2017/01/06
2017年1月6日掲載
ダム放流水を活用した町営の水力発電所や太陽光発電設備の設置など再生可能なエネルギーを使ったまちづくりを推進する有田川町が、国の「次世代エネルギーパーク」に認定された。
次世代エネルギーパークは、経済産業省資源エネルギー庁が太陽光発電や風力発電などの「再生可能エネルギー」の導入に積極的なまちを認定するもの。同町は全国で64番目、県内では御坊市に次いで認定された。認定された市町村は、同庁のホームページで紹介される。
同町では現在、町内3カ所の小中学校や町庁舎など計7施設の屋上にソーラーパネルを設置。また、風力発電設備を誘致したほか、町内を流れる有田川上流に、年間一般家庭約300世帯分の電力を発電できる町営の小水力発電設備を開設するなど、再生可能エネルギーの導入を進めている。
同町では今後、町内の他の小中学校のソーラーパネルの設置をさらに進めるほか、水力発電所や太陽光発電設備の見学なども受け付け、町内外の子供たちの環境学習に役立ててもらうという。
同町環境衛生課の担当者は「再生可能エネルギーの活用を軸に、有田川町を“エコの町”としてPRしていきたい」と意気込んでいる。
http://www.sankei.com/region/news/170106/rgn1701060036-n1.html
2016/12/27
2016年12月27日掲載
「自然エネルギー立県」を目指す徳島県では農山村で発電プロジェクトが拡大中だ。山間部の高低差を利用した小水力発電所が42年ぶりに復活したほか、農業用ため池では水上式の太陽光発電所が運転を開始した。水素エネルギーの導入にも積極的に取り組みながら電力の自給率を引き上げていく。
[石田雅也,スマートジャパン]
徳島県の東部に人口2500人の佐那河内村(さなごうちそん)がある。四国山脈の東の端に位置する村の山中に、国と村が共同で建設した「新府能(しんふのう)発電所」が2015年10月に運転を開始した。
農業用水路を活用した小水力発電所で、発電能力は45kW(キロワット)と小さめだ。取水池から発電所まで450メートルの導水管で送られてくる水流の落差は130メートルもある。ただし水量が最大で毎秒0.04立方メートルしかないために発電能力が限られる。
水車発電機には少ない水量でも効率的に発電できるベルトン型を採用した。ベルトン型はノズルから水を勢いよく射出して水車を回転させる仕組みで、水量が少なくて落差が大きい場合に有効だ。新府能発電所ではヨーロッパで実績があるイタリア製の水車発電機を導入した。
年間の発電量は25万kWh(キロワット時)を見込んでいる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して70世帯分に相当する。発電した電力は全量を固定価格買取制度で売電して、事業主体の佐那河内村には年間に875万円の収入が入る見通しだ。事業で得た収益は農業用の排水施設の維持管理費などにあてる。
新府能発電所が稼働した場所の近くには、かつて「府能発電所」があった。今から95年前の1921年に運転を開始して、1973年に廃止した小水力発電所だ。当時は川に沿って290メートルの水流の落差があり、最大300kWの電力を供給していた。
佐那河内村が再生可能エネルギーを活用した地域づくりを推進するために、42年ぶりに小水力発電所を復活させた。発電所に水を送り込むヘッドタンク(上部水槽)を改修したほか、ポリエチレン製の導水管を発電所まで敷設した。
新しい発電所の建屋は旧・発電所よりも154メートル高い位置にある。旧・発電所まで現在も農業用水路でつながっている。この間の水流を使って「新府能下段発電所」の建設を検討中だ。ヘッドタンクや導水管を新設すれば、150メートルの落差の水流で発電できる。稼働中の「新府能(上段)発電所」と同程度の発電量を見込める。
小水力発電のほかにも佐那河内村では、四国電力グループが運営する「大川原ウインドファーム」(風車15基、発電能力1万9500kW)や、地域住民の共同出資による「佐那河内みつばちソーラー発電所」(発電能力120kW)が稼働している。木質バイオマスを活用した熱供給プロジェクトも計画中で、化石燃料に代わる再生可能エネルギーの導入量をますます増やしていく。
