2016/07/15
2016年7月15日
水力発電事業を行っている三峰川電力株式会社の第一・第二発電所の更新工事が完了し15日、伊那市長谷の第一発電所で竣工式が行われました。
東京に本社を置く三峰川電力は1963年から水力発電事業を行っていて伊那市に4か所、茅野市に2か所など県内外合わせて15か所に発電所があります。
伊那市長谷の第一第二発電所は運転を開始してから50年以上が経過していたことから今回設備を新しくしました。
2つの発電所の年間発電量は合わせておよそ1億8,000キロワットを見込んでいます。
一般家庭5万世帯分の年間電力消費量に相当し発電した電気は丸紅新電力株式会社に売電されるということです。
竣工式には関係者およそ80人が集まり施設の完成を祝い安全な操業を願いました。
三峰川電力では平成32年までに国内30か所での中・小水力発電所の開発を目指していて再生可能エネルギーの普及に努めていきたいとしています。
2016/06/29
2016年6月29日掲載
全国をめぐりワクワクするエネルギーの取り組みを伝えている、ノンフィクションライターの高橋真樹です。全国で始まっている自然エネルギーを活かしたユニークなまちづくりの様子は、著書『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)でも紹介しています。
今回は「自治体とエネルギー」をテーマにお伝えします。エネルギー分野の動きでは、民間企業の活躍が目立っています。動きが迅速で、斬新なアイデアも実現しやすいという理由からです。
しかし、自治体にも重要な役割があります。たとえば、民間だけが取り組んでも広がりには限界がありますが、自治体がうまいサポート体制をつくることで、地域への広がり方は断然ちがってきます。そう考えると、自治体にしかできないことが数多くあることがわかってきます。
今回は、「環境と経済の好循環」をめざして次々と画期的なエネルギー政策を進めている長野県の取り組みを紹介しながら、「自治体にできること」について考えてみます。
なぜ長野県はエネルギー政策に熱心なのか?
豊富な水の流れや好条件でふりそそぐ太陽光など自然資源に恵まれた長野県は、2015年現在、すでにエネルギー自給率が70%もあります(※1)。県はこの豊かな資源を活かし、地域経済の活性化にも結びつけようというコンセプトで政策を進めてきました。
長野県が積極的にエネルギー政策に取り組んできた理由は、単に県内に自然エネルギーの発電所を増やしたいからではありません。県は、長い議論を経て2013年に「環境エネルギー戦略」を策定しましたが、その中で、「エネルギー政策を通して、地域経済を活性化する」というビジョンを掲げています(※2)。
「地球温暖化対策として、エネルギーについて考えよう」という自治体は数多くありますが、経済と絡めているところはほかにありません。長野県はなぜ、エネルギー政策によって経済成長をめざそうというのでしょうか?
長野県に限ったことではありませんが、多くの地域では電気やガス、灯油やガソリンなど、生活にかかわるほとんどのエネルギーを地域の外から購入しています。
特に長野の冬は寒く、冬の灯油やガス代金は家計を圧迫します。エネルギーのほとんどを地域外に頼ることは、地域経済を高いリスクにさらすことにも繋がります。
長野県全体では、県内の主要産業の生産額と同じ程度のお金がエネルギーの費用として地域外や海外に出ていっています。つまり、せっかくつくった農産物などを販売して得たお金が、エネルギーを買うためになくなってしまっているのです。エネルギー輸入量の多い日本ではかなりの数の自治体がそうなってしまっています。
そこで長野県では、地域資源を活用してエネルギーを生産し、エネルギーを購入するために出ていくお金を、地域の中で循環させようという戦略を立てました。
具体的には、発電設備をつくって売電収入を得る、暖房の燃料を地域内でまかなうことで資金を循環させる、省エネ機器や省エネ住宅に投資することで光熱費を減らしながら地域の雇用を生む、といったことを実現しようというのです。
とはいえ、単に自然エネルギー設備をつくるだけでは、地域内で経済が循環するわけではありません。同じような設備をつくっても、利益の大半が地域の外に出ていく場合と、利益が地域内で循環する場合の2通りがあります。
長野県は、利益が地域内で回るように、地域の人たちが主導権を握る事業を後押ししようとしています。
※1 県内の最大電力需要(年間のうちもっとも電気を使った瞬間)に対して、再生可能エネルギー発電設備(自然エネルギー発電設備+既存の水力発電設備)の発電能力が、県内にどれだけ存在するか、その割合を見る指標です。
※2 2013年2月に策定された長野県の環境エネルギー戦略(第三次長野県地球温暖化防止県民計画)。この戦略は議論を重ね、1年半のプロセスを経てようやく策定された。
メガソーラープロジェクト事業費総額の87%が県内で循環
そのコンセプトは、県がすすめている自然エネルギー事業にも表れています。県がコーディネートして、2013年から稼働している事業が「おひさまBUN・SUNメガソーラープロジェクト」です。
これは、県の公共施設の屋根を民間企業に貸し、およそ1メガワット(一般家庭およそ300世帯分の電力)の太陽光発電を設置するものです。諏訪湖のほとりにある県の下水処理場の屋上にメガソーラーを設置した事業者は、岡谷酸素株式会社というエネルギー関連の地元企業です。
自治体が公共施設の屋根を貸し出し、太陽光発電を設置することは珍しくはありませんが、長野県は岡谷酸素にある条件をつけました。
その一つが、長野県の他の地域がモデルにできるように、技術面や運営面など事業にかかるデータやノウハウを、原則としてすべてオープンにするというものです。
