林業振興の一環として地元の森林組合が積極関与する「グリーン発電会津」の発電所=会津若松市
農林水産省の主導でことし5月、「農山漁村再生可能エネルギー法」が施行された。過熱する再生エネ市場を横目に法理念は、 再生エネ施設の野放図な整備に 警鐘を鳴らし、地域社会との調和を訴える。理念に共鳴する全国の農山漁村では、再生エネを「目的」ではなく「手段」にした地域再生の取り組みが始まってい る。
<仕分けに載る>
政府の行政刷新会議は2012年11月、農水省の「農山漁村活性化再生エネモデル事業」(17億円)を事業仕分けの俎上(そじょう)に載せた。事業は「経済産業省による再生エネ発電の固定価格買い取り制度との二重支援だ」と指摘された。
それから2年がたち、状況は一変した。
再生エネ施設は太陽光を中心に急増。対応限界を超えた東北電力など電力5社は再生エネ事業者からの契約受け入れ中断を表明。経産省は制度の抜本見直しに着手せざるを得なくなった。買い取り制度を商機と捉えていた事業者に動揺が広がっている。
<合意形成 重視>
一方、農水省幹部は「当時の政策は間違っていなかった」と述懐する。こうした思いを反映して農山漁村再生エネ法は、あえて条文に「基本理念」を挿入。政府提出の法律としては極めて珍しい構成になった。
農山漁村再生エネ法の骨格を成すのは、地域の課題解決を地元住民に委ね、そのためにエネルギーや資金が必要なら再生エネという手段がある、と提示している点だ。
再生エネ施設整備を優先した乱開発にくぎを刺し、地域住民の合意形成に重きを置く。事業者には、売電収入のほか運転維持費などの支出面でも可能な限り地域へ利益を還元するよう求めている。
<働き掛け強化>
さらに、これらを実現する仕組みとして市町村、事業者、農林漁業者、住民らで構成する協議会の設置を奨励した。
制度の見直し議論では、買い取り価格を引き下げるため、入札制など競争原理の導入が取り沙汰されている。これでは農山漁村での小規模再生エネ事業は淘汰(とうた)されかねない。
危機感を募らせる農水省再生エネグループは「地域活性化という再生エネ普及の本来の目的を忘れないでほしい」と訴える。農山漁村でも事業の継続が担保されるよう関係機関への働き掛けを強める考えだ。
◎各地の事例
投機的ブームとは一線を画し、地域の課題解決や資源発掘に取り組む過程で再生エネルギー活用にたどり着いた事例を紹介する。
<グリーン発電会津(会津若松市)>
地元の森林組合と木質バイオマス発電の燃料供給体制を組む。山林を管理しながら間伐材を提供する組合に売電益を還元する。
<那須野ケ原土地改良区連合(栃木県那須塩原市)>
小水力発電で電気を土地改良施設へ供給。余剰分を売電し、利益を農業用水路などの維持管理費に充当する。
<石徹白(いとしろ)地区地域づくり協議会(岐阜県郡上市)>
過疎集落の住民がNPOを設立して小水力発電を導入。休眠していた農産物加工施設に電気を供給し、規格外の高糖度トウモロコシでケーキなどを作って6次産業化を実現した。
<高知県梼原(ゆすはら)町>
風力発電の収入を町の環境基金に積み立て。基金から森林所有者に間伐交付金を補助し、里山を保守する。
<テイクエナジーコーポレーション(熊本県菊陽町)>
休眠地を有する集落が、応募の中から地域振興の提案に優れた太陽光発電事業者をパートナーに選定。事業者は借地料のほか農産物のブランド化や加工品開発に協力し、売電収入の一部を集落に還元する。
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201411/20141104_62014.html