2016/11/21
2016年11月21日掲載
丸紅 幾島渉・国内電力プロジェクト部長
丸紅は今年4月の電力小売り全面自由化を受け、家庭向け電力販売にも参入した。同社グループが持つ国内発電能力は約47万キロワットだが、うち6割以上は洋上風力発電をはじめとする再生可能エネルギーが占めている。地球温暖化防止に向けて二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出抑制が求められるなか、丸紅は消費者に「エコな電力」をアピールする。今夏には秋田県で洋上風力の事業化調査を開始したほか、小水力発電の拡大も精力的に進めている。同社の幾島渉・国内電力プロジェクト部長に話を聞いた。
◆アジアでの展開視野
--秋田県の洋上風力の計画は
「大林組や関西電力など計14社で秋田港と能代港に洋上風力発電所を建設する事業化調査を開始した。着床式と呼ばれる海底に土台に建設する方式で2020年くらいの稼働を目指す。日本は海に囲まれているからもっと洋上風力を活用できる余地があると思うが、欧州に比べて出遅れていた。そこでまず、ノウハウを蓄積しようと11年9月に先行する英国の洋上風力発電所の運営に参画した」
--そこで得たノウハウは
「着床式の洋上風力の建設や修理には、専用船による据え付け工事が欠かせないと分かった。そこで産業革新機構と共同で専用船を持つ英シージャックス・インターナショナル社を買収した。専用船は需要がある地域に船を運航すれば作業ができるので、将来の日本やアジアでの展開を視野に入れ、13年にシージャックスの日本法人も設立した。洋上風力の経済波及効果は大きく、ドイツでは造船不況で衰退した港町が洋上風力で再生した事例がある。産業振興につながる」
--着床式だけでなく浮体式にも注力している
「日本の海は欧州とは違って浅瀬は多くないので着床式だけでは限界がある。だから浮体設備を海に浮かべて、その上に風車などを搭載する浮体式の開発は欠かせない。福島沖の実証試験には三菱重工業や東大など10社1大学が参画し、15年から風況や耐久性、環境・漁業などへの影響を調査している」
◆自治体との連携重要に
--浮体式の課題は何か
「技術やコスト面など課題もある。だが、東日本大震災による原発事故で被災した福島県の復興事業の目玉であり、地元と協力して実証試験を着実に進めたい。英国は海岸線が王室管理のため漁業者との権利調整を進めやすい。だが、日本では権利関係が複雑なため、国や自治体との協力関係が重要になる」
--小水力発電が見直されている
「小水力は農業用水や河川の高低差を利用し、水車で小型発電機を回し発電する仕組みだ。太陽光など他の再生エネに比べて天候などに左右されず稼働率も高い安定電源だ。こまめにメンテナンスしていけば、100年という長期間使えるのも魅力だ。自治体からも小水力を手掛けたいというニーズが高まっている」
--小水力の今後の計画は
「小水力も水利権や用地買収交渉、さらには許認可などで、事業化までに5年程度はかかってしまう。だから自治体との連携が鍵になる。山梨県北杜市では官民連携で同市の用水路に小水力発電所を3カ所建設した。現在、長野県や福島県、広島県など15カ所で小水力を運営している。そのほかにも全国で調査を進めており、20年に30カ所に増やす計画は達成できると思っている」(上原すみ子)
【プロフィル】幾島渉
いくしま・わたる 早大商学部卒。1990年丸紅入社。海外電力プロジェクト第三部副部長、国内電力プロジェクト部副部長などを経て、2016年4月から現職。49歳。千葉県出身。