2018/08/20
2018/8/16掲載
山に囲まれた岐阜県飛騨市の数河地区。JAひだは、同地区の58戸の住民が立ち上げた(株)数河未来開発と共同で、小水力発電所を運営する。
農家で同社の代表を務める山村吉範さん(71)は、勢いよく流れる農業用水を誇らしげに見つめ、覚悟を語る。「売電のお金で地域を立て直すんだ。俺らの代で古里を終わらせるわけにはいかない」
売電収入を用水路の改修や耕作放棄地の再生、祭りの復活などの集落費に充て、農山村再生を目指す。JAは高齢化率7割を超す同地区の心強いパートナーだ。
同地区は、豊富な農業用水を活用して発電で地域ビジネスを興す構想の実現を10年以上模索してきた。2012年に再生可能エネルギーの新たな買い取り制度が始まり、県の事業が整備されたことが追い風になったものの、住民だけでは申請手続きや初期投資など対応が難しかった。
このため、14年に山村さんらが、日頃から付き合いもあって話しやすかったJAに相談。JAは地域の思いを受け、発電所「JAひだ・数河清流発電所」を運営することにした。
総工費の1億5400万円の55%は県が助成し、残りはJAが負担。JAが施設の整備や電力会社との調整をし、同社は施設の維持管理や地域振興を担当する。発電能力は約50キロワットで、年間約1000万円の売電収入を同社とJAでおよそ半分ずつに分け合う仕組みだ。JAは減価償却に充て、同社は管理費や集落の活動費などに使う。
住民はJAの決断に感謝し、これまでJAと接点のなかった10戸以上が准組合員になり、同地区は全戸が組合員になった。
地域コミュニティーがあってこその農業とJA。小水力発電の誕生をお年寄りから子どもまで喜ぶ地域を見たとき、“未来”とJAの役割を感じた」と小水力発電を担当するJA営農企画課の森下好課長は思いを語る。
12年7月に始まった再生可能エネルギーの固定価格買取制度。経済産業省によると、18年3月末までに制度を活用した電力量は全国1907億5000キロワット、計6兆7000億円を上回るほどに広がっている。ただ、初期投資がネックで、大手企業発の発電が目立つのが実態だ。農山村を舞台にした地産地消エネルギー発電の広がりに向け、省庁横断で議論を進めている。農水省によると、同地区のような、地域の会社とJAが共同運営する発電所は全国的に珍しいという。
同地区は54ヘクタールの農地のうち、耕作放棄地は6ヘクタール。売電収入で荒れ地再生に向けたエゴマやタケノコ栽培を進める他、祭りの復活なども視野に入れる。今秋からは新規就農者の呼び込みも始める。
「JAなしには実現できなかった。みんな心から感謝している。地域の挑戦にJAが必要なんだと真剣な思いを伝えたから、応えてくれた」と山村さん。JAを支えに、地産地消発電で古里に夢を描く。