2017/06/26
2017年6月26日掲載
1912年、岐阜県の揖斐川上流に水力発電所を開発し、揖斐川電力として設立したイビデン。以来100年、水の位置エネルギーを利用したクリーンなエネルギーを創り続けてきた。現在は、長い歴史の中で培ってきた発電のノウハウを活かし、近年では太陽光発電や小水力発電も展開。イビデンのエネルギー事業に取り組む模様を取材した。
創業の歴史は水力発電にあり
プリント配線基板やプラスチックパッケージなどの電子関連事業や特殊炭素製品などのセラミック事業が主力のイビデン。その創業の歴史は、水力発電事業に始まる。
1912年の創業以来、揖斐川上流に東横山、広瀬、川上の3つの水力発電所を開設し、現在、トータルで27.9MWを発電している。
イビデンでは100周年を機に、水力発電所の改修工事を計画的に行い、発電出力の維持向上に努めている。2015年には、東横山水力発電所の発電効率向上に向けた改修を完了した。
同社の水力発電所はFIT基準を満たすものだ。2013年3月に大垣北事業所敷地内に電力会社との送電網を接続するための施設を設け、余剰電力を電力会社に供給できる体制を整備。各水力発電所の発電分を売却用として運用し、地域の電力需要者へ提供することでCO2排出量の削減に貢献している。
取締役 専務執行役員 髙木隆行氏は、「私どもの水力発電は止水ダムを作るのではなく、隧道(発電所まで水を送るためのトンネル)で水を運んで落とします。そうした観点でも、環境にだけでなく、人にも優しい発電と言えます」と話す。
同社の事業所構内では、4基のコージェネレーションシステムも稼働しており、自家消費の電力として使用している。
発電のノウハウを太陽光に活かす
イビデンは環境への取り組みとしてFIT以前から大垣市の本社と大垣中央事業場の屋上に太陽光発電システムを設置している。本社が47kW、中央事業所が600kWで、自家消費している。
「FIT制度ができ、これまで行ってきた環境活動と事業を一体化できるのではと、子会社のイビデンエンジニアリングの事業として、太陽光に本格的に取り組むようになりました」(髙木氏)。
自社グループの建物屋上や遊休地を活用し、FITによる太陽光発電所を開設し、現在19カ所が稼働。2017年7月に運転開始予定の20カ所目を合わせ、合計出力は約12MWとなる。
太陽光においては、設計から建設、メンテナンスまでを一貫して行うことができる。技術の基盤となっているのは、水力100年の歴史で培ってきた発電のノウハウだ。
2016年3月には、太陽光パネル7680枚を使用した日本最大級の水上フロート式太陽光発電所を、イビデン衣浦事業場貯木場に建設。水上に設置するフロート架台は、軽量で腐食に強いポリエチレン製のものを自社開発したという。
独自の取り組みとしてはヤギによる雑草の除草もある。
「近所に家が少なく、ヤギの安全が確保できる設置場所に導入しています。1~2週間の放牧で、あっという間に雑草がなくなります。近所の方がヤギに餌をやる姿も見られ、癒し効果もあります」(髙木氏)。
ヤギによる除草を導入したイビデン神戸事業所の発電所では、太陽光パネルに保護カバーを取り付け、ヤギが飛び乗らない高さに設定。電線はできるだけ地中に埋設し、ヤギの飲み水となる井戸も設置している。
太陽光発電については今後、FIT価格の低下もあり、自社での発電というより他社へ技術を供給しながら設計開発していく事業への展開を考えていく方針だ。
(続く……。全文は転載元より会員登録のうえ閲覧できます。)
2017/06/24
2017年6月24日掲載
再生エネルギーの普及促進のため、東吾妻町が進めてきた「箱島湧水」を活用した小水力発電施設が完成し、22日に通電式があった。民間資金や技術などを活用する「PFI方式」を県内の自治体で初めて採用し、約60年ぶりに箱島湧水での発電が復活した。
町によると、箱島湧水は鳴沢川の起点で、湧水量は日量約3万トン。1985年に「名水百選」に選ばれている。年間を通じて水量がほぼ一定しているほか、最大有効落差が82メートルあることから、1910(明治43)年、民間の発電所が設置され、戦後、東京電力が継承。老朽化で56年に廃止されるまで稼働した。
今回の発電事業にあたり、町は建設会社「ヤマト」(前橋市)が100%出資する子会社と契約を締結。設計・建設のほか、20年間にわたる運営業務はヤマト側が行う。建設事業費は約3億8000万円。
発電施設は町に無償譲渡され、年間約4500万円の東電への売電収入のうち1200万円程度が施設使用料として町に支払われる。
町としては、建設・運営費の負担がないうえ、運営上のリスクを避けられるメリットがあるという。町の担当者は「災害時の非常用電源確保にも利用できる」と話している。【吉田勝】
2017/06/23
