2016/11/09
2016年11月9日掲載
京都を代表する景勝地のひとつ、嵐山(京都市右京区)。その象徴的存在が大堰川-桂川にかかる渡月橋です。かつては景観上の理由などで渡月橋に照明がなく、ために地域住民の交通や防犯への不安が大きかったといいます。この不安をうけて地元任意団体・嵐山保勝会が関係当局と交渉、小水力発電(サイフォン式プロペラ水車)によるLED照明施設の設置許可を獲得して2005年に発電(最大出力5・5キロワット)を開始、橋を奇麗に明るくしました。
嵐山保勝会のホームページによると、この取り組みは1級河川に小水力発電設備を設置する国内初のケースであったそうです。国内初といえば、1891(明治24)年に送電開始した蹴上(けあげ)発電所が国内初の商業用水力発電所であり(現在も稼働)、その4年後にはこの電力がこれもこの国初の市街電気鉄道(市電)の開通(塩小路-伏見間)に寄与しました。
さて、小水力発電の取り組みが全国的に大いに注目されるようになったのは、やはり福島第1原発事故(2011年3月)以降のことです。ひとたび原発が過酷事故を起せば被害は甚大で、その終息には目途がたたず、安倍首相の“アンダー・コントロール”発言(2013年9月の東京五輪誘致演説)にもかかわらず、たとえば汚染地下水問題ひとつとっても、福島第1原発がなおも“アウト・オブ・コントロール”(制御不能)の状態にあることは周知の事実です。また、地球温暖化の観点からしても、もはや化石燃料依存の発電に頼るわけにはまいりません。そこで原子力や化石燃料に替わる自然の再生可能エネルギーに注目が集まっているのですが、小水力発電は他の再生可能エネルギー(太陽光、風力など)と比較して設備利用率(100%運転を続けた場合に得られる電力量の比率)が高く、発電原価も安いのが特徴です。
むろん、課題もあります。水利権や環境に関する法的規制をクリアするのが意外に難しいこと、地元漁協を含めて河川と共に生きてきた地域の人々の合意と参加が不可欠なこと、そして何よりも資金調達が隘路(あいろ)となることがあります。しかし、筆者の友人で関西広域小水力利用推進協議会理事(事務局長)の里中悦子さん(伏見区在住)は、「食糧とともにエネルギーの自給がなければ今後の日本を考えることはできない」と、小水力発電による“限界集落”克服にもユメをはせます。里中さんは、この運動の原点を自らのマンション管理組合の活動に求め、また、ペシャワール会・中村哲医師のアフガニスタンでの取り組みを教科書にしています。前者では住民一人一人が賢くなって、管理会社などの言いなりにならないこと、後者では、中村医師がアフガンと日本にある伝統的な水利技術を用い、アフガンの人びとと協働している事実、つまり、自力自闘の作風を文化として共有することの大切さを里中さんは“合わせ鏡”にしているわけです。
小水力発電はまさに、地域の、地域による、地域のための開発ですが、やがては、自分の、自分による、自分のための発電になる可能性も秘めています。たとえば、小水力発電の先進地・オーストリアでは、一家に1台の小水力発電機が今では必ずしも珍しくないそうです。筆者にとっても、クリーン・エネルギーの地産地消・自産自消は、“脱原発・脱化石燃料”への非常に説得的な道筋であるように思われます。(八木晃介花園大学名誉教授・元毎日新聞記者=社会学)=次回は11月30日
http://mainichi.jp/articles/20161109/ddl/k26/070/460000c
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