2016/04/15
2016年4月15日掲載
起伏の激しい岐阜県の山間部を流れる農業用水路を改修して新しい小水力発電所が運転を開始した。64メートルの大きな落差を生かすためにチェコ製の水車発電機を使っている。農業用水路は大正時代に造ったもので、自治体と民間企業が連携して発電事業による地域の活性化に取り組む。
[石田雅也,スマートジャパン]
岐阜県の東部に位置する中津川市の山中を「平石用水路」が流れている。大正時代に造った農業用水路は老朽化が進み、改修が必要になっていた。長さが918メートルに及ぶ水路を改修して、「落合平石小水力発電所」が4月1日に運転を開始した(図1)。
発電に利用できる水流の落差は64メートルもある。流量は最大で毎秒0.25立方メートルと少ないが、それでも126kW(キロワット)の発電が可能だ(図2)。年間の発電量は95万kWh(キロワット時)を見込んでいて、一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算すると265世帯分の電力になる。発電所がある落合地区の総世帯数(1350世帯)の2割をカバーできる。
小水力発電用に横軸クロスフロー型の水車発電機を導入した。鮮やかな赤い色をしたチェコ製である。円筒形の水車が水平方向の横軸で回転して発電する仕組みだ。水車発電機を納入した日本小水力発電によると、水流の落差が10~100メートル程度で、流量が少ない場合に適している(図3)。
落合平石小水力発電所の設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)を計算すると86%と極めて高い。小水力発電の標準的な設備利用率は60%程度で、それと比べて1.4倍の高効率で運転できる。平石用水路の流量が年間を通じて大きく変動しないことが理由の1つだ。
発電した電力は全量を固定価格買取制度で中部電力に売電する。発電能力が200kW未満の小水力発電の買取価格は34円(税抜き)になるため、年間で3200万円の収入を買取期間の20年間にわたって見込める。
水路の改修は2通りの方法で実施した(図4)。1つの方法はU字フリュームをベンチフリュームに入れ替えて、横幅を500mm(ミリメートル)から1000mmへ2倍に広げた。ベンチフリュームは高さよりも横幅のほうが長い構造の溝で、さほど強度を必要としない農業用水路には多く使われている。
もう1つの方法は山林の中に古い石積みで造られている区間をモルタルで全面塗布して補強した。モルタルはセメントに砂を混ぜた建築材料で、砂利も加えるコンクリートと比べると高価だが、塗布面が滑らかになって水が流れやすくなる。
このほかに農業用水路の流量を安定させるためのヘッドタンク(上部水槽)を鉄筋コンクリートで全面的に改修した(図5)。小水力発電では水路を流れるごみが水車発電機のトラブルを引き起こすことがある。その防止策として、ごみを除去する除塵機をヘッドタンクに据え付けた。
さらに水車発電機まで水を送り込む水圧管路を敷設したほか、水車発電機を収容する建屋を新設して、小水力発電所が完成した。このように既存の農業用水路を改修して小水力発電に活用すれば、全体の建設費を低く抑えることができる。と同時に水路を共用することによって、農業用水路の維持管理費の軽減にもつながる。
発電所を建設・運転する事業者は飛島建設とオリエンタルコンサルタンツの2社による共同体である(図6)。両社が建設・運転費用を折半で負担する。地元の中津川市は開発の許認可などで支援した。落合地区は水路の使用許可を与える代わりに、補修・清掃点検業務を請け負って収入を得ることができる。
落合地区は江戸時代に東京と京都をつなぐ中山道の「落合宿」として栄えた場所でもある。小水力発電事業に参画したオリエンタルコンサルタンツは落合宿の観光資源を生かして、地域の活性化に取り組んでいく方針だ(図7)。電気自動車の導入や木質バイオマス燃料の製造などを通じて環境保全や防災対策にも役立てる。
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1604/15/news033.html