ため池に2000枚を超える太陽光パネル
農業用の設備を生かした再生可能エネルギーの導入プロジェクトは、ため池にも広がってきた。東部の阿南市にある農業用ため池の「伊沢池(いさわいけ)」では、水上式の太陽光発電所が2016年10月に運転を開始している。
池の広さは12万平方メートルあって、周辺部を除く6.8万平方メートルに太陽光パネルを設置した。高密度ポリエチレン製のフロートを水上に並べて、合計2340枚の太陽光パネルで発電する。発電能力は630kWになり、年間に61万kWhの発電量を見込んでいる。一般家庭の170世帯分に相当する電力を供給できる。
水上式のメリットの1つは、陸上と違って造成工事が不要な点にある。水上でフロートを組み立てて太陽光パネルを設置してから、水中にアンカーを垂らして固定する。あとは陸上のパワーコンディショナーと接続すれば工事が完了する。伊沢池の太陽光発電設備の工期は3カ月で済んだ。
フロートはフランスのシエル・テール社が開発したもので、同社の日本法人が伊沢池の太陽光発電所を運営している。シエル・テールのフロートは日本国内でも水上式の太陽光発電所で数多く使われているが、自社で発電所を建設・運営するのは初めてだ。今後も全国各地にある農業用ため池に水上式の太陽光発電所を展開していく。
徳島県内では内陸の町や村で再生可能エネルギーの導入が活発に進んでいる。佐那河内村から神山町(かみやまちょう)と上勝町(かみかつちょう)にまたがる山岳地帯は、四国の中でも特に風況に恵まれた地域だ。この一帯では全国に風力発電所を展開するユーラスエナジーグループが大規模な風力発電所を計画中だ。17基の大型風車を設置して、発電能力は最大39MW(メガワット)を予定している。
さらに北に向かって上板町(かみいたちょう)では、全国各地で太陽光発電所を運営するNTTファシリティーズが「F上板太陽光発電所」を2016年11月に稼働させたところだ(図8)。ゴルフ場の土地の一部に太陽光パネルを設置した。発電能力は2.65MWで、年間の発電量は296万kWhを見込んでいる。一般家庭の使用量で820世帯分の電力になる。
水素ステーションを県内11カ所に整備
徳島県は2015年度から「自然エネルギー立県とくしま推進戦略」に取り組んできた。全国でも有数の日照時間や豊富な森林資源を生かして、再生可能エネルギーによる電力を拡大させる構想だ。県内の電力の自給率を2020年度に25%へ、2030年度には37%まで引き上げる目標を掲げている。
固定価格買取制度による発電設備の導入・認定状況を見ると、バイオマス発電の認定量が大きく伸びた。すでに認定を受けたバイオマス発電設備の規模は6万kWを超えて、全国でも14位に入っている。
これまでに運転を開始したバイオマス発電設備の中では、繊維メーカーのクラボウが阿南市に建設した「徳島バイオマス発電所」の規模が大きい。広さが10万平方メートル以上ある工場の構内に建設した。地域で発生する間伐材などを燃料に使って最大で6.2MWの電力を供給できる。
2016年7月に運転を開始して、年間の発電量は4000万kWhを想定している。一般家庭の1万1000世帯が使用する電力量に匹敵する。バイオマス発電設備の中核部分を構成するボイラーはクラボウが独自に開発した。
徳島県では水素エネルギーの普及にも力を入れて取り組んでいる。再生可能エネルギーと組み合わせて水素の製造・利用を拡大する「徳島県水素グリッド構想」を2015年10月に策定した。県内の工場で発生する副生水素に加えて、再生可能エネルギーから作ったCO2(二酸化炭素)フリーの水素を地産地消する計画だ。
国が推進する水素エネルギーの普及ロードマップに合わせて、2030年度までに燃料電池車を3600台に、水素ステーションを11カ所に整備していく。水素ステーションは導入しやすい移動式を先行させる方針だ。2016年3月には県内初の「STN徳島移動式水素ステーション」が徳島市で営業を開始した。市内の2カ所のあいだを移動して、平日の日中に燃料電池車に水素を供給する。
こうして水素を含むクリーンエネルギーのインフラを整備しながら、災害に強い低炭素社会を作り上げていく。新しい低炭素社会のモデルを示す「スマート社会とくしま構想」を2016年3月に打ち出した。
