2016/02/25
2016年2月25日掲載
河川や農業用水の流れを利用した小水力発電の拠点が2月、福岡県朝倉市杷木白木地区に完成した。その名は「白木発電村」。市民団体「朝倉市に小水力発電を進める会」(手嶋政春代表)や地元、大学が協働し、間もなく5年目となる小水力発電を生かした地域おこしを紹介する。
大分自動車道の杷木インターチェンジ(IC)から、北東へ車で約15分の山間部に、31世帯103人が暮らす白木地区がある。高齢化や過疎化が深刻な集落で20日、発電に利用する手作り水車や発電機を備える発電村がお披露目された。
市内外から集まった約60人が興味深そうに水車などを眺める姿を見て、発電村の「村長」を務める白木地区の井上陽生さん(76)は「普段は静かな集落がにぎやかになった。さらに多くの人が来るように活動を続けたい」と話した。
同会は東日本大震災を契機に、再生可能エネルギーに関心を持った市民有志が2012年4月に設立。豊かな水を生かした農業が基幹産業の朝倉市には、江戸時代に造られたかんがい施設「三連水車」があることから、水車を活用する小水力発電に目を付けた。
初年度は小水力発電の普及に取り組む九州大大学院工学研究院の島谷幸宏教授(60)の研究室や市と一緒に、市内32カ所の河川や水路で発電可能性を調査。井上さんらが湧き水を生かした地域おこしに取り組んでいた白木地区に注目した。
建設業の経験がある井上さんは、木製の馬車の車軸を活用して直径約1・3メートルの水車を自作。13年春、所有するブドウ畑跡地の水路に設置し、島谷研究室が作った発電機で実験を繰り返したが、1時間当たりの発電量は100ワット程度で蓄電もできないことから実用レベルには及ばず。14年秋には水車の軸が折れ、稼働不能となった。「売電できるかもという考えもあったが、甘かった」。同会の林清一副代表(68)は振り返る。
それでも井上さんは「白木地区を明るくしたい」との思いを胸に2基目の水車作りに挑戦。車軸を鉄製に変え、鉄工所に発注。糸島市の電気モーター製造会社「明和製作所」が水路でも効率的に発電できる小水力発電機を製作したことを聞きつけると、同会が中心となって発電機を購入した。1時間当たりの発電量が110ワットに上がった上、同社が「地域活性化のため」と容量7・2キロワットの蓄電装置を無償貸与してくれたこともあり、ゲートボール場の照明や街灯、イベントで使う精米器など「地産地消」で活用できるようになった。発電村では近く、小中学生を対象とした公開講座も呼び掛けることにしている。
お披露目の後に行われたシンポジウムでは、当初から関わってきた同大学院の仲野美穂さん(24)が「皆さんの姿から自ら学び、行動することの大切さを実感した。地域の幸せは発電量に比例しないことを教えてもらった」と感謝。島谷教授は「地域主体の取り組みは、各地で進む地域づくりのモデルとなる。広がりを期待し、活動を支援したい」と力を込めた。
小さな集落から始まった地域を照らす挑戦は、これからも続く。
小水力発電に利用する水車などがある「白木発電村」
発電能力を高めた2基目の発電機