2014/07/22
山梨県では2050年までに県内の電力需要をすべて再生可 能エネルギーで供給する「地産地消戦略」を推進中だ。中心になるのが太陽光と水力である。高い山が連なる山間部では官民連携や市民共同出資による小水力発 電所が次々に運転を開始した。全国でも先進的な取り組みとして注目を集める。石田雅也,スマートジャパン
3000メートル級の山々に囲まれた山梨県は再生可能エネルギーの宝庫でもある。富士山のふもとになる県の南部や、南アルプスが連なる西部には、数多く の水力発電所が稼働中だ(図1)。現在でも県内の電力需要(60億kWh)の約3割を水力発電でまかなうことができる。
さらに2050年までに水力発電と太陽光発電を拡大して、電力需要の100%を再生可能エネルギーで供給する構想を進めていく。県内に広がる農業用水路を生かした小水力発電の導入が活発に始まっていて、その実現方法は全国の自治体から注目を集めている。
小水力発電は他の再生可能エネルギーと比べて採算性が低くなりがちだ。山梨県では小水力発電所を効率的に建設する方法として官民連携プロジェクト に取り組んでいる。代表的な事例が北西部の北杜市(ほくとし)で2012年に運転を開始した3カ所の小水力発電所である(図2)。隣の長野県で水力発電事 業を展開する三峰川(みぶがわ)電力と北杜市がパートナーシップを組んで、共同で開発計画を推進してきた。
このプロジェクトで最大の特徴は、北杜市が運営する既設の小水力発電所と同じ農業用水路に3カ所まとめて建設したことにある。水車発電機も同じタ イプのものを設置して、建設・運営コストを削減した(図3)。3カ所とも山間部を流れる農業用水路の50メートル前後の落差を生かして、 200~230kWの電力を供給することができる。
既設の発電所を含めて4カ所の発電の仕組みは同じだ。最初に設置した市営の「北杜市村山六ヶ村堰水力発電所」の設備を見ると、用水路の高い地点に 取水口を設けて、そこから地中に水圧管路を埋設する方法をとっている(図4)。用水路の低い地点まで水圧管路でつないで、発電所の中にある水車発電機に水 を送り込む。発電に利用した水は用水路に放流して戻すため、下流の水量には影響を及ぼさない。
市営と民営の4カ所の小水力発電所を合わせると、発電能力は970kWになり、年間の発電量は690万kWhに達する。一般家庭で1900世帯分 の電力使用量に相当する規模になる。これだけで北杜市の総世帯数(1万7000世帯)の1割以上の需要をカバーすることができる。
山梨県内の小水力発電では、もう1つ注目を集めたプロジェクトがある。南東部の都留市(つるし)を流れる家中川(かちゅうがわ)で2006年から 始まった市民共同発電だ。「元気くん」と名付けた小水力発電設備が3カ所で動いている(図5)。最も新しい「元気くん3号」は2012年に運転を開始し た。
1号~3号で利用する水流は最大でも3.5メートルの落差しかなく、発電能力を合計しても46kWと小さい。それぞれ別のタイプの水車発電機を 使っていて、年間の発電量は合わせて20万kWhである。発電した電力は市庁舎で利用するほか、夜間や休日の余剰電力を東京電力に売電している。
1号と2号の建設費の一部は市民からの出資でまかなった。出資金は国債の利率に0.1%を上乗せして5年後に償還する。合計4060万円の募集に 対して、約1億円の応募が集まり、再生可能エネルギーに対する市民の関心を高める効果も大きかった。すでに1号は2010年度に償還が完了して、2号も 2014年度に完了する。市庁舎の電気料金の削減分と売電収入で、十分に元がとれる構造になっている。
北杜市と都留市の小水力発電所は固定価格買取制度が開始される以前に運転を開始した。その後に買取制度の対象に認定された設備は2013年末の時 点では1つもなかったが、2014年に入ってから2カ所が認定を受けた。今後も小水力発電の認定設備が着実に増加して、太陽光発電と合わせて県内の供給率 を押し上げていく(図6)。