2017/08/02
2017年8月2日掲載
再生可能エネルギーの利用で活力を取り戻した各地の山村を舞台に、ドキュメンタリー映画監督の渡辺智史さん(36)=山形県鶴岡市=が新作を製作している。自然の力を生かして地域を立て直した人々の暮らしぶりを見つめた。作品名は「おだやかな革命」。映像を100分程度にまとめ、今秋、全国で劇場公開する予定だ。
構想の原点は、山形県内の在来野菜を扱った前作「よみがえりのレシピ」(2011年)。世代を超えて種子を受け継ぐ住民と触れ合ううち「地域資源を生かして豊かになる方法を映像で提示しよう」と考えるようになった。
渡辺さんは、地方で進展する再生可能エネルギー発電事業に着目。14年に取材を始め、一般市民が取り組みを主導する福島県喜多方市や同県飯舘村、岡山県西粟倉村など5つの地域に足を運んだ。
その一つ、岐阜県郡上市の石徹白地区では、約10年前に農業用水路での小水力発電が始まった。もともと過疎が深刻な中山間地だったが、現在は大手電力会社への売電益で潤う。移住する若者も増え、地元の女性たちと洋裁店を営むなど、新しい風を吹き込んでいる。
風力発電事業を首都圏の主婦と共同で立ち上げた秋田県にかほ市の住民も紹介。「エネルギーを生産する地方と消費する都市部が顔の見える関係を結ぶ。経済合理性を超えた新しい動きです」
人口流出や働き口の不足……。地方は諸課題の最前線だが、金では買えない生活を求め、自然の中で幸せを探す人々がいる。渡辺さんは「その姿を通じ一つの生き方を示す作品にしたい」と意気込んでいる。〔共同〕
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG21HD6_S7A800C1CR0000/
2017/07/26
2017年7月26日掲載
東北農政局赤川農業水利事業所(中井雅所長)が、鶴岡市板井川にある幹線農業用水路を活用して整備した「赤川地区小水力発電所」が完成し、今月2日から本格稼働を始めた。用水路の落差を生かして水車を回し発電するもので、年間の発電電力量は一般家庭約500世帯分に相当する約190万キロワット時に上る。施設用に活用するほか、東北電力に売電し土地改良事業による農業用水供給の維持管理費軽減を図る。国営事業に伴う小水力発電所の設置は、庄内地域では初めて。
同市熊出の赤川頭首工と鶴岡、酒田、三川の3市町にまたがる幹線用水路を改修する「国営かんがい排水事業赤川二期地区」に合わせ、発電所を整備した。赤川二期地区改修は2010年度に始まり、20年度まで総事業費149億円(当初計画)で事業が進められている。
板井川の小水力発電施設整備は、東日本大震災後の再生可能エネルギー導入の動きを受け、新たに計画された。適地として用水路の落差工が5カ所連続し高低差(有効最大落差7・2メートル)があり、近くに送電線のある板井川地区の西1号幹線用水路(幅6・5メートル、深さ3・8メートル)を選定。15年度に着工し2カ年事業で今年3月に施設が完成した。
上流部にごみを取り除く除塵(じょじん)機とともに取水口を設け、用水路脇に導水路を整備して下流の地下に直径1・3メートルの発電用水車2基を備えた。冬場の水量確保のため、取水口付近の用水路に可動式の「堰上ゲート」も整備。取水した用水は発電所そばの出口から用水路に戻す。総事業費は約7億円。発電設備は最大出力297キロワット。24時間稼働する。発電した電力は発電所の操作に利用するほか、東北電力に1キロワット時当たり29円で売電する。
赤川農業水利事業所によると、発電量を全量売電した場合の売電収入は約5000万円に上る。自家使用以外の売電収入は、土地改良施設の維持管理に充当する。発電所施設の管理運営は庄内赤川土地改良区(佐藤俊介理事長)と因幡堰土地改良区(冨樫達喜理事長)による赤川地区共同管理委員会が担う。
2017/07/24
2017年7月24日掲載
中小水力発電の可能性を考えるシンポジウムが山形市の山形ビッグウイングであり、地域資源から自然エネルギーを生み出し、売電益を地域振興に活用する「エネルギー自治」の実践事例などを学んだ。
全国小水力利用推進協議会(東京)事務局長の中島大氏は、岐阜県郡上市石徹白(いとしろ)地区の小水力発電を紹介。導入を契機に特産品開発やカフェ営業が始まり、利益が域内を循環し、移住者が増えた経過を報告した。
山形県大蔵村職員の佐藤信一氏は、村内を流れる銅山川のせき堤の落差を利用し、来年度に乗り出す小水力発電計画を説明した。「この事業を足掛かりに小水力発電を増やし、将来的にはエネルギー自立を果たす」と村の目標を語った。
基調講演したNPO法人日本水フォーラム(東京)代表理事の竹村公太郎氏は「日本全国どこにでも川があり、水の流れ、つまりはエネルギー源がある。これを利用しない手はないと再認識したい」と強調した。
シンポジウムは山形県が主催し、事業者や行政関係者約100人が参加した。
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201707/20170724_52044.html
2016/04/09
2016年04月09日
再生可能エネルギー(再エネ)によって地域活性化を図ろうと、飯豊町松原地区で、地元住民とNPO、山形大の関係者による小水力発電の実証実験が進められている。地区内の農業用水路を活用して生み出した電気を、ビニールハウスで使用し大葉を栽培。今冬に生産した“試作品”をこのほど、宮城県の食品業者に提供して高評価を受けた。将来的には事業規模を拡大し、地元住民の雇用や産直販売を通じて町のにぎわい創出につなげたい計画だ。
実証実験を手掛けているのは、2007年から水力発電に着目した活動を展開している松原地区保全協議会(山口義雄会長)、山形大東北創生研究所(大場好弘所長)、新庄市のNPO東北地域エネルギー開発機構(小川健理事長)。地域における再エネの利活用、高齢者や冬期間に適した農業の可能性を探り、昨年4月に実験を開始した。
発電場所は、JA山形おきたま飯豊ライスセンター近くにある県営松原用水路。落差11.7メートルの傾斜地に備え付けられている既存の水路と並行し、直径10~20センチの塩ビ管を設置した。ここを通した水の勢いを生かし、発電機の水車を回して電気を起こすシステムを構築した。
発電機は東北地域エネルギー開発機構が用意。1分間に1500回転し、実験では2キロワットの電気をつくりだしている。この電気は、大葉の芽出し用の土に埋めたパネルヒーターに活用。昨年12月に栽培に取り掛かり、現在は1株40センチほどの大きさにまで成長している。
県によると、小水力発電を通じた農業展開は県内では珍しい試み。大葉は摘み取る負担が少なく、高齢者が栽培しやすい利点がある。需要が高まる冬場に生産量を増やしたい考えで、山口会長は「事前の話し合いでは、地区民の約8割が再エネの有効利用を望んでいた。水力発電、大葉の栽培で村おこしを図りたい」と見据える。
今後は発電機の設置箇所の増設など、事業化に向け協議していく。実験に携わる山形大東北創生研究所の村松真准教授は、「小水力発電によって経済の循環が生まれる取り組み。森林整備の重要性に目を向けるきっかけにもなる」と意義を語っている。