2016/12/13
2016年12月13日掲載
広島県では太陽光・小水力・バイオマスを利用した発電設備が拡大中だ。遊園地の跡地やゴルフ場の隣接地でメガソーラーが運転を開始した。山間部にある2つの川をつなぐ水路では小水力発電所が稼働した。世界で最先端の石炭ガス化発電所やバイオマス混焼発電所の建設も進んでいる。
[石田雅也,スマートジャパン]
広島県の北部にある安芸高田市(あきたかたし)では、2008年までテーマパークの「広島ニュージーランド村」が営業を続けていた。自然が豊かな環境の中でヒツジやヤギと触れ合えることを売り物に、1990年に開園した当初は人気を呼んだものの、その後は入園者が減少して閉鎖に追い込まれてしまった。
広さが100万平方メートルに及ぶ広大な跡地を利用して、「ウエストニュージーランド村ソーラーパーク」が2016年3月に運転を開始した。テーマパークの地形を生かして太陽光パネルを設置する一方、建物は保存して地域の住民に開放する予定だ。
太陽光パネルの設置数は3万8000枚にのぼり、発電能力は9.6MW(メガワット)に達する。年間の発電量は1030万kWh(キロワット時)を見込んでいる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算すると2900世帯分に相当する電力になる。発電した電力は固定価格買取制度で中国電力に売電して、年間に4億円強の収入を得られる計画だ。
このメガソーラーから40キロメートルほど南に下ると、瀬戸内海に面してゴルフコースを備えたリゾート施設がある。ゴルフコースに隣接する3万平方メートルの敷地には、発電能力2MWのメガソーラーが2016年5月に運転を開始した。
雨が少なくて日射量が豊富な瀬戸内式気候の特徴を生かして、年間の発電量は290万kWhを想定している。設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は16%を超える水準になり、国内の太陽光発電の標準値13%を大幅に上回る。一般家庭で800世帯分の電力を供給できる。
同様に瀬戸内海の沿岸部にある工業地帯の一角では、中国電力グループのエネルギア・ソリューション・アンド・サービスが「ESS福山太陽光発電所」を2016年4月に稼働させた。発電能力は7.2MWで、年間の発電量は980万kWhになる。このメガソーラーの設備利用率も15.5%と高い。隣接地には中国電力の「福山太陽光発電所」(3MW)が2011年から運転を続けている。
2つの川のあいだに28メートルの落差
沿岸部とは対照的に降水量の多い内陸部へ行くと、小水力発電の取り組みも活発だ。山に囲まれた北部の北広島町では、中国電力の99カ所目の水力発電所「芸北(げいほく)発電所」が2016年3月に運転を開始した。
この小水力発電所は中国山地から流れてくる川に面して建っている。ただし発電に利用する水は別の川から取り込む。2つの川のあいだをつないで、2カ所のダムの水量を調整するための分水路が山の中を通っている。2キロメートルほどの距離がある分水路の途中に取水口と水槽を設けて、そこから水圧管路で発電所まで水を送り込む方式だ。
水流の落差は28メートルになり、最大で毎秒2立方メートルの水を発電に利用できる。発電能力は430kWで、年間に220万kWhの電力を供給できる見通しだ。一般家庭の600世帯分に相当する。これまで分水路を流れる水はダムの水量を調整するために使われてきたが、新たに再生可能エネルギーの電力を生み出せるようになった。
長距離にわたって敷設する水圧管路には一般的な鉄製ではなくて、高密度ポリエチレン樹脂で作った水管を採用した。鉄管に比べて腐食に強く、耐震性に優れている点が特徴だ。中国電力は芸北発電所で初めて採用した。軽量で施工しやすいうえに、市販品を利用できるために工事費が安く済むメリットもある。水車発電機には汎用的な横軸フランシス水車を導入した。
県営のダムでも小水力発電の導入プロジェクトが始まっている。県内に10カ所あるダムを対象に発電事業の可能性を調査した結果、中部の東広島市にある「福富ダム」ならば採算がとれる見通しが立った。ダムの直下に発電所を建設して、ダムから下流に放流する水を取り込む方式だ。42メートルの落差で最大1.5立方メートル/秒の水量を利用できる。
発電能力は370kWまで上げることが可能で、2017年度に運転を開始する予定だ。年間の発電量は200万kWhを見込んでいる。このうち180万kWhを固定価格買取制度で売電して、年間に5200万円の収入を得ることができる。一方で事業費に約4億円かかり、毎年の運転維持費に900万円を想定している。買取期間の20年間の累計では3.3億円の利益を出せる計画である。
木質バイオマスを45%混焼する石炭火力発電所
広島県の再生可能エネルギーは太陽光発電と小水力発電に加えて、バイオマス発電の導入量も増えてきた。固定価格買取制度の認定を受けて運転を開始したバイオマス発電設備の規模は全国で11位に入る。その中でも林業が盛んな地域の資源を生かして、木質バイオマス発電の導入が進んでいる。
木質バイオマスと石炭を混焼する大規模な発電所の建設プロジェクトがある。広島ガスがLNG(液化天然ガス)の基地の構内に、発電能力11万2000kWの「海田(かいた)バイオマス混焼発電所」を建設する計画だ。2017年に着工して、2019年に運転開始を予定している。
地域の林地残材や海外から輸入する木質バイオマスを年間に26万トン利用する。さらにコストの安い石炭を32万トン、補助燃料として天然ガスを1~2万トン加える予定だ。バイオマスの混焼比率は45%になり、石炭火力発電で問題になるCO2排出量を抑制できる。最先端の発電設備でもCO2排出量は0.8kg-CO2/kWh(キログラム換算CO2/キロワット時)を超えてしまうが、6割以下の0.458kg-CO2/kWhまで低下する。
石炭火力発電のCO2排出量を低減する試みは、瀬戸内海に浮かぶ大崎上島(おおさきかみじま)でも進行中だ。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を受けて中国電力とJ-Power(電源開発)が共同で取り組む「大崎クールジェンプロジェクト」である。石炭をガス化してからガスタービンと蒸気タービンで2段階に発電するIGCC(石炭ガス化複合発電)の実証試験設備が2016年8月に運転を開始した。
IGCCで発電効率を高めてCO2の排出量を減少させたうえで、排出したCO2を回収して再利用する。最終的には発電に伴って発生する水素まで回収して、燃料電池でも発電するIGFC(石炭ガス化燃料電池複合発電)へ進化させる構想だ。
IGFCの実証運転を2021年度まで続けた後に、2025年をめどに発電設備を大型に拡張できる技術を確立する。この時点で発電効率(燃料の熱エネルギーを電力に変換できる割合)は55%に達して、最新のLNG火力発電と同等の水準になる見通しだ。広島県が次世代の石炭火力発電の技術開発をけん引していく。
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1612/13/news016.html