2016/08/02
2016年8月2日
山梨県では豊富な水量と日射量を生かして水力発電と太陽光発電の電力が増えている。2030年に電力の自給率を70%まで高める計画で、小水力発電の導入にも積極的に取り組む。超電導方式の蓄電システムや純水素型の燃料電池を再生可能エネルギーと組み合わせて電力の地産地消を拡大していく。
[石田雅也,スマートジャパン]
太陽光発電を中心に再生可能エネルギーを拡大してきた山梨県が新たに「やまなしエネルギービジョン」を2016年3月に策定した。すでに県内の電力の自給率は30%を超えているが、2030年度に燃料電池やコージェネレーションと合わせて70%まで引き上げる目標を新ビジョンで掲げた。
県全体で消費する電力量を2030年度までに17%削減しながら、発電量を2倍以上に増やす方針だ。発電量のうち半分以上を水力発電が占める。水力で供給する電力は従来のダムを利用した大規模な発電所が多いが、今後は小水力発電を増やして発電量を上積みしていく。短期間に10カ所程度を開発する計画のもと、砂防ダムや農業用水路を利用した小水力発電を県内各地で推進する。
先行して開発した小水力発電所のモデルが2カ所ある。1カ所は砂防ダムからの流水を利用した「大城川(おおじろがわ)発電所」で2014年9月に完成した。もう1カ所は農業用水路に設置した「浅尾発電所」が2015年4月に運転を開始している。それぞれタイプの違う水車発電機を使って電力を供給する。
大城川発電所は砂防ダムの上部に樋(とい)を設けて水を取り込むユニークな方法を採用した。樋から砂防ダムの下流側にある水車発電機まで導水路で水を送り込む。この方法で水流の落差は13メートルになって、最大で49kW(キロワット)の電力を供給できる。
年間の発電量は38万kWh(キロワット時)を見込んでいる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して100世帯分に相当する。利用できる水量が最大で毎秒0.56立方メートルに限られることから、水車発電機には低水量でも効率よく発電できる「横軸チューブラ水車」を採用した。
少ない水量で発電量を増やす工夫
もう一方の浅尾発電所に導入した水車発電機は、幅の狭い農業用水路にも設置できる「縦軸スクリュー水車」である。用水路の段差がある場所を利用して、水車に垂直に水を取り込む構造になっている。この方法だと用水路の改造が少なくて済み、簡単な工事で小水力発電設備を導入できるメリットがある。
水流の落差は2メートルしかなく、水量は最大で0.95立方メートルにとどまる。少ない水量と低い落差でも発電できるように、水車と発電機のあいだには回転数を増やすための増速機が付いている。小さな水力でも12kWの電力を作り出す仕掛けだ。年間の発電量は4万5000kWhになって、13世帯分の電力を供給できる。
こうした県の取り組みと並行して、民間企業による小水力発電の実証プロジェクトも進んでいる。関電工が中心になって2014年12月から「葛野川(かずのがわ)マイクロ水力発電所」を運転中だ。
この小水力発電所は「葛野川ダム」の直下にある。ダムの堤体の上部から82メートル下の水車発電機まで、高い落差で水を流し込んで発電する(図8)。発電に利用できる水量は農業用水路よりもはるかに少なくて、毎秒0.25立方メートルである。それでも82メートルの落差を生かして発電能力は160kWになり、年間の発電量は73万kWhに達する。一般家庭の使用量に換算して200世帯分である。
葛野川ダムは東京電力が運転する揚水式の「葛野川水力発電所」(発電能力120万kW)で利用する上下2つのうちの下部ダムで、貯水量は1150万立方メートルにのぼる。夜間の余剰電力を使って大量の水を上部ダムに引き上げて昼間に発電する一方、ダムの下流の自然環境を守るために常に少量の水を流し続けている。この環境維持用の水流を小水力発電に利用する。
水車発電機には国内の水力発電で最も多く使われている「横軸フランシス水車」を採用した。水車の素材には一般的なステンレスの代わりにアルミ青銅合金を使って、耐久性を維持しながらコストの低減を図る狙いだ。小水力発電に適した高効率で低コストの水車を開発・運用することがプロジェクトの目的の1つになっている。
太陽光の電力で超電導の円盤を回す
山梨県の再生可能エネルギーは小水力発電と合わせて太陽光とバイオマスが増えている。固定価格買取制度の認定を受けた発電設備の規模では中小水力が全国で4番目になった。太陽光ではメガソーラーを含めて、運転を開始する発電設備が着実に拡大してきた。 現時点で県内最大のメガソーラーは山梨県と東京電力が共同で運営する「米倉山(こめくらやま)太陽光発電所」である。発電能力は10MW(メガワット)で、固定価格買取制度が始まる以前の2012年1月に運転を開始した。このメガソーラーの構内では2015年9月に、リニアモーターカーと同様の超電導方式による蓄電システムの実証試験が始まっている。
直径が2メートルもある円盤状のフライホイールを使った次世代の蓄電システムとして国内外の注目を集めている。炭素繊維強化プラスチック製のフライホイールを超電導の状態で高速に回転させることによって、電力のエネルギーを運動のエネルギーに変換して蓄電する方式だ。蓄電容量は100kWhまで可能で、最大300kWの電力を充電・放電できる。
このフライホイール蓄電システムを使って、天候によって変動する太陽光発電の電力を安定化させる試みだ。メガソーラーに隣接して1MWの太陽光発電設備を実証試験用に建設した。太陽光発電の出力の変動に合わせてフライホイールが回転して、電力を出し入れすることができる。再生可能エネルギーの地産地消を推進する山梨県が世界に先がけて取り組む壮大な実証試験である。
ほかにも再生可能エネルギーの電力を有効に活用するシステムの実用化が進んでいる。米倉山太陽光発電所のPR施設でもある「ゆめソーラー館やまなし」では、小水力発電と太陽光発電、さらに水素を組み合わせたシステムが稼働中だ。
小水力と太陽光で発電した電力を蓄電装置に貯めながら、EV(電気自動車)用の急速充電器に電力を供給するほか、ゆめソーラー館の照明にも利用する。それでも電力が余ると、水を電気分解して水素を発生させてタンクに貯蔵しておく。水素は必要に応じて燃料電池に送り、再び電力を作って館内に供給することができる。
山梨県が2030年度に目指す電力の自給率70%の時点では、太陽光の生み出す発電量が全体の2割以上を占める見込みだ。日中しか発電できない太陽光の電力を効率よく地産地消するためには、余剰電力を活用する仕組みが欠かせない。将来を見据えた先端プロジェクトの役割はますます重要になっていく。
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1608/02/news023.html
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