2017/05/09
2017年5月9日掲載
新日本コンサルタント(富山市吉作、市森友明社長)は、インドネシア・スマトラ島に2万世帯超の電力を賄う小水力発電所を建設する。国内で培った建設・運営のノウハウを生かした同社初のインフラ輸出となる。約30億円を投じ、2020年の本格稼働を目指す。
富山市や水機工業(同市黒崎)、国際協力機構(JICA)と共に、同国バリ島の電力不足解消を目指して進めている小水力発電プロジェクトの一環で、新日本コンサルタントは現地調査などに携わる。
プロジェクトには小水力発電に関する設計・施工の技術を新興国の発展に生かすとともに、東南アジアの経済成長を日本側にも取り込む狙いがある。
同社グループが運営する再生可能エネルギーの発電所は、富山市八尾町のメガソーラー、南砺、金沢両市の小水力発電所各1カ所に続き、今回で4カ所目。建設と運営は、グループ企業のニックスニューエネルギー(富山市吉作)を通じて設立した現地法人が担う。設備投資の資金の一部は商工中金富山支店などから融資を受けた。
小水力発電を行うのはスマトラ島南西部ブンクル州のケタウン川。現地の地形は急峻(きゅうしゅん)で降水量が多く、発電に適しているという。標高約400メートルの川沿いに全長2・7キロの設備を設け、毎秒36トンを取水する。
39メートルの落差を生かして水車を回し発電する。最大出力は約1万3千キロワット。現地の国営電力会社に全て売電し、年間約6億6千万円の収入を見込む。18年の着工を目指し、用地買収を進めている。同社は今後も東南アジアに向けた小水力発電の輸出の可能性を探る。
2016/03/01
2016年3月1日公開
2015年12月、絶滅の危機にあるスマトラトラやスマトラサイが生息するスマトラ島ブキ・バリサン・セラタン国立公園に隣接した小さな村で、森から流れる川を利用した、7機の小水力発電機が設置されました。村の住民は、この川の流れを維持するため、流域の森林を開発せず、長期にわたって保全することに合意。国立公園の森と希少種の保全につながることが期待されています。WWFでは今後、この事例を他の地域に広げる取り組みを目指しています。
森を守る、クリーンで安価な電力
インドネシア スマトラ島の南東部に位置するブキ・バリサン・セラタン国立公園は、スマトラサイやスマトラトラをはじめとする絶滅危惧種の貴重な生息域であり、ユネスコの世界自然遺産「スマトラの熱帯雨林」の中心的なエリアの一つにも指定されています。
しかし、同国立公園では、違法な農園開拓による森林伐採が進行しており、2011年には世界遺産危機リストに掲載され、ユネスコから森林保全・回復の改善策に取り組むよう勧告されています。
こうしたことから、WWFでは、これまでブキ・バリサン・セラタン国立公園の森林と絶滅危惧種を保全するための活動を支援してきました。
そして、2015年1月、国立公園に隣接するスカ・バンジャール村で、住民に自然エネルギーを供給することで、地域主体の森林保全を促す、新たな取り組みを開始しました。
このプロジェクトは、森から流れる川を利用した小水力発電機を設置することにより、住民約100世帯にクリーンな電力を供給することを目的にしています。
自然エネルギーによる小水力発電は、これまで村で使われてきたディーゼル発電機の燃料(軽油)を定期的に購入するよりもメンテナンスの費用が安く、住民の経済的な負担を抑えられる上、温暖化の原因になる二酸化炭素の排出を抑えることにも貢献します。
そして何よりも、小水力発電機を長期間にわたり持続的に使用していくためには、流域の森林を保全し、川に泥が流れ込んで堆積するのを防ぐことが欠かせません。
こうしたことから、WWFではプロジェクトの開始にあたり、スカ・バンジャール村の住民の方々に小水力発電の利点と、住民が自ら森林保全に取り組む必要性を説明しました。
スマトラ島固有亜種のスマトラトラ。推定個体数は300頭ほどといわれる。
スカ・バンジャール村の位置図
小水力発電機の設置に向けて
プロジェクトでは、まず村内のどこに森林が残っているのかを把握するために、衛星画像の分析と現地調査を実施し、村の土地利用図を作成しました。
その結果、村の南部はパーム農園や水田に転換されているが、国立公園に隣接する北東部には比較的森林が残されていることが判明。
まずは、村の北東部を流れるタタサン川とシリンバラック川に5~10kwの小水力発電機を4機と3機設置することに決定しました。
そして、発電機ごとに受益世帯をグループにし、それぞれから発電機の管理や運営を担う委員長と書記、経理の3名を選出してもらいました。
これらグループのメンバーは、特別に発電機の技術研修と組織の運営研修を受け、発電機の操作方法や、メンテナンスのための徴収額の設定方法、財務記録の作成・保管方法などを学びました。
また、発電機の設置にあたっては、各世帯が流域の森林を農地に転換せず、川の源流を保全することで、小水力発電に必要な水質を維持することに合意。
その内容は文書化され、各世帯と村長、コミュニティ組織の委員長の3名が署名し、村全体として森の保全に取り組む意志を明らかにしました。
この文書には、これらの合意事項に違反した場合、小水力発電の使用資格を失うことなども含まれています。
設置された発電機
116世帯にクリーンな電力を供給!
