2017/03/14
2017年3月14日掲載
鹿児島県の奄美大島では古い小水力発電所が5倍以上の規模で復活した。石油火力発電に依存する離島の中でCO2を排出しない電力を供給する。近隣の島の沖合では海流発電の実証試験を計画中だ。本土側では原子力発電所の周辺地域にメガソーラーが広がり、新しい地熱発電所の建設も進む。
[石田雅也,スマートジャパン]
奄美大島は沖縄本島と佐渡島に次いで日本で3番目に大きい島である。島内には5つの市町村があり、6万人が暮らしている。島の電力は石油を燃料に使う内燃力発電所が主体だ。燃料費の高さとCO2(二酸化炭素)の排出量が大きな課題で、将来に向けて再生可能エネルギーの導入が欠かせない。
島の中には九州電力が運営する水力発電所が2カ所ある。このうち1956年から運転を続けてきた「名音川(なおんがわ)発電所」の設備が老朽化したため、取水堰を残して発電所を一新。「新名音川発電所」は発電能力を従来の5倍以上に高めて、2016年6月に運転を開始した。
発電に利用できる水量の最大値を毎秒0.14立方メートルから0.6立方メートルへ4倍以上に増やし、発電能力を65kW(キロワット)から370kWへ引き上げることができた。山の中腹から発電所まで水流の落差は77メートルで従来と同様だ。
年間の発電量も4倍の200万kWh(キロワット時)を見込んでいる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算すると560世帯分に相当する。奄美大島の総世帯数(2万8000世帯)の2%に過ぎないが、石油火力発電に依存する島でCO2を排出しない電力を地産地消できる意義は大きい。
九州の離島では太陽光発電や風力発電が増加した結果、天候によっては発電量が需要を上回る状況になっている。同じ鹿児島県の種子島では太陽光・風力発電設備に対する出力制御の要請が九州電力から頻繁に出る状況になっていて、再生可能エネルギーの拡大にブレーキがかかり始めた。
奄美大島では他の離島と比べて需要が大きいうえに、天候の影響を受けにくい水力発電が安定した電力を供給できる。太陽光・風力発電設備を増やせる余地が大きく残っていて、太陽光発電は現在の3倍以上の規模を送配電ネットワークに接続可能だ。
さらに島の北部にある「竜郷(たつごう)変電所」では、大容量の蓄電池を使って太陽光・風力発電の影響を緩和する実証試験が進んでいる。最大で2000kWまでの電力を充電・放電しながら島内の電力供給を安定化させる試みだ。2017年1月末の時点で送配電ネットワークに接続している太陽光・風力発電設備の最大出力に対して21%に相当する。当面は十分な調整力を発揮できる。
水中に浮遊する海流発電システム
奄美大島の北側にはトカラ列島の島々が点在している。その中で最も北にある口之島(くちのしま)の沖合では、世界でも最大級の海流発電プロジェクトが進行中だ。ガスタービン発電機などを得意とするIHIが東芝と共同で実証試験の準備に入った。
実証試験に使う海流発電システムは水中に浮遊させる方式だ。発電システムの両端に、2枚の羽根が回転して発電するタービンをペアで備えている。1枚の羽根の長さは11メートルもあり、2基のタービンを合わせて発電能力は100kWになる。システム全体の大きさは横幅が20メートルで、長さも20メートルに及ぶ。
この海流発電システムを海面から50メートル程度の深さに浮かべる。海底に沈めた重りからケーブルでつなぎ、空を飛ぶ凧(たこ)のように浮遊させながら海流を受けて羽根を回転させる仕掛けだ。海底にはケーブルの接続箱も設置して、発電した電力を海底ケーブルで島へ送ることができる。
口之島を含めてトカラ列島には東シナ海から黒潮が流れ込み、海流の速い場所が島の近くに広がっている。実証試験は口之島の沖合5キロメートルの海域で実施する予定だ。発電量や漁業に対する影響を評価して実用化を目指す。
水中浮遊式の海流発電システムは同じ海域に数多く並べて設置できるため、発電能力を効率的に増やせる点が特徴だ。日本の太平洋側には100キロメートル程度の幅で黒潮が流れている。海流発電を実用化できれば、陸地に近い海域で大量の電力を生み出すポテンシャルがある。
鹿児島湾の対岸に2つのメガソーラー
