2016/10/11
2016年10月11日掲載
滋賀県では2030年までに再生可能エネルギーとコージェネレーションで電力の自給率を30%以上に高める構想を推進中だ。琵琶湖の周辺に太陽光発電と小水力発電を拡大して災害に強い社会を作り上げる。市民の出資による太陽光発電や、農業用水路に展開する小水力発電が続々と運転を開始した。
[石田雅也,スマートジャパン]
関西電力の原子力発電所が集中する福井県の若狭湾から、滋賀県の北部までは10キロメートルほどしか離れていない。滋賀県民の原子力発電に対する危機感は根強いものがある。県内に再生可能エネルギーの発電設備を拡大して、原子力の依存度を引き下げる取り組みを加速させている。
滋賀県が2016年3月に策定したエネルギービジョンのテーマは「原発に依存しない新しいエネルギー社会の実現」である。県を挙げて節電を推進して電力の消費量を減らすのと同時に、再生可能エネルギーとコージェネレーション(熱電併給)の電源を増やして自給率を高める構想だ。
震災前の2010年には県内の電力消費量の3分の1を原子力が担っていたが、その分を2030年までに節電効果で削減していく。並行して再生可能エネルギーとコージェネ・燃料電池による分散型の電源を拡大することで、県内で消費する電力の30%以上を自給できるようにする。この目標を達成できれば「原発に依存しないエネルギー社会」になる。
再生可能エネルギーのうち最も有望なのは太陽光発電だ。琵琶湖の周辺に広がる平野部は日射量が多く、太陽光発電に適している。県内で最大の「滋賀・矢橋帰帆島(やばせきはんとう)メガソーラー発電所」が琵琶湖の湖畔で2015年11月に稼働した。
立地する場所は琵琶湖を埋め立てた人工島の一部で、広さは9万6000平方メートルもある。京セラグループが県の公募を通じて建設した。全体で3万3000枚にのぼる太陽光パネルを設置して、発電能力は8.5MW(メガワット)に達する。
年間の発電量は930万kWh(キロワット時)を見込んでいて、一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して2600世帯分の電力を供給できる。発電した電力は全量を関西電力に売電する。滋賀県を含めて関西電力が近畿・北陸・中部の2府7県に供給する電力になって、その中には福井県の若狭地域も含まれる。
再生可能エネルギーに対する関心が高い滋賀県では、市民による太陽光発電所の建設も活発だ。市民が出資して学校や公共施設の屋根に小規模な発電設備を導入する。年間の発電量は1カ所で10kW前後の規模が多い。このような市民共同発電所が2016年3月の時点で県内27カ所に広がっている。
琵琶湖の南側にある湖南市では、2カ所の市民共同発電所が2016年3月に稼働した。1カ所は温泉施設の屋根に設置した「コナン市民共同発電所参号機」で発電能力は16kW、もう1カ所は集会施設の屋根に設置した「四号機」で24kWの発電能力がある。
湖南市では県内の市民共同発電所の第1号になった「壱号機」(4.4kW)と「弐号機」(105kW)を合わせて、4カ所で約150kWの規模になっている。年間の発電量は約40世帯分にとどまるものの、災害時でも電力を供給できる体制を市民の力で作り上げた意義は大きい。
農業用水路の1メートルの落差で発電
再生可能エネルギーを利用した小規模の発電設備は農業用水路にも拡大中だ。琵琶湖の北側に広がる湖北地区を流れる用水路には、「落差工(らくさこう)」と呼ぶ水流の速さを調整するための階段状の構造が随所に設けられている。この落差工が生み出す小さな水力エネルギーを使った発電設備が相次いで運転を開始した。
「5号落差工」に設置した15kWの発電設備が2015年7月に稼働したのに続いて、「10号落差工」の10kWの発電設備が同年9月に稼働した。それぞれ1メートル程度の水流の落差を利用して発電する。年間の発電量は2カ所を合わせて14万kWhを見込んでいる。一般家庭の使用量に換算すると約40世帯分に相当する。
この小水力発電プロジェクトは大阪ガスグループが建設して運営する。発電した電力を固定価格買取制度で売電する一方、農業用水路を管理する地元の土地改良区に用水路の使用料を支払うスキームだ。民間企業が実施する小水力発電で固定価格買取制度の対象になった全国初のケースである。土地改良区にとっては用水路の維持管理費を低減できるのと同時に、災害時には独立の電源として利用できるメリットがある。