9か月にわたる事前調査と準備を経て、2015年10月に小水力発電の設置作業が行なわれました。
小水力発電では、通常の水力発電のように大規模なダムは建設せず、川の一部せき止めて、そこから川をバイパスする水管へと取水し、タービンに水を流し込むことで発電します。
こうした堰の建設や水管・発電機の設置作業は、各グループのメンバーが協力して実施。
そして12月、雨期で川の水量が増す前に、全7機の発電機の設置が完了し、計画を上回る116世帯にクリーンな電力を供給することができました。
また、発電機の運用・管理は、各グループで決めた曜日毎の担当者が実施。定期的な発電機の点検と取水口の掃除を行なっています。
今後プロジェクトでは、森の保全につながるスカ・バンジャール村の取り組みを、ブキ・バリサン・セラタン国立公園周辺の他の地域に広げてゆくため、このプロジェクトを題材とした動画や手引きを作成し、周辺の村落や政府機関に配布する予定です。
さらに、県知事や国立公園長を招いたシンポジウムの開催も計画しています。
発電機は村の人たちが協力して設置
スマトラ島の森を守るために、日本の消費者に求められる行動
ブキ・バリサン・セラタン国立公園をはじめ、スマトラ島の国立公園で起きている違法伐採や違法な農園開拓は、日本とも深いつながりがあり、問題解決のためには、日本の消費者にも行動が求められています。
スマトラ島における森林破壊の主な原因は、オイルパーム農園の開拓と紙・パルプ用の人工植林であり、こうして生産されたパーム油や紙は日本にも輸出されています。
パーム油は、日本の消費者が直接目にする機会は少ないですが、チョコレートやカレールーの一部、スナック類やインスタント麺の揚げ油、石鹸や化粧品の原材料など、身の回りの様々な商品に使われており、パーム油なしで日常生活をするのは不可能なほど広範に利用されています。
また、日本で使用されるコピー用紙の3分の1がインドネシアで生産されたものです。
日本で使用されているパーム油や紙の中には、破壊的な大規模伐採の跡地で生産されたものも含まれており、日本の消費者がこうした商品を購入することで、知らず知らずのうちにスマトラ島の森林破壊に加担している可能性があります。
しかし、消費者個人が商品やその原材料の生産方法まで遡って、追跡するのは困難です。
そこで、環境破壊的な方法で生産された商品の購入を避けるために、最も簡単で効果的な方法は、「RSPO認証」や「FSC認証」が付いた商品を購入することです。
これらの認証は、パーム油や林産物が環境、社会、経済的に持続可能な方法で生産されたことを証明する国際的な制度です。
日本の消費者がRSPO認証やFSC認証が付いた商品を意識的に選択することで、スマトラ島の破壊的な森林伐採に対して厳しい態度を示し、持続可能な生産を支援することになります。
WWFは、今後もスマトラ島の現場で森林と絶滅危惧種の保全に取り組むと同時に、日本の企業や消費者に対して、環境に配慮して生産された原材料の購買・調達を働きかけていきます。
※この小水力発電の設置プロジェクトは、トヨタ自動車株式会社のトヨタ環境活動助成プログラムの助成を受けて実施しています。
アブラヤシのプランテーション