2017年6月23日掲載
太陽光発電で作った電気が2019年から売電できなくなるという問題がクローズアップされている。関係者の間では「太陽光発電の2019年問題」といわれる。
せっかく多額の費用を投じて太陽光発電設備を導入しても、電力会社に売れないとなると、大問題である。
FIT制度により電力会社に買取義務
太陽光発電は、再生可能エネルギー電力の柱として、政府が積極的に導入を支援してきた。そのテコになったのが、2012年7月からスタートした再エネ固定価格買取制度(FIT制度)である。FIT制度は、太陽光発電をはじめとして、風力発電、地熱発電、小水力発電、バイオマス発電の5種類の再エネ電力を、電力会社に一定の価格で買い取ることを義務付けた制度だ。この制度は、固定価格買取制度と呼ばれるように、年度ごとに決められた価格によって、その後、10年~20年間にわたって、電力会社が買い取らなければならない。
太陽光発電などの再エネ事業者にとっては、きわめてうま味のあるビジネスである。具体的にいえば、住宅用太陽光発電(10kW未満)に関しては、FIT制度が始まった2012年には、買取価格はkWh当たり42円とされた。この価格は、家庭用電気料金単価が1kWh約24円なので、その2倍近い価格である。
電力会社から買う電気を、家庭で使わずそのまま太陽光発電の電気として売れば、黙っていても儲かるというわけだ。
ただそんな儲けは許されるはずもなく、家庭の場合は、家庭で消費する以上に発電された太陽光発電を電力会社が買い取る場合に限るという条件つきである。つまり、住宅用太陽光発電の場合は、「余剰電力」の売電が対象である。
再エネ導入拡大で国民の負担が増大
太陽光発電を買い取る電力会社にしてみれば、電力料金よりはるかに高い価格で買い取るわけだから、大きな負担となる。
しかし、そこ、FIT制度の目的(電気を利用する国民すべての負担で再エネ電力の導入拡大を図る)ということからして、電力会社が買い取る費用は、「再エネ賦課金」の形で、電気料金に上乗せされることになっている。そのため、太陽光発電の導入を拡大すればするほど、買取費用が増え、再エネ賦課金の増大によって、国民負担が増えることになる。
FIT制度が始まった2012年度で電力会社の買取費用は、約2500億円だったのが、2016年度では約2兆3000億円と、実に10倍近い急増ぶりだ。標準家庭の月額負担額に換算すると、2012年度の66円から2016年度では675円と、ほぼ10倍の増加だ。買取費用は今後も増え続け、2030年には3.7兆円~4.0兆円に達すると想定されている。
2020年以降買取価格は市場価格並みに
国はそうした国民負担の増大に危機感を抱き、FIT制度を見直し、2017年4月から新たな改正FIT法として施行した。
改正点はいくつかあるが、発電単価に関しては、買取価格の引き下げと、数年先の買取価格の目標を設定した点が大きなポイントである。それによると、住宅用太陽光発電に関しては、2017年度の買取価格はkWh28円に、さらに2018年度には26円、2019年度には24円と順次引き下げる方向を示した。
そして2020年度以降、早期に売電価格が電力市場価格並みとする目標を示した。つまり、電力会社の買電価格は今後とも引き下げられ、2020年以降は市場価格(卸電力市場での取引価格)での取引が原則になるというわけだ。
FIT制度は2012年から始まったが、実は、住宅用の余剰電力買取制度は、2009年11月からスタートした。この時の買取価格は、何と、kWh当たり48円だった。太陽光発電がそれほど普及していなかった時期で、国としても高い買取価格設定によって、住宅用太陽光発電の普及を急ぐ必要があるとの判断からだ。
2019年以降買取義務終了の太陽光発電が登場
余剰電力買取制度が始まった2009年時点で、太陽光発電を設置したご家庭では、買取期間が満期となる10年目の2019年に、電力会社の買取義務終了時期を迎えることになる。2019年以降、毎年、余剰電力買取義務終了の太陽光発電が登場することになるわけである。
余剰電力買取が終了した後、太陽光発電導入者はどうなるかというのが、2019年問題の核心である。再エネ政策を所管する経済産業省は、「電力会社の買取義務はなくなりますが、電力会社との相対取引で、市場価格による売電、買電は可能です」と答えている。
2019年以降の住宅用太陽光発電については、設備設置者として考えられる選択肢は3通りある。一つは、売電をせず、自家消費だけで太陽光発電を利用する(その場合、送電線に流れた太陽光発電電力は無駄になる)。2番目は、相対取引で買電してくれる電力会社を探す。(電力の全面自由化で、買電義務終了を機に買電を中止する電力会社が現れることも予想される。
