水力発電を促進するにあたって、水力発電を実施している3カ所を除く12カ所のダムを対象に、事業性の概略検討を2013年に実施した。このうち収益性が最も高くなる結果を得られた場所が瑞梅寺ダムだった。
瑞梅寺ダムでは固定価格買取制度の対象になる20年間で1億4800万円の利益を出すことができて、11年で投資を回収できる計算だ。この評価結果をもとに、糸島市は小水力発電所の建設を決めて、2014年度から発電設備の製作と建設工事に着手した。実際に稼働した小水力発電所の発電能力や年間発電量は概略設計の通りで、福岡県の補助金1億円を加えたことにより投資回収期間は6年に短縮する。
概略設計に基づいて、水車発電機には横軸フランシス水車を導入した。大規模な水力発電所を含めて国内で最も多く使われているタイプの水車で、水流の落差が大きい場合に適している。
瑞梅寺ダムの小水力発電所では落差が46メートル、水量が最大で毎秒0.3立方メートルの条件から、フランシス水車が最適と判断できる。
市内で3種類の水車発電機が稼働
糸島市では2013年度に再生可能エネルギーの導入計画を策定して、2020年度までの8年間に発電量を4倍に拡大する目標を掲げた。市内では太陽光発電と小水力発電の可能性が大きいことから、この2種類の再生可能エネルギーを中心に拡大策を実施している。
小水力発電のモデルプロジェクトとして、2014年に観光名所の「白糸の滝」の近くに小水力発電所を稼働させた。滝の下流から水を取り込んで、2種類の水車発電機で電力を作るユニークな試みだ。発電した電力は近隣の観光施設に供給している。
水車発電機のうち1種類はクロスフロー水車で、水流が交差する力を生かして水車を回転させる。もう1種類はペルトン水車と呼び、ノズルを使って水を噴出させて水車を回転させる仕組みだ。クロスフロー水車は水流の落差が小さい場合に適していて、ペルトン水車は落差が大きい場合に向いている。
白糸の滝小水力発電所ではクロスフロー水車で5kW、ペルトン水車で10kWの電力を作る構成だ。年間の発電量は2015年度の実績でクロスフロー水車が2万3500kWh、ペルトン水車が5万2400kWhだった。設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は54%と60%になり、ペルトン水車のほうが効率よく発電できている。
固定価格買取制度で想定している小水力発電の設備利用率は60%である。新たに運転を開始した瑞梅寺ダムの小水力発電所では、横軸フランシス水車を使って77%の高い設備利用率を見込んでいる。標準値を上回る分だけ収益性が高くなる。
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1611/16/news026_2.html
2016/11/12
2016年11月12日掲載
昨年6月に着工した糸島市端梅寺ダム小水力発電所の工事が終わり、11日に現地で開所式があった。県営端梅寺ダムの放流水(最大有効落差46・09メートル)で発電する。県が管理するダムの放流水を活用した市町村レベルの小水力発電所は九州初のケースだ。
同ダムは端梅寺川上流に位置し、洪水の調整や水道用水の供給などのための多目的ダム。発電所は最大出力100キロワット、発電量は約67万4000キロワット時で一般家庭約190世帯分に相当する。エネルギーの地産地消を目指す糸島市は、放流水を生かした発電を市の再生可能エネルギーの基幹事業と位置づけ、発電した電力を全て九州電力に売る。売電収入は年間約2290万円を見込む。総事業費は2億3200万円。
小川洋知事ら関係者約50人を前に月形祐二市長は「東日本大震災を機に県や福岡市などと協議し結実した。開所を機に再生可能エネルギーの更なる推進を図りたい」と述べた。【三嶋祐一郎】
〔福岡都市圏版〕
2016/11/11
2016年11月11日発表
福岡県では、環境に優しく安定的なエネルギーの供給を目指し、市町村などと連携して、地域の資源や特性を生かした再生可能エネルギーの導入を積極的に推進しています。
11月11日、県営ダムの放流水を活用した市町村による設置としては九州初となる、糸島市瑞梅寺ダム小水力発電所が完成し、開所式が開催されました。
