2016/04/24
2016年4月24日掲載
東日本大震災、東京電力福島第1原発事故から5年1カ月以上がたつが、福島の温泉街は風評などで大きなダメージを負い、いまなお傷跡は深い。福島市の土湯温泉もその一つだが、「産業観光」で町の再生を目指す企業「元気アップつちゆ」のユニークな取り組みに復活のヒントを探った。(黒沢通)
再生エネで町づくり
土湯温泉は震災前は16軒の旅館があり、1日に2300人を収容できた。震災後の休廃業で現在は11軒が営業、収容可能人数も約1500人まで減った。
被災で打ちひしがれる土湯に「元気アップつちゆ」が設立されたのは平成24年10月。加藤勝一(かついち)社長(67)は「途方に暮れる地域を何とか復興させ、再生したいとの思いから始まった」と振り返る。
出資は湯遊(ゆうゆう)つちゆ温泉協同組合が90%の1800万円、NPO法人土湯温泉観光まちづくり協議会が10%の200万円出資。復興と再生、魅力ある地域の構築が設立の狙いだ。
核となる事業は、(1)温泉を活用したバイナリー発電事業、(2)砂防堰堤(えんてい)を利用した小水力発電事業、(3)国と福島市と連携する都市再生整備計画事業-の3つだ。
バイナリー発電は源泉段階のお湯や蒸気の熱を利用して水より低い沸点の液体(ペンタン)を蒸気化させ、発生した蒸気でタービンを回す仕組み。入浴に不要の余分な熱を使うため、湯量や成分に影響はないのも魅力だ。
「土湯温泉16号源泉バイナリー発電所」は27年11月に完成。最大出力は400キロワット(一般家庭750世帯分の消費電力に相当)、売電額は1億円を見込む。商用バイナリー発電事業は東日本では初めてだ。
また、砂防堰堤を利用した小水力発電所(27年4月完成)は出力140キロワットで売電額は3千万円だ。
加藤社長は「再生可能エネルギーを通じた新たな町と観光地をつくる。売電収入の一部は復興に活用する方針だ」と話す。発電施設周辺には、再生可能エネルギーの体験学習施設を建設し、来場者が見学しやすい環境を整える。
「新しい光、見てほしい」
土湯温泉への観光客などの入れ込み数は震災前23万人だったが、24年度は7万人にまで落ち込んだ。26年度は18万人まで回復したものの、「震災前に戻すだけではじり貧。発電施設の視察が1万人を超え、産業観光が新たな観光資源となった。選択は間違っていなかった」と加藤社長は言い切る。3年後に宿泊20万人、日帰り10万人の計30万人の入れ込みが目標だ。
今年3月には都内で開かれた地熱資源開発を促すイベントにも参加。温泉とバイナリー発電事業を有機的に結びつけた観光の形を提案した。
今年は3年にわたって行われた大型観光イベント「ふくしまデスティネーションキャンペーン(DC)」の集大成の「アフターDC」が6月まで開催されている。温泉は「花」「食」ともに主役の一つだけに期待は膨らむばかり。加藤社長が言う。
「『観光』はその国の光を見ることと言われる。ぜひ、全国から土湯温泉を訪れ、地域に芽生えた新しい『光』を見てほしい」
http://www.sankei.com/region/news/160424/rgn1604240020-n1.html