その一方で鹿児島県の本土側では、太陽光発電からバイオマス発電まで5種類の再生可能エネルギーが拡大中だ。固定価格買取制度の認定を受けて運転を開始した発電設備の規模を見ると、すべての分野で全国のトップ10に入っている。これは鹿児島県だけで、いかに各種の資源に恵まれているかがわかる。
太陽光発電では鹿児島湾の埋立地で2013年に運転を開始した「鹿児島七ツ島(ななつじま)メガソーラー発電所」が象徴的な存在になっている。70MW(メガワット)の発電能力は当時の国内最大だ。その後も巨大なメガソーラーの開発は県内各地で続いている。
七ツ島から鹿児島湾をはさんで対岸にある霧島市のゴルフ場の跡地では、「鹿児島県霧島市太陽光発電所」が2016年12月に運転を開始した。30万平方メートルの用地に太陽光パネルを設置して、発電能力は20MWに達する。年間の発電量は2100万kWhを見込んでいる。一般家庭の5800世帯分に相当する電力量だ。霧島市の総世帯数(6万世帯)の1割弱に相当する。
このメガソーラーを運営する発電事業者の自然電力グループは、薩摩川内市(さつませんだいし)でも同時期にメガソーラーを稼働させた。周囲に山が連なる3万5000平方メートルの用地に建設して、発電能力は1.8MWである。年間の発電量は200万kWhを想定している。
薩摩川内市では2015年に2基の原子力発電所が相次いで再稼働した。新たに運転を開始したメガソーラーは沿岸部にある原子力発電所から内陸へ20キロメートルほど入った山間部にある。原子力発電所と比べて発電量は圧倒的に少ないものの、市内には風力発電や小水力発電を含めて再生可能エネルギーの電力が次第に増えてきた。
未利用の熱水から8300世帯分の電力
地熱発電でも新しいプロジェクトが進んでいる。温泉地で有名な指宿市(いぶすきし)にある九州電力の「山川発電所」の構内に、グループ会社の九電みらいエナジーが地熱発電所を新設する。
1995年から運転を続けている山川発電所では、地下からくみ上げた蒸気と熱水のうち高温の蒸気だけを発電に利用して、低温の熱水は地下に戻していた。隣接する場所に建設中の「山川バイナリー発電所」では熱水で発電できる点が特徴だ。
低温の地熱でも発電が可能なバイナリー方式を採用した。山川発電所から送られてくる100℃前後の熱水から蒸気を取り出して、沸点の低い媒体(ペンタン)を蒸発させる方法だ。蒸発した媒体で蒸気タービンを回して発電する。
発電能力は5MWで、既設の山川発電所(30MW)の6分の1である。2018年2月に運転を開始する予定だ。これまで利用していなかった熱水を使って、年間に3000万kWhの電力を安定して供給できる。一般家庭の8300世帯分に相当する電力量になり、指宿市の総世帯数(1万9000世帯)の4割以上に相当する。
九電みらいエナジーは発電した電力を固定価格買取制度で売電する方針だ。買取価格は40円(税抜き)で、年間に12億円の売電収入を見込める。買取期間の15年の累計では180億円に達する。未利用の熱水からCO2を排出しない電力を大量に作り出せるメリットは大きい。
山川発電所の構内にバイナリー発電所を建設する以前に、九州電力は2年間かけてバイナリー発電の実証試験に取り組んでいる。熱水を使って250kWの発電能力がある小規模な設備だ。建設中の商用設備と比べて20分の1の規模だが、バイナリー方式による発電量などを検証して商用化につなげた。
地熱資源が豊富な指宿市では、このほかにも地熱発電所を建設するプロジェクトがいくつか進んでいる。ただし新たに地下を掘削して蒸気と熱水をくみ上げる場合には、温泉資源に影響を与える懸念がある。地元の温泉事業者のあいだでは地熱発電に反対する動きも見られる。
指宿市は2015年3月に「温泉資源の保護及び利用に関する条例」を制定して、市内で地熱発電を実施する事業者に対して事前に計画書の提出を義務づけた。市の同意を得なければ、地熱発電所の建設だけではなく資源量の調査も実施できない。地域の貴重な資源を利用するうえで欠かせないプロセスである。
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1703/14/news027_4.html