2017/05/30
2017年5月30日掲載
富山市の企業や団体がインドネシアに環境関連の技術や経験を伝える動きが広がっている。水門など製造の水機工業は同国の棚田群に小水力発電システムを導入。富山大学の教授らで構成する一般社団法人は現地の学校でイタイイタイ病などの教訓を伝える。同市は国から環境未来都市に選ばれるなど官民の環境意識が高く、国内外で活躍の場が広がりそうだ。
インドネシア・バリ州で29日、小水力発電施設の普及を目指す「バリ州小水力システム普及展開実行委員会」が発足した。同委員会はバリ州や現地の水路管理組合、大学などで構成。その事務局を務めるのが、富山市と水機工業などの市内企業だ。
水機工業は中小企業の海外展開を後押しする国際協力機構(JICA)と連携し、バリ州南西部のタバナン県で小水力発電の導入を進めている。同県はユネスコの世界文化遺産の棚田を有するコメの一大生産地。だが電気が届かない地域も多く、農業や商業活動などが制限されていた。
同社の小水力発電システムは既存の農業用水を生かすため大規模な工事が不要で、地形の落差や流量変動にも柔軟に対応。そのため環境負荷が少なく、安定した発電が可能だ。9日に着工、11月をメドに4機の小水力発電システムを設置する。
29日に設立した委員会では、設置した小水力発電システムの効果を検証。運営や維持管理など持続可能なモデルを構築し、同国の他の地域に普及させることを目指す。
一方、富山大の教授らで構成する一般社団法人インドネシア教育振興会は、学校での環境教育導入に取り組む。富山県を流れる神通川沿いで多くの被害者を出したイタイイタイ病の教訓や、ごみの回収・分別の取り組みなどを伝える教科「環境」を導入している。
2014年からJICAと連携し、ジャカルタ近郊の南タンゲラン市の小学校30校で展開。教科書や教員の指導書を作成したほか、教員らを富山に招き、排ガス規制を設ける立山黒部アルペンルート(立山町)やイタイイタイ病資料館(富山市)などをめぐった。
同市内では17年度中に小学校全300校に導入する見通し。21年5月までに新たに同市の中学校21校にも導入するほか、ボゴール市(ジャワ島)など他都市の小学校にも導入を広げる。中央政府や自治体と連携し、現地で環境教育推進セミナーも開催する予定だ。
インドネシアではごみの不法投棄や環境汚染が深刻な都市が多く、住民の環境意識とマナーの向上が課題。同会の窪木靖信代表は「富山発の環境プロジェクトを将来、全域に広げていきたい」と意気込む。
富山市は国から11年に環境未来都市に選ばれ、高齢化などの課題を乗り越えた成功例となることが期待されている。富山県も16年5月に主要7カ国(G7)環境相会合が開かれた際、レジ袋の削減や次世代型路面電車(LRT)など環境問題への先進的な取り組みを世界に発信するなど、環境への官民の意識は高い。
「富山の技術を世界に広め、環境未来都市としての役割を果たしたい」と市担当者。発展途上国では経済成長に伴い環境問題の重要性が高まっており、富山が果たせる役割は今後、大きくなりそうだ。(富山支局 長谷川雄大)