2014/12/16
山口県には大小を合わせて483本の川が流れている。流域には数多くのダムが設けられて水力発電が盛んだ。それでも利用していない水流が多く残っているこ とから、小水力発電が広がってきた。水流の落差が小さい場所にサイフォン式の取水設備を採用するなど、独自の試みに注目が集まる。
[石田雅也,スマートジャパン]
山口県の企業局は県内に11カ所の水力発電所を運転中で、すべての発電能力を合計すると5万kWを超える(図1)。年間の発電量は1億8000万kWhに達して、一般家庭の使用量に換算すると5万世帯分の電力を供給できる能力がある。
その中で最も規模が大きいのは、1975年から運転を続けている「新阿武川(しんあぶがわ)発電所」である。中国山地から日本海まで流れる阿武川の中流 に設けた大きなダムの直下にあって、発電能力は最大で1万9500kW(19.5MW=メガワット)におよぶ(図2)。
こうした大規模な水力発電所は大量の水を一気に流して発電するため、下流の水量が不安定になってしまう。そこで発電所の下流に小規模なダムを造 り、一定の量を常に放流して自然環境を保護する必要がある。新阿武川発電所の下流には「相原ダム」が設けられているが、そこから放流する水は流すだけで発 電には利用していなかった。
というのも相原ダムには大きな高低差がなく、水力発電には向かない構造になっているからだ。新たにサイフォン式の取水設備を導入することにより、 約4メートルの落差を作って発電が可能になった。山口県の企業局が22年ぶりに新設した「相原発電所」は2014年5月に運転を開始した(図3)。
発電機には縦軸のポンプ逆転水車を採用して、最大で82kWの電力を供給することができる。年間の発電量は33万kWhを見込み、一般家庭で90 世帯分に相当する。固定価格買取制度を通じて1kWhあたり34円(税抜き)で売電できるため、年間に約1100万円の収入を得られる見通しだ。発電設備 の建設費は1億3500万円かかった。運転維持費を低く抑えれば、買取期間の20年以内に投資を回収することができる。
農業用水路には簡易型の発電機
相原発電所を皮切りに、小水力発電の導入プロジェクトが県内の各地に広がってきた。第2弾は工業が盛んな宇部市内を流れる薬師川(やくしがわ)の 水流を利用した「宇部丸山発電所」である。瀬戸内海の沿岸地域に工業用水を供給するために造られたダムの中に取水塔があって、その直下に発電設備を導入す る(図4)。
このダムでは取水塔の内部に設置した2基のバルブを使って取水量を調整している。そのうちの1基を発電機に置き換えて、取水量を調整しながら発電できる仕組みを取り入れた。発電機は水力発電で最もポピュラーな横軸のフランシス水車を採用した。
ダムの水面から水車まで19メートルの落差を利用して、最大で130kWの電力を供給することができる。年間の発電量は60万kWhの想定で、一般家庭で170世帯分になる。運転開始は2015年度中を予定している。
小水力発電はダムだけではなくて、農業用水路にも導入できる。山口市内の農家が簡易型の発電設備を2014年9月に初めて設置した(図5)。わず か8.5キログラムの小さな装置で5kWの電力を作ることができる。近隣のLED街路灯などに電力を供給する。同じ簡易型の小水力発電装置は県内の各地で 導入の検討が進んでいる。
山口県の再生可能エネルギーは小水力発電に続いて、最近では太陽光発電も増えてきた(図6)。日射量が豊富な瀬戸内海に面した宇部市の工業地帯で は、宇部興産が所有する30万平方メートルの遊休地に、発電能力21メガワットの「ユーエスパワー発電所」が2014年7月に運転を開始している(図 7)。県内の沿岸部には広い遊休地が数多くあり、今後さらにメガソーラーが増えていく見込みだ。