原子力発電事故賠償などで経営の厳しい東京電力や太陽光発電の受け入れ余力の小さい九州電力などはその範疇に入るとみられる)。3番目は、蓄電池によって余剰電力を蓄え、夜間などに利用する―の方法である。
これらの選択肢のうち、国の再エネ政策との関連で対象となり得るのは、自家消費を中心とした利用法である。蓄電池は現在、kWh約22万円だが、国は2020年に9万円以下をめざしている。蓄標準世帯の場合、3kWhが一般的なので、約27万円の費用負担となる。また、国は、ZEH(ゼロエネルギー住宅)の普及に向けた様々な支援策を講じている。ZEHは太陽光発電などによって、創エネを実施するとともに、住宅の高断熱化で、徹底した省エネを図ることで、年間光熱費をゼロに抑える住宅である。
いずれにせよ、2019年以降は、新たな太陽光発電の活用策が課題となろう。(西条誠、エネルギー・経済ジャーナリスト)
2017/06/21
2017年6月21日掲載
金沢工業大学の地方創生研究所は石川県の企業やNPO法人と協力し、豪雪地帯で知られる同県白山市の白山山麓地域に小水力発電施設「白峰まちづくり発電所」を開設した。除雪された雪を河川まで運ぶ流雪溝の水の流れを活用し、発生した電力を販売して地域活性化に役立てる。発電施設から得られたデータは再生可能エネルギーなどの研究に生かす。施設の出力は7キロワット程度といい、北陸電力に売電し年間数十万円の収入を見込む。
2017/06/15
2017年6月15日掲載
群馬県は6月13日、2016年度に実施した小水力発電の有望13地点について、地点ごとの状況に応じた小水力発電モデルを仮想し、発電電力量や売電収入、発電事業の経済性(投資回収年数)の見込みを試算した結果と、関係する法規制や協議先となる機関を調査した結果を公表した。
この「平成28年度小水力発電有望地点調査」は、県内の小水力発電導入を推進するため、民間企業等による事業化検討の一助となるよう、県内に多数ある砂防堰堤の落差を利用した小水力発電の可能性について調査を行ったもの。
今後同県では、調査結果を広く公表するとともに、事業者に対する相談や情報提供を行うなど、小水力発電の導入に向けた取り組みを支援する。
砂防堰堤2,436基の中から13地点を選定
この調査では、まず県内の砂防堰堤2,436基の中から、
・堰堤の高さが一定以上あること
・高い位置から取水できるよう満砂、またはそれに近い状態となっていること
・土石流危険渓流等に指定されていないこと
・想定した流量による最大出力が一定以上見込めること
などの条件を設定し、検討候補地として28地点を抽出した。その後、現地調査を実施し、発電所の設置スペースの有無、堰堤付近の地形の状況などを確認し、導入可能性のある地点として13地点を選定した。
この13地点については、地点毎の状況に応じた小水力発電モデルを仮想して、概算収支を試算するとともに、関係する法規制や協議先となる機関を調査した。
5地点の投資回収年数は8~20年
この13地点について、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)による価格・期間で売電した場合の概算収支を試算したところ、期間内に投資回収が見込まれたのは5地点となった。
このうち片品上流砂防堰堤では、発電モデルによる概算収支は、想定最大出力503.76kW、建築費概算費用5億2622万円、年間平均経費3525万2,000円/年、年間売電収入8454万3,000円/年と試算し、投資回収年収を8年と見込んだ。
想定投資回収年数は、2016年度時点のFITにおける売電価格と期間(20年間)を基に全額自己資金で実施した場合を想定し、投資額を回収できる年数を試算した。なお、「回収困難」の地点では、FITにおける売電期間(20年間)内での回収は困難と見込まれた。
ただし、この調査で仮想した小水力発電モデルは、堰堤上部で取水した後できるだけ堰堤に近い場所で発電、放流する設計としているため、取水位置をより上流に変えて落差を増やすなど、実施内容を見直すことで投資回収の見込みは変動すると考えられる。
13地点の小水力発電モデルは、群馬県ホームページで公表している。
調査結果の使用にあたっての注意事項
各地点における小水力発電モデルは、既存資料と現地調査に基づいて仮想したもので、概算収支は複数の仮定条件の下に試算したもの。
また、取水可能量や発電所の設置などについて、関係機関との調整・協議を済ませたものではない。実際に事業化を検討するにあたっては、事業可能性について詳細かつ具体的な調査・確認を行うとともに、必要な手続き等について関係機関に確認する必要があるとしている。
【参考】
群馬県 – 群馬県、小水力発電有望地点調査の結果について
群馬県 – 平成28年度小水力発電有望地点調査の結果について