中山間地域の町や村をモデル地域に設定して、再生可能エネルギーと水素エネルギーを普及させるのと当時に、最新のICT(情報通信技術)を駆使してエネルギーを有効に利用できる仕組みを広める計画だ。県民の生活基盤の向上と同時に産業の活性化につなげる狙いがある。
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1612/27/news035.html
2016/12/27
2016年12月27日掲載
一関市赤荻字雲南の精茶百年本舗の清水恒輝会長(68)は、一関、平泉両市町を流れる照井堰(ぜき)用水を活用した水力発電の研究に取り組んでいる。同社近くの用水路に水車型の発電装置を浮かべ、「災害や停電が発生した時など、緊急充電用の電源として地域のために役立てたい」としている。
照井堰用水は、藤原秀衡の家臣照井太郎高春が平安末期に開削したとされる用水路。清水会長は、古くから水田へのかんがいや生活用水として重宝されてきた同用水を有効活用できないかと長年にわたり模索。東日本大震災発生時の大規模停電によって地域住民の生活に大きな支障が出たことを教訓に、2011年からたった一人で水力発電の研究に乗り出した。
専門外の分野のため、発電装置を造るまでに試行錯誤。最初は自転車のライトが点灯する仕組みを参考にしていたが、家庭で主に使用されている交流電源への変換がうまくいかず断念。九州の協力者から「船の発電装置を参考にしては」と助言を受け、元造船業者や一関高専教授らの手を借りながら5年がかりで小水力発電装置(発電量100ボルト、120ワット)を開発した。
装置は高さ約4メートル、縦横約2メートルで、重さは約300キロ。浮き輪と水車、ダイナモ発電機が取り付けられている。15年8月から同社南側の用水路に浮かべ、試験的に運用を開始。緩やかな水の流れで水車を回し、敷地内にある街灯などに電力を活用してきた。
冬場は農業用水が流れないため装置を取り外しているが、研究は怠らない。清水会長は「ゆくゆくは2台、3台と装置を増やし、電気をためておく仕組みも考えたい。震災時のような思いをしないためにも、多くの電力を供給できるように努めていく」と目標を語る。
2016/12/26
2016年12月26日掲載
伊那市春富土地改良区の農業用水路を活用した春富6号地区小水力発電所の工事が、同市富県の現地で順調に進んでいる。発電所棟も姿を見せ、間もなく発電機本体の据え付けも始まる予定という。事業主体の県上伊那地方事務所によると、発電所完成後の2017年4月から試験発電に入り、9月までテストを行った後、運営主体の同土地改良区に移管する。
県営かんがい排水事業の一環で整備する。斜面に設置されている階段水路をバイパスする形で導水管を設け、高低差を使って発電する仕組み。同地事所農地整備課の説明だと、現場の有効落差は約22メートルで、最大使用水量は毎秒1・12立方メートルになるという。最大出力は約195キロワットを見込んでいる。かんがい期の4~9月に発電し、全量を売電する。
15年秋に起工した。工事では、取り入れた水をいったんためて、流量を調節したり砂やごみを取り除いたりするコンクリート製の水槽(ヘッドタンク)を上部に設置。下流側に建設する発電所棟と長さ約40メートルの導水管でつなぐ。設計・施工を合わせたプロポーザル(企画提案)方式での発注で、ヤマウラが請け負っている。事業費は約4億円。
農業用水路を管理する土地改良区の多くは、施設の老朽化等に伴い、維持管理の負担が大きくなっているという。春富土地改良区の織井秀夫理事長は「国県の事業に基づいて始める発電事業なので、売電による利益は土地改良区の施設の改善に使うのが基本になる。利益はきちんと留保し、土地改良事業の主要幹線の工事の地元負担を減らし、水源設備の保全対策に使っていきたい」と話している。
同地事所は13年度に上伊那地域農業生産基盤再生可能エネルギー活用研究会を設置し、農業用水路を活用した小水力発電の可能性を検討。春富と上伊那美和(同市長谷)の2カ所の土地改良区で実現性が高いと判断し、事業化された。上伊那美和の小水力発電所(最大出力12・2キロワット)は既に運用が始まり、通年発電に入っている。
2016/12/26
2016年12月26日掲載
