2016/03/11
2016年3月11日掲載
出力が100キロワット以下の小規模な「マイクロ水力発電」をめぐる動きが、県内でも熱を帯び始めている。水の流れで水車を回して発電する設備が昨年の津波町に続き、年内には魚沼市でも稼働。メーカー各社は新たな機器の開発に注力している。国は再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度を見直し、安定した発電が見込める中小水力などの普及を促す姿勢をみせており、水資源が豊富な「農業県」の新潟で新たな収益事業として取り組むケースが今後増えそうだ。(臼井慎太郎)
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◆地域の自己財源
水の流れを調節する水門機器やバイオガス発電機などを手掛ける長岡市の環境機器メーカー、大原鉄工所は出力が20キロワットまでの水力発電設備を販売する態勢を整えた。今後3年程度で10基の販売を目指している。
市の補助金を活用して平成26年に5キロワットの設備を試作し、昨年1月から同市柿町で実証試験を実施。落差のない水路でも効率良く発電ができるのが特長といい、自動的に水車を引き上げたり水の流れをせき止める機能も取り入れた。
同社の試算によると、5キロワットの設備で80%の稼働率を保てば、買い取り制度による年間の売電収入は約120万円。農業用水を供給する施設が各地で老朽化していることも踏まえ、環境営業一課の中野学課長は「施設の補修や更新などの際に『地域の自己財源』として導入できる上、災害時の非常用電源としても役立つ」とアピールする。
産業用機器などを製造する新潟市東区のナビックは、流量を調整できる水門を一体化して発電の安定性を高めた機器を開発し、南魚沼市姥島新田の農業用水路で5キロワットの設備の実験に取り組んでいる。
28年度中には、水車に流入する落ち葉やゴミを取り除く機能を備えながらも価格を抑えた「汎用(はんよう)型」を開発したい考え。エンジニアリング事業部の諸橋政之課長は「小水力発電の電力を電気自動車に充電して農地に運び、電動草刈り機などに供給するといった活用方法も期待できる」と話す。
◆再エネの地産地消
県によると、農業用水を活用した運転・建設中の小水力発電設備は、実験用を除いて県内で計7カ所。このうち出力が最も大きいのは、新発田市にある2900キロワットの発電所だ。
マイクロ水力は、昨年12月に津南町で稼働した39キロワットの雑水山第二発電所が県内第1号。今年9月以降には、地域の農家などでつくる魚沼市土地改良区が72・8キロワットの設備を同市池平で整備する。年間発電量は約100世帯分の消費電力を賄える約53万キロワット時を見込む。東北電力に売電し「用水路など農業水利施設の維持管理に収入を充てたい」(担当者)という。
市町村や農業の生産基盤を整備する土地改良区が農業用水を発電に利用する際の手続きを簡素化するなど、国は再生エネの「地産地消」を後押ししている。
とはいえ、現状では設備の導入には1基当たり2千万円程度もかかり、一層の規制緩和を求める声は少なくない。農業用水を発電用に1年間を通じて使う際には、水を流すために新たな権利の取得を迫られるケースもある。
天候に左右される太陽光に比べ、小水力は規模が大きくなくても安定した電源となる。未利用の水資源が持つ高い潜在力を引き出し地域振興に結びつけるには行政や農業関係者、企業などの連携が欠かせない。
http://www.sankei.com/region/news/160311/rgn1603110017-n1.html
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