2014/07/29
エネルギー列島2014年版(16)長野:小水力発電で全国1位をキープ、農業用水路や砂防ダムでも水車を回す
2050年までに再生可能エネルギーを900MWまで拡大する計画の長野県では、太陽光・小水力・バイオマスの3本立てで導入量を増やしていく。特に小水 力発電は全国1位の導入量を誇り、2050年には発電量で太陽光を上回る見込みだ。国や県、村と民間企業も連携して水力資源の活用に取り組む。
[石田雅也,スマートジャパン]
長野県内には大小を合わせて200カ所に迫る数の水力発電設備が稼働していて、発電能力を合計すると160万kWを超えている。東京・中部・関西 の3電力会社と長野県の企業局が運営する水力発電所が大半を占める。この膨大な規模の水力発電に加えて、新たに太陽光・小水力・バイオマスによる発電設備 を2050年に向けて拡大させる計画を推進中だ(図1)。
計画通りに進むと、2030年には既存の水力発電と新規の再生可能エネルギーだけで県内の電力需要を100%カバーすることができる。さらに 2050年には太陽光・小水力・バイオマスを合わせて90万kW(=900MW)の規模に拡大して、需要を大幅に上回る供給力を火力にも原子力にも依存し ない形で実現する狙いだ。
2050年の時点では太陽光が60万kW、小水力が14万kW、バイオマスが11万kWの順になる。このうち小水力発電の設備利用率(発電能力に 対する実際の発電量)は標準で60%を超えて太陽光発電の5倍以上になることから、発電量では小水力が最大の電力源になる可能性が大きい。
長野県の中部を流れる梓川(あずさがわ)の川岸では、国営の農業用水路を活用した「中信平(ちゅうしんだいら)小水力発電所」が2013年6月か ら稼働している。梓川から周辺の田んぼに水を供給するための用水路に取水口を設けて、そこから取り入れた水流で発電する仕組みだ(図2)。
農業用水路は傾斜が緩やかなために、水流の落差は小さい。そこで取水口から下流の発電所までの距離を長くとって、7.3メートルの落差を作り出した。さ らに「S型チューブラ水車」と呼ぶタイプの水車発電機を採用して、水流の落差を生かしやすい構造の設備にした(図3)。
こうして水車発電機の中を毎秒 11.0m3/sにのぼる水が流れて、499kWの電力を作ることができる。年間の発電量は340万kWh になり、一般家庭で950世帯分の電力使用量に相当する。発電した電力は中部電力に売電して、農業用水路の設備維持費の軽減に役立てる狙いだ。
長野県内には県営の水力発電所が14カ所にある。治水用に造ったダムの水流を生かしたものが多く、1979年に運転を開始した「奥裾花(おくすそ はな)発電所」もダムの直下に設置した水力発電所の1つだ。落差53メートルの水流で1700kWの電力を供給する能力がある。
この発電所の隣に「奥裾花第二発電所」を新設する計画が進んでいる(図4)。既設の取水管を利用する方法で980kWの発電が可能になる想定だ。年間の発電量は557万kWhになり、売電収入は1億6100万円を見込んでいる。
発電所の維持管理に年間で6900万円かかるため、想定する収益は9200万円である。固定価格買取制度を適用できる20年間の累計では18億 4000万円の収益を得られる見通しだ。建設費の7億7000万円を差し引いても、20年間に10億円以上の利益を稼ぎ出すことができる。長野県にとって は貴重な収入源になる。
小水力発電の取り組みは県ばかりではなく、規模の小さい村でも始まっている。長野県の北東部にある人口7000人の高山村だ。村内にある「高井砂防ダム」を改造して小水力発電所を建設する。
砂防ダムには水だけではなく土砂が大量に溜まっている。そのためダムの堰堤に孔を空けて取水設備に水を取り込み、設備内の沈砂池で土砂を取り除いてから、ダムの直下にある水車発電機まで水を送り込む(図5)。
水流の落差は36メートルで、発電能力は420kWになる。運転開始は2015年9月の予定だ。年間の発電量は270万kWhを想定している。一般家庭で750世帯分に相当する規模になり、高山村の総世帯数(約2400世帯)の3割をカバーすることができる。
この発電事業は電力コンサルティング会社の日本工営が高山村と共同で運営する体制をとる。県が管理する砂防ダムを利用して、官民連携で地域の再生可能エネルギーの開発に取り組む計画だ。
これまでに固定価格買取制度の認定を受けた設備の規模では、長野県の小水力発電は全国でも第1位である(図6)。新たに建設中のプロジェクトが県内各地に広がって、当分のあいだトップの座が揺らぐことはなさそうだ。