2014/08/14
富山県は険しい地形と豊かな水量が特色で、水力エネルギーの利用可能量では全国で第2位だ。電力会社が運転する大規模な水力発電所の周辺には、用水路を活 用した小水力発電所が続々と動き出している。温泉地では用水路を使って発電した電力でバスを走らせる地産地消の取り組みも始まった。
[石田雅也,スマートジャパン]
全国47都道府県のうち、水力発電だけで県内の電力需要の大半をカバーできるところは富山県しかない。すでに2011年度の時点で、県内の需要の 84%に相当する電力を水力発電で生み出している。その大半は北陸電力と関西電力の水力発電所だが、自治体を中心に小水力発電所が県内各地に勢いよく広 がってきた。
富山県は水力エネルギーの利用可能量が全国で2番目に多い(図1)。そのうち約8割のエネルギーは開発済みで、残りが2割ある。すべてを開発でき れば、水力発電だけで県内の需要を満たすことが可能だ。これから再生可能エネルギーを拡大する第1の重点施策として、「水の王国とやま 小水力発電導入促進プロジェクト」を推進している。
このプロジェクトの目標は県内23カ所で稼働している小水力発電所の数を、7年後の2021年度までに45カ所へ倍増させることだ。水力エネル ギーは河川のほかに、県内各地をめぐる農業用水路にも大量に存在する。小水力発電の開発余地は大きく残っていて、現在でも5カ所で建設計画が進んでいる (図2)。
農業用水路を活用した代表的な事例は、県西部の南砺市(なんとし)で2013年3月に運転を開始した「山田新田用水発電所」に見ることができる。 農村地帯を流れる川から引き込んだ用水路の水が再び川へ戻るまでのあいだに、25メートルの落差を生かして発電する構造になっている(図3)。
この用水路は周辺の水田に水を供給するため、稲作の時期にあたる4月から9月まではほぼ全量を水田に送る必要がある。それ以外の季節は大半の水が不要になる。そこで余剰分の水流をヘッドタンクと呼ぶ貯水槽を使って分岐させて、発電所に水を送るようにした。
発電能力は520kWあって、年間の発電量は257万kWhを見込む。一般家庭で約700世帯分の電力使用量に相当する。季節によって利用できる 水量が大きく変動するために、設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は小水力発電では低めの56%になる。それでも発電した電力の売電収入によっ て、用水路の維持管理費を軽減できるメリットは大きい。
こうした農業用水路を活用した小水力発電所は、古くから水力発電が盛んな県東部の黒部市でも広がってきた。黒部市では2012年に「宮野用水発電所」の運転を開始したのが最初の取り組みだ。この発電所は水を取り込むまでの経路に特徴がある(図4)。
元をたどると、温泉地で有名な宇奈月温泉の近くにある「宇奈月ダム」に行き着く。そのダムからの水流で関西電力の「宇奈月発電所」(発電能力2万 kW)が電力を作った後に、山の中腹に設けられた水槽まで水が運ばれていく。そこから3本の水路に分かれて、うち2本は別の発電所へ、残りの1本が宮野用 水になって近隣の水田へ水を送り届ける。
この用水路の途中に宮野用水発電所を設置した。水槽からの約50メートルの落差を利用して、最大で780kWの電力を供給することができる。年間 の発電量は530万kWhになり、約1500世帯分の電力使用量に相当する。しかも設備利用率は78%と極めて高い。もともと農業用水路として4月から 11月までの水量を多く確保できていたため、年間を通じて発電に使える水量がさほど増減しない利点がある。
黒部市では宇奈月温泉でも小水力発電所が稼働している。温泉街を流れる防火用水路の途中に水車発電機を設置して発電する方式だ(図5)。毎秒0.04立方メートルの少ない水量から、10メートルの落差を使って2.2kWの電力を作ることができる。
年間の発電量は1万5000kWhで、一般家庭の4世帯分の電力使用量にしかならない。わずかな電力だが、温泉街を循環する電動バスに電力を供給 するほか、発電所の周辺にある防犯灯の電源として利用している。規模は小さいながらも、エネルギーの地産地消を実践して、環境に優しい「エコ温泉」をア ピールするのに役立てる狙いだ。
富山県の再生可能エネルギーの導入量を見ると、新たに固定価格買取制度で認定を受けた発電設備の規模は全国でも2番目に少ない(図6)。今後は小 水力に続いて風力や太陽光、さらに地域の森林資源を生かしたバイオマス発電も増える見込みだ。既存の水力発電に新しい再生可能エネルギーの電力が加わっ て、火力や原子力に依存しないエネルギー供給体制を着実に実現していく。
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1408/12/news024.html