2014/09/26
九州電力川内原発の再稼働問題に揺れる鹿児島県で、既存の河川や水路を利用した小水力発電所を、県内に40基建設しようという産官学プロジェクトが進んでいる。今月、その第1号となる「船間(ふなま)発電所」の完成記念式典が肝付町であった。鹿児島県には利用が難しい急峻(きゅうしゅん)な地形が多いが、それが速い水流を生み出し、小水力発電にはうってつけなのだという。ハンディを逆手に取った新たな発電形態への挑戦を探る。
ロケット打ち上げで有名な内之浦(肝付町)から、さらに車で30分ほど。発電所がある船間は、深い緑に囲まれた静かな地区だった。一帯は、海岸から崖がせり上がる急峻な地形だ。発電所は、馬口川から取水した水を高低差205メートルの送水管(直径60センチ)で一気に流し落とし、その水圧でタービンを回す仕組み。出力995キロワットで、年間2千世帯分の電力が賄える。
建設したのは、2012年に地場商社の南国殖産などの出資で設立された「九州発電」(鹿児島市)。国の再生エネルギー固定価格買い取り制度を活用し、出来た電力は、国の設定価格の1キロワット時29円より「やや高めの値段」(九州発電)で、東京の特定規模電気事業者(新電力)に売電。最初の1年の売り上げは2億円の見込みだ。送電には九電の送電線を用いる。
◆地元に経済効果も
九州発電の設立の母体になったのが、県内の首長や企業、大学研究者が11年に発足させた県小水力利用推進協議会だ。鹿児島県を国内最大の小水力発電地帯にする目標を掲げて結成された。今後は毎年、小水力発電所を5~6基着工し、18年度までに5万世帯分を賄う計画。総事業費は240億円に上り、川内原発が停止して県内経済が低迷する中、原発に代わる経済浮揚策としての期待もある。
肝付町によると、船間発電所建設工事の下請けや資材調達には地元業者が優先され、町には既に6億円の経済効果がもたらされたという。自動運転のため雇用こそ生まないが、町には毎年、固定資産税が入る。発電所の眺望の良さから、観光や環境学習にも活用していく考えだ。「ロケット基地(内之浦宇宙空間観測所)と並ぶ町の観光スポットに育てたい」。永野和行町長は声を弾ませる。
ただ、着工前の手続きの煩雑さが思わぬ障害になっている。船間発電所の着工は12年12月の予定だったが、山間部のため地権者の確定に手間取り、13年4月にずれ込んだ。第2号の重久発電所(霧島市)も地元4漁協との水利権交渉が長引き、着工は13年7月になった。許認可も複雑で、5~6省庁にまたがるケースもあり、県内で建設が具体化したのは他にまだ3基にとどまる。「手続きがこんなに面倒とは思わなかった」。九州発電の八板博二三(ひろふみ)総務部長はため息をつく。
◆九州には適地多く
鹿児島に限らず、九州には山間部の河川が多く、小水力発電の適地が多い。資源エネルギー庁によると、買い取り制度で認定された九州の出力3万キロワット未満の小水力発電施設数は熊本県が9、鹿児島と宮崎が各7で、岐阜の15、長野の13、静岡の9に次ぐ。福岡にも4カ所あるという。16年の家庭用電力小売り自由化でさらに拡大が予想される。
石原伸晃前環境相も出席した6日の式典で、鹿児島県の伊藤祐一郎知事は「再生可能エネルギーの中でも小水力発電は今後、ベース電源として重要な位置を占めるに違いない」と強調した。小水力は、太陽光や風力のように天候に左右されない。九州発電の古田功社長も「小水力は24時間安定して発電できるのが強みだ。一つ一つは小さいが、数が増えればまとまった電力を供給できる」と力を込めた。
問題はどう普及していくかだ。風や太陽光と違って、水力には水利権など多くの利害関係がつきまとう。推進協の池畑憲一会長は「国が本気で小水力を進めるのなら、建設前の手続きの簡略化を進めてほしい」と注文した。「小水力」をよく知らない一般市民の認知度向上が鍵になりそうだ。