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2016/08/23

急流に展開する小水力発電の効果、全国2位のエネルギー包蔵量を生かす【スマートジャパン】

2016年8月23日掲載
古くから水力発電が盛んな富山県には流れの急な川が多く、年間を通して大量の雨や雪が膨大な水力エネルギーをもたらす。現在も川やダムのエネルギーを生かして、小水力発電の導入プロジェクトが活発に進んでいる。水量に合わせてさまざまなタイプの発電設備が相次いで運転を開始した。
[石田雅也,スマートジャパン]

 富山県は南側に標高3000メートル級の立山連峰がそびえる一方、北側の富山湾の海底は1000メートル以上の深さがある。その間の高低差4000メートルの地形が全国でも有数の水力エネルギーを生み出す。高い山から流れる川は急な場所が多く、黒部川をはじめ治水用や発電用のダムが数多く造られてきた。
 県内で稼働中の水力発電所が供給する電力量は年間に100億kWh(キロワット時)を超えて、47都道府県の中で最大だ。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して280万世帯分にのぼり、富山県の総世帯数(39万世帯)の7倍に匹敵する。さらに水力エネルギーの包蔵量(利用可能量)は岐阜県に次いで第2位で、まだ利用可能なエネルギーが30億kWh以上も残っている。
 新たに取り組んだ水力発電の代表的な例が「片貝別又(かたかいべつまた)発電所」である。県の東部を流れる片貝川は流れが急なことで知られている。川の上流から約1キロメートルの導水路を敷設して、下流にある発電所まで水を送り込む。この方式で水流の落差は298メートルに達する。
 発電能力3000kW(キロワット)で2015年11月に運転を開始して、2016年4月から4500kWに引き上げた。年間の発電量は1830万kWhになり、一般家庭の5000世帯分に相当する。最大で毎秒1.8立方メートルの水量を発電に使うことができる。特に春の融雪期に水量が増加する。
 この中規模な水力発電所は北陸電力が建設・運転する。一方で関西電力が小規模な水力発電所を2015年11月に稼働させた。関西電力は「クロヨン」で有名な「黒部川第四発電所」をはじめ、富山県内に数多くの水力発電所を運転している。新たに稼働した「出し平(だしだいら)発電所」は関西電力が所有するダムの直下に建設した。
 ダムから下流にある2カ所の大規模な水力発電所に水を供給するほかに、下流の自然環境を守るため維持流量を放流している。この維持流量を生かして、37メートルの水流の落差で発電する仕組みだ。ダムの壁面から発電所までを水圧鉄管でつなぎ、最大520kWの電力を供給できる。
 年間の発電量は171万kWhを想定していて、一般家庭の480世帯分に相当する。設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は38%で、小水力発電の標準値60%と比べると低い。維持流量が大幅に変動して発電量が変わるためだ。出し平発電所では流量に合わせて発電機の回転速度を変えながら安定して運転できるシステムを導入した。

  古い水車を更新すれば発電量が増える

 小水力発電の取り組みは農業用水路にも広がる。東部の朝日町を流れる「小川用水」には、2016年7月末に完成したばかりの小水力発電所がある。川の右岸を流れる用水路から発電所まで、700メートルにわたって導水管を敷設した。水流の落差は12メートルになり、最大で190kWの電力を供給できる。
 年間の発電量は166万kWhを見込み、一般家庭の460世帯分に相当する。発電した電力は全量を固定価格買取制度で北陸電力に売電して、地域の土地改良施設の維持管理費にあてる方針だ。発電能力が200kW未満の買取価格は1kWhあたり34円(税抜き)で、年間に5600万円の売電収入になる。
 農業用水路の水量も季節によって変動する。小川用水発電所が導入した水車発電機は、水流を取り込む入り口の部分で流量を調整できる仕組みだ。このタイプの水車発電機は保守が簡単なことから、農業用水路で水量の多い場所に適している。
 富山県内では古い水力発電所の水車を新しいものに交換して、発電能力を増強する取り組みも進んでいる。1962年に運転を開始した発電能力1万kWの「奥山発電所」では、2015年10月に水車を更新して発電能力を300kW引き上げた。これで年間に250世帯分の電力を増やすことができる。
 北陸電力は水力発電所の新設と設備更新を通じて、年間の発電量を2008年度から2020年度までに1億kWh拡大する計画を推進中だ。すでに2016年度内に目標を達成できることが確実になり、2020年度の目標値を1億3000万kWhに修正した。一般家庭の使用量に換算して3万6000世帯分の電力が増える。
 富山県では固定価格買取制度がスタートした2012年よりも前に稼働した水力発電所が多い。それでも新たに買取制度の認定を受けて運転を開始した中小水力発電の規模は全国で10番目になった。加えて太陽光発電とバイオマス発電の導入量が徐々に増えてきた。

アルミ廃棄物から水素も作る

 太陽光発電では富山湾に面した富山新港で2016年3月にメガソーラーが運転を開始している。港の一角を占める7万平方メートルの用地に2万枚の太陽光パネルを設置した。発電能力は4.5MW(メガワット)で、年間に約500万kWhの電力を供給できる。
 富山新港が立地する射水市(いみず)では木質バイオマス発電所も稼働中だ。地元のグリーンエネルギー北陸が発電能力5.8MWで2015年5月に運転を開始した。年間の発電量は3900万kWhを見込んでいて、1万世帯分を超える電力を供給できる。
 燃料の木質バイオマスは周辺地域の森林で発生する間伐材などを年間に約7万トン利用する計画だ。県の森林組合連合会と長期の供給協定を締結して、安定した調達体制を構築した。さらにグリーンエネルギー北陸が100%出資して木質チップの製造会社も運営している。
 このほかに再生可能エネルギーのユニークな試みとして、アルミ系の廃棄物から水素を製造するプロジェクトが進んでいる。富山県内の有力企業が共同で設立したアルハイテックがNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を受けて2014年から取り組んできた。2016年4月には検証用のプラントが稼働して、周辺の工場から排出するアルミ系の廃棄物を使って水素の製造に着手した。
  検証プラントでは廃棄物からアルミを分離して、アルカリ溶液と反応させて高純度の水素を発生させる。すでに1時間あたり2キログラムの水素の製造に成功して、今後は最大5キログラムまで製造能力を拡大する予定だ。燃料電池車の走行距離に換算して700キロメートルに相当する水素を1時間ごとに製造できるようになる。
 アルミ系の廃棄物は紙パックや強化プラスチック製品などに付いているアルミニウムを利用可能だ。原料が生物由来ではないためにCO2フリーの水素ではないが、廃棄物の再資源化で水素エネルギーを生み出せるメリットは大きい。検証プラントで実用性を確認したうえで、アルミ廃棄物を排出する全国各地の工場に展開していく。

http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1608/23/news034.html

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