全国どこにでもある何の変哲もないコンクリート製の水路が、牙を向く──。1月25日、鳥取県日南町の新石見小水力発電所で死傷者3人を出した事故は、まさにそのような形容がふさわしい。
事故当日までの2日間で降った70~80cmの雪が、氷点下10度の気温と相まって開きょ式の導水路に付着し、通水を阻害。その影響であふれた水が引き金となり、斜面が崩落し、民家を襲った。
新石見小水力発電所は、固定価格買取制度(FIT)に基づく「既設導水路活用型」の施設だ。1953年に造られた石見発電所を改良して、2015年10月に稼働を始めた。改良設計者は荒谷建設コンサルタント(広島市)・八千代エンジニヤリングJV(共同企業体)だ。
発電所を所管する経済産業省は、改良した矢先の事故であることから徹底した原因究明を日南町に指示。学識経験者や業界団体など第三者の意見を踏まえた事故報告書が、2016年8月にようやくまとまった。改良設計や管理などの面で、様々な問題が明らかになった。
表土層流出と同時に側壁が崩壊
新石見小水力発電所は、九塚(くづか)川から引いた水を長さ1.2kmの導水路を通して、ヘッドタンク(上水槽)にため、落ち葉などを除去してから、落差のある水圧管に流して発電する仕組みだ。ヘッドタンクの手前120m付近の導水路で、問題の事故が生じた。
被害の直接の要因は、導水路からの越流水とそれに伴う土砂崩壊だ。越流した水が表土層を削り取り、支えのなくなった側壁が水圧に耐えられずに崩壊。水が一気にあふれ出して、最終的に約150m3(立方メートル)の土砂が流れた。
ヘッドタンクには導水路からの余剰水を放流する目的で、越流堰と余水路を設けている。自然流下のため、ヘッドタンクの位置は導水路よりも低い。処理能力以上の水が流れれば、真っ先に越流堰を伝って余水路に吐ける想定で、導水路から水があふれることはあり得ないはずだった。
ヘッドタンクの改良設計があだに
事故報告書では導水路から越流した原因の一つに、改良後のヘッドタンクが雪の堆積しやすい構造だったことを挙げている。
例えば、新しく設置した除じん機と巻き取り型のメッシュスクリーンだ。スクリーンが定期的にベルトコンベヤーのように巻き上がり、落ち葉などを自動で撤去する。改良前の固定型のバースクリーンと比較して、網目が密で雪が詰まりやすかった。
そのほか、改良時に加えた管理用のはしごや、水路に流れてきた浮遊物を物理的に止める鉄板にも雪氷が付着。また、改良で水の滞留面積を広げたことも、雪の堆積に拍車をかけた。
大量に堆積した雪が、余水路への越流を妨げ、ヘッドタンク内の水位は上昇。さらにメッシュスクリーンはたまった雪の重みで巻き上がらなくなり、除じん機が自動停止し、連動して発電機も止まった。水圧管への供給が遮断され、導水路内の水位上昇を引き起こした。
メッシュスクリーンは、最近の除じん設備では一般的に使われている。しかし、日南町の久城隆敏住民課長は、「積雪地帯にメッシュスクリーンなどが適切だったのか。最終的に採用を決めた我々に責任はあるが、一方で専門的知見からもう少し配慮してほしかった」と振り返る。
流末部に水の流れと直角方向に配置した越流堰の構造も、事態を悪化させた。越流阻害物が集中しやすく、余水を排出しにくい。
導水路自体は改良の対象外だったが、開きょ式という元々の構造が、通水を阻害しやすい問題点を抱えていた。雪が直接降り注いだり、導水路沿いにある木の枝に積もった雪が重みでしなって落ちたりして、それらが導水路内で凍結。これも通水の阻害要因となった。
技術の進化が皮肉にも事故に
事故報告書では、当日の管理の不手際も指摘している。除じん機が停止した際、日南町の職員は故障の通知をメールで受信した。しかし、携帯端末で発電出力に問題がないことも確認したため、「除じん機が機能しなくても水は余水路へ流れる」と判断。管理を委託している「水路管理人」に指示をしなかった。
遠隔監視による緊急メールを職員が受け取るシステムは、今回の改良を機に導入したものだ。それまでは、水路管理人が現地で異常を確認していた。また、このシステムの導入と同時に、日南町では管理人が交代していた。前任は60歳代の熟練者だったが、高齢や管理の重責からの解放を理由に、後進に道を譲った。
