2016/05/23
2015年5月23日掲載
●農業用水や上水道管路 豊富な雪解け水活用
主要国首脳会議に先立つ15~16日に環境相会合が開催中の富山県では、再生可能エネルギーの小水力発電が普及している。
豪雪地帯の立山連峰から豊富な水が流れ出し、富山湾に注ぐ地形ならではのエネルギー活用に、新たな可能性も開けてきた。
●自前の発電所
豊富な雪解け水が農業用水から取水され、水田地帯の地下に埋設された長さ約900メートルの管路に流れ込む。その先には、滑川市の早月川沿岸土地改良区が昨年6月に完成させた早月川沿岸第一発電所があった。
「多くの業者が水力発電をやりたいと言ってきたが、自前でやることにした」。改良区の事務局長、稲場秀雄さん(71)は胸を張った。
「小水力」発電と呼ばれ、最大出力は530キロ・ワット。924世帯の年間電力使用量と同量の電気を作る能力がある。1キロ・ワット時29円で北陸電力に売電し、年約5000万円の収入を見込む。工事費など事業費約9億円の8割を国、県、市の補助で賄い、残りは農協から借り入れた。5年後には返済の見通しが立っている。
稲場さんは「農業用施設の耐震化や更新には莫大ばくだいな金がかかる。農家の負担は大きく、売電収入でそれを減らしたい」と話す。
同土地改良区はこれ以外にも、二つの大きな水力発電所を保有し、1980年に、全国の土地改良区に先駆けて設立した全額出資の電力会社が運営している。
●伝統的な水活用
現在、富山県内の小水力発電所は、計30か所を数える。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度の運用が始まった4年前から普及に弾みがつきだした。
富山県内72の土地改良区が加盟する連合会の調査では、小水力発電の適地は119か所あることが分かった。同県は2014年4月に「再生可能エネルギービジョン」を策定し、最大出力1000キロ・ワット以下の小水力発電の導入促進を盛り込んだ。2021年度までに45か所の整備を目指す。
富山県内では伝統的に水力を農作業などに活用してきた歴史があり、連合会指導監の大森裕一さん(68)は、「富山の農家は水のエネルギー利用に慣れている」と語る。
大森さん自身も、かつて自宅の庭に渦巻き型の水車があり、精米やもちつきの動力にしていた記憶があるといい、「小水力発電で得られた収入は、ミソなどの加工品の開発や保存にも役立てたい」と意気込む。
●発祥の地
国などの研究も、富山から始まった。県小水力利用推進協議会長を務める富山国際大学の上坂博亨うえさかひろゆき教授(59)によると、科学技術振興機構の研究者らが、水利ネットワーク懇談会を発足させたのは08年のこと。国土交通、農林水産、環境、経済産業の各省と県、大学、電力会社、土地改良区の担当者が富山県に集まり、議論を重ねた。
法制度が順次改善されていく。農業用水を利用した発電収入は従来、排水機場など関連施設の電気料金の支払いに限られたが、2011年には施設の維持管理費にも使えることになり、複雑だった水利権の申請手続きも簡易になった。
●進む技術革新
普及拡大に伴い、技術的な工夫や改善も進んだ。
富山市の常西用水土地改良区で昨年に完成した「西番(にしのばん)小水力発電所」(最大出力30キロ・ワット)は、水車が可動式で、水路の水を止めずに修理や手入れができる。豪雨時には自動的に水車が水路から上がり、危険を回避する。
最近では最大出力100キロ・ワット以下のマイクロ水力発電の研究が熱を帯び、設置場所も農業用水から上水道の管路へと広がってきた。
「ダイキン工業」(大阪市)は、超小型の発電機を開発。昨年は環境省の委託を受け、富山県南砺市にある水道事業所の施設で10か月間の技術開発・実証事業を行った。担当の沢田祐造専任部長(60)は、「上水道事業者は全国で約1500。全国津々浦々の上水道を有効活用できれば大きなエネルギーになる」と話す。(河野博子)
◆水力発電としてすでに利用している水力が多い県
〈1〉富山県〈2〉岐阜県〈3〉長野県〈4〉新潟県〈5〉福島県
(資源エネルギー庁2014年3月現在のデータによる)
http://www.yomiuri.co.jp/eco/feature/CO005563/20160516-OYT8T50000.html
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