湖北地区の農業用水路では、滋賀県が主導する小水力発電所の建設プロジェクトも進んでいる。用水路の上流にある1~4号落差工に発電所を建設する計画だ。水流の落差は同様に1メートル程度で、1カ所あたり11~15kWの電力を供給できる。2017年3月までに運転を開始する予定で、4カ所を合わせた年間の発電量は26万kWhを想定している。一般家庭の72世帯分の電力に相当する。
落差工に設置する水車発電機には、水流の落差が小さくても効率的に発電できるクロスフロー水車を選択した。円筒形の水車が回転して発電する仕組みで、縦軸と横軸の2種類がある。最初に稼働した5・10号落差工には縦軸の水車、1~4号落差工には横軸のクロスフロー水車を導入する。
ダムや川の水流でも小水力発電を増やす
滋賀県が実施する小水力発電プロジェクトの中には、ダムを利用した規模の大きいものもある。琵琶湖の東側10キロメートルほどの場所にある「姉川(あねがわ)ダム」で建設工事が進んでいる(図8)。県が運営する治水用のダムで、季節に合わせて農業用水を供給する目的にも使われる。
高さが80メートルあるダムの堤体の上部から発電所まで、放流管を敷設して水を取り込む方式だ。水流の落差は50メートルに達する。この大きな落差を生かして発電能力は900kWになる。2016年12月に運転を開始する予定で、年間の発電量は470万kWhを想定している。一般家庭の1300世帯分に相当する電力を供給できる。
同じ姉川の支流では、ひと足早く「足俣川(あしまたがわ)小水力発電所」が2016年9月に運転を開始した。川の上流に設けた取水口から林道に沿って水圧管を埋設して、下流にある発電所まで水を送り込む。この間に水流の落差は93メートルになる。
ダムと比べると水量は少なく、発電能力は194kWである。年間の発電量は147万kWhを見込んでいて、一般家庭で400世帯分に相当する。100メートル近い大きな落差を生かせることから、水車発電機には大規模な水力発電所で一般的に使われている横軸フランシス水車を採用した。
この小水力発電所は全国にメガソーラーを展開するクリハラントが建設・運営している。滋賀県内の河川に導入した小水力発電設備では初めて固定価格買取制度の適用を受けた。年内に稼働予定の姉川ダムの小水力発電所と合わせると、立地する米原市の総世帯数(1万4000世帯)の1割以上をカバーできる。
バイオマスの熱をマンゴーの栽培に生かす
滋賀県の再生可能エネルギーは太陽光と小水力に加えて、バイオマス発電の導入量も増えてきた。固定価格買取制度の認定を受けて運転を開始したバイオマス発電設備の規模は全国で27位に入っている。
琵琶湖の東側に広がる近江八幡市では、不燃ごみなどの廃棄物を処理する「近江八幡市環境エネルギーセンター」が2016年8月に運営を開始した。1日に76トンにのぼる廃棄物を焼却しながら、980kWの電力を供給できる。
発電した電力は施設内で消費したうえで、年間150万kWhの余剰分を売電する。さらに焼却熱を利用して温水を作り、隣接する公園に建設中の温水プールに供給する予定だ。プールを収容する棟には太陽光発電設備と蓄電池を設置して、災害時には避難所としても利用する。
バイオマスでは地元の製材会社がユニークな試みを始めた。2015年に滋賀県で初の木質バイオマス発電所を稼働させた山室木材工業が、工場から出る廃材を燃料に利用してマンゴーの栽培に取り組んでいる。
廃材をチップに加工して、木質バイオマスボイラーで燃やして温水を作る。その温水を木で組み上げた3棟の温室に送って、温風を供給しながらマンゴーを栽培する仕組みだ。木造の温室を製造・販売する事業と合わせて、農作物の生産・販売にも乗り出した。
温室を設置した長浜市の石田町は戦国時代の武将・石田三成の生誕地でもある。栽培したマンゴーは「みつなり」のブランド名で2016年7月に初出荷した。貴重な森林資源を無駄なく利用しながら、高付加価値の農作物を生産する新しい経済循環モデルに挑む。
滋賀県が打ち出したエネルギービジョンは原発に依存しない、災害に強くて環境負荷の少ない地域社会を目指している。同時に地域内の経済を循環させて、地方創生につなげる狙いもある。官民の連携で再生可能エネルギーが広がり、目指す社会の実現に一歩ずつ近づいてきた。
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1610/11/news025.html
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