開所式に出席した小川知事は「各分野でエネルギーに関する先進的な取り組みを進めている糸島市に、新しい形の再生可能エネルギーの先進モデルが加わりました。今後の糸島市の発展を心からお祈りします」とあいさつしました。
http://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/20161111kaisyosiki.html
2016/03/10
2016年3月10日掲載
まさに滑らかな白い糸が岩を滑り落ちるようだ。白糸の滝(福岡県糸島市)には雪が降るこの日も、観光客が訪れていた。茶屋では従業員がうどんや団子でもてなしている。青木一良店長(69)は「ここの電気は全部、滝の発電で賄っているんですよ」と声を弾ませた。
滝の水は30メートルほど下流の丸太小屋に引き込まれ、小型水車の発電機を動かす。「滝で集落の電気をつくりたい」という住民の声を受け、市が2013年度に約4400万円かけて作った「小水力発電所」だ。
ダムと異なり、少ない水量でも発電できるのが小水力発電の特徴。白糸は出力15キロワットで、一般家庭27世帯分に当たる。
滝一帯の観光施設「ふれあいの里」は、住民組織である白糸行政区が運営している。小水力発電を研究する九州大大学院の島谷幸宏教授(60)や学生たちと一体となり、古い木造水車を再利用して発電の仕組みを学ぶなど、当初から深く関わってきた。発電所の完成後も、元区長の青木さんら住民を中心に維持管理している。
東日本大震災による福島第1原発事故以来、大手電力に頼らず、住民主導で自然エネルギーを活用して電気をつくる「市民電力」が注目されている。
出資し合って発電所を作ったり、家庭に発電設備を置いたりして、地域のエネルギー自給を目指す。太陽光発電などで大手電力に売電するか、自家消費する方式が多い。
実は白糸も、「ふれあいの里」で使った残りは九州電力に売電している。電気事業法により、集落に直接供給できないのだ。発電した敷地内で使うことしか認められていない。
小水力発電はさらに、河川法や土地改良法も関係する。島谷さんは「法的手続きや利害関係の調整が複雑なこと」が導入の壁となっていると指摘する。
島谷さんと連携して発電機を開発する明和製作所(同市)が、会社前の水路で発電機の実証実験をしたときのこと。水路に関与する県と市、地元行政区に相談し、水路の利用者でつくる水利組合の了承を得るため、総会での説明も求められた。生野岳志社長(53)は「規制緩和は進んでいるが、利害をうまく調整するには、白糸のように住民が主体的に取り組むことが重要だ」と話す。
高いコストも課題の一つだ。例えば水車は、技術を持つ国内メーカーが限られるため、価格競争が乏しく、納入にも期間を要する。島谷さんは海外の設計技術を使い、地場企業と水車や発電機を開発することで、より低コストで早く製作できるようにした。
小水力発電には多岐にわたる知識と技術が要求される。だが地域で導入するには、専門家だけでなく、住民の熱意も欠かせない。白糸のように地域一体で売電までし、採算が取れている例は珍しい。
島谷さんのノウハウを生かし小水力発電を普及させようと、九州大は13年にベンチャー会社「リバー・ヴィレッジ」(同市)を設立した。発電場所の選定から法的手続き、地域の合意形成までを後押ししている。
島谷さんは「発電に取り組むことで、電気を消費する側から生み出す側になる。地域の将来像を共有し、地域の資源を新たなかたちで次世代に引き継ぐ事業でもある」と語った。
◇ ◇
東日本大震災以降、停止していた全国の原発は、九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)を皮切りに再稼働し始めた。電力各社は来月からの電力小売り全面自由化に向け、「手ごろな料金」を競い合う。3・11から5年。私たちは電力にどう向き合えばよいのか。地域で模索する「市民電力」の動きを追った。
小水力発電所の中で、発電機を調整する青木一良さん。円形窓の中で水車が回っている
http://www.nishinippon.co.jp/feature/life_topics/article/230368