大雪警報で取水口を止めるという管理方針はあったが、事故当日は日南町に注意報しか出ていなかった。前任の管理人は後日談で、「これほどの雪が降れば、自分ならば取水口を止めていた」と話している。
久城課長は、「水路があった区域の天気の移り変わりや気温から、警報に相当する状況だったと聞く。だが、それは何十年と管理をして培った感覚でなければ分からないだろう」と指摘する。遠隔監視など、管理の手間を省くために導入した技術で、皮肉にも大事故につながる前兆を見逃してしまった。
「外力として雪は考慮していない」
事故報告書を受け取った経産省は8月29日、日南町に口頭注意した。発電用水力設備に関する技術基準を定める省令の「ヘッドタンクの水位上昇が導水路に悪影響を及ぼさないように維持する」という項目に、違反していると考えられたためだ。
気になるのが、焦点の一つである改良設計の思想だ。積雪を踏まえて、導水路の水位が上昇しないように考慮したのか──。荒谷建設コンサルタントJVのうち、ヘッドタンクの設計を主に担った八千代エンジニヤリングに話を聞くと、以下の答えが返ってきた。
「設計上、外力として雪は考慮していない。ただし技術基準を定める省令や仕様書などに基づいて、適切に設計したと考えている」(総合事業本部の眞間修一総括副本部長)。
技術省令が定めるヘッドタンクの項目には、地震や土圧などに対する安定検討を求めているが、確かに雪に対する記載はない。日南町の小水力発電の改良設計のプロポーザル公告でも、降雪時の配慮などの検討事項はなく、八千代エンジニヤリングは「降雪時に発電機は稼働させない前提で設計した」と主張している。
一方で、同社は「雪の影響を全く無視していたわけではない」とも主張する。眞間副本部長は、「発注者との打ち合わせで、担当者が『雪に対しては導水路に蓋をするのが望ましい』と伝えていたようだが、成果報告書には記載していなかった」と説明する。
改良前は管理人の個人スキルで、かなりの安全が担保されていた。改良範囲がヘッドタンクなど一部だったこともあり、改良後の管理体制まで考えが至らなかったのも事実だ。
同社は死亡事故を重く受け止めており、眞間副本部長は「発注者から提示された設計条件以外に課題があれば、予算上実施可能かどうかは別として、発注者に記録として残すように、社内で周知徹底したい」と気を引き締める。
同様の事故は排水路や農水路でも
日南町は再発防止策として、ヘッドタンクを再度改良するほか、雪の堆積を防ぐために、導水路の全線暗きょ化の方針などを打ち出した。売電収入の一部を当てて、5年間で対策工事を終わらせる予定だ。
もっとも、暗きょ化は事故を防ぐ手立ての一つではあるが、事故の本質は雪が積もらない構造にすれば解決するという単純なものではない。
「暗きょでも土砂崩壊で壊れれば、水があふれる。導水路で事故があったときに、取水停止の機能を持たせるルールづくりなどを議論する余地がありそうだ」。全国小水力利用推進協議会の中島大事務局長はこう指摘する。実際に熊本地震では、九州電力黒川第一発電所の事故で同様の危険性が浮き彫りになった。
危険なのは発電用の施設だけではない。越流や地震の崩壊を機に、ひとたび水や土砂を頭上から降らす“凶器”に変わるという点では、全国至るところに存在する排水路や農業用水路などにも同様のリスクが潜む。
道路法面の排水路では、たまった落ち葉や土砂が阻害物となり、水があふれて斜面崩落するケースが多い。しかし、守るべき対象範囲が広すぎてコストが膨大に掛かるため、抜本的な対策を打てていない。一方、農業用水路や小水力用の導水路では、直下に民家がある場所だけを防ぐという考え方もあり得る。
土砂崩壊を誘因する状況を見抜くすべがないわけでもない。例えば、図1(j-waterのホームページ上では省略)で示したように、今回、死亡事故につながった土砂災害が発生した箇所は、土砂災害特別警戒区域の範囲内だった。
鳥取県は日南町の事故後、各市町村に対して、土砂災害警戒区域内の農業用水路における泥や落石などの通水阻害物の点検を依頼。該当する2200カ所中、29カ所で通水阻害を確認して撤去した。まずはできる対策を打ち、少しでも潜在リスクを排除することが望まれる。
(日経コンストラクション 真鍋政彦)
[日経コンストラクション2016年10月10日号の記事を再構成]