また、長野県内に自然エネルギーを広めるためのネットワーク組織である「自然エネルギー信州ネット(※3)」に、売電収入の一部を提供することにもなっています。信州ネットは、岡谷酸素からの情報やデータを整理分析して、県内にノウハウをわかりやすく広める役割を担っています。
この事業では、発電所がもたらす地域への経済効果も分析しています。一般的には、一度つくってしまえばあまり手のかからない太陽光発電設備は、地域への経済効果が少ないと考えられてきました。
しかし、県の協力の元で「おひさまBUN・SUNメガソーラープロジェクト」の調査を行った立命館大学のラウパッハ・スミヤ・ヨーク教授らの研究によると、地域の外の事業者が中心になるケースと、地域内の事業者が中心になるケースとでは、地域への経済効果がおよそ2倍ほど違ってくることがわかりました。
このプロジェクトでは、関連事業のほとんどを地域内の事業者に発注したこともあって、ランニングコストも含めて事業費総額の87%が県内に回り、地域への経済効果が20年間トータルで10億円近くになるとされています。ラウパッハ教授は、地域のエネルギープロジェクトに資金を投資する価値をこのように語ります。
??ラウバッハさん 同じ金額を使うにしても、自治体が国債を購入した場合は地域経済への付加価値はほとんどゼロです。一方、地元のお金を自然エネルギーに投資すれば、資金を回収できるだけでなく、地域に新たな価値を生むことになります。
このプロジェクトは、地域内でお金を回す仕組みをつくることがいかに大切かを証明しているのです。
※3 自然エネルギー信州ネットは、市民・企業・大学と行政機関が長野県内における自然エネルギーの普及を目指す協働ネットワーク。
地域のエネルギー事業を育てるユニークな補助金制度
地域で自然エネルギー事業に取り組もうとしたとき、課題となるのがお金の問題です。実績のある事業者ならともかく、小規模な農山村の自治体や地域住民が主体になるプロジェクトの場合、ほとんどが初めて手掛けるような状態です。銀行も簡単には融資をしてくれません。
そこで長野県では、単独では資金調達が難しいような、地域に根ざした事業を対象にして、「収益納付型補助金」というユニークな制度をつくりました。これは、事業の成果が出たら補助したお金を返還してもらう制度です。補助金を出すかどうかの審査は、有識者が決めます。
事業者としては、大きな壁となる初期投資を一部補助してもらえることで、事業が始めやすくなります。また、金融機関も自治体が審査して補助金を出していることが信用となり、融資をしやすくなります。現在、この補助制度に基づいて太陽光や小水力など複数の発電所が建設中、または建設予定になっています。
一般的に自治体が出すエネルギー関連の補助金といえば、戸建て住宅の屋根にソーラーパネルを設置する際に補助することがほとんどです。この方法は、自治体として手っ取り早く成果を示せることに加え、補助金を受ける住民には喜ばれます。
しかし、このような「出すだけの補助金」では、予算がなくなれば終わりなので、広がりは限定されます。長野県は、個人の住宅ではなくもっと地域全体で自然エネルギーを増やすために、このような「地域事業を支援する」という形で補助金を使う方針にしました。
この「収益納付型補助金」の制度が始まったのは2015年度からで、成果が数字で出るまでにはしばらく時間がかかりますが、すでに想定を越える数の申請が来るなど、地域でエネルギー事業に取り組む人々に好評です。そのことからも、こうした制度が地域エネルギー事業の大きなサポートになっていることがわかります。
省エネ住宅を推奨し、発電だけでなく節電にも取り組む
発電だけではありません。長野県は、省エネについても熱心に取り組んでいます。その中のひとつとして、建物のエネルギー効率を良くする省エネ住宅を推奨することで県民の光熱費を削減し、健康の向上にもつなげようという取り組みが行われています。
「住宅のエネルギー性能」と言われてもピンと来ないと思いますが、たとえば最近の車には燃費性能、冷蔵庫には省エネ性能が表示されています。これからは住宅もそんなふうに、数値ですぐにわかるエネルギー表示をしていこうという考え方があります。
住宅のエネルギー性能を高める要素の一つは気密性と断熱です。家の気密性と断熱が悪いと、どんなにエアコンなどで暖めても、空気が外に出ていってしまって温まりません。
一般的に長野県の住宅は、断熱などの面で室内が寒いとされています。現在は光熱費をたくさん使って暖めているのですが、県の政策として住宅そのものの性能を見直し、光熱費がかからないようにしていこうという方針が掲げられています。
県はまず建築事業者に「建物の断熱性能や自然エネルギー導入の検討に必要な情報を提供してほしい」とお願いし、そこから建築主に伝えてもらうようにしています(※4)。事業者が建築主に分かりやすく説明できるよう、講習会もたびたび実施してきました。
こうした地道な取り組みを通じて、建築事業者の意識を高めることはもちろん、一般の人も自分の家のエネルギー性能を理解できるようになっていきます。
建築主にとっては、断熱材を多めに入れるなど初期投資が増えますが、光熱費を削減できるので、長い目で見ればそちらを選んだほうが得になります。また、事業者にとっても1件あたりの受注額が増えるというメリットがあります。
さらに地域で回すお金の量も増えるので、住宅とエネルギーを考えることが、地域経済にとってもプラスになります。
建物のエネルギ―性能を報告することについては、300平方メートル以上の大きな建物については、国レベルで義務化されています。しかし戸建の住宅については検討の義務さえありません。2016年5月現在、そこに取り組んでいる自治体は長野県だけです。
※4 正式には、県が新築の建物を建てる際に、建築主に対して、省エネ性能や自然エネルギー設備の導入について検討することを義務づけている(2015年4月から)。しかし、たいていの建築主は一般の人なので、県が提供した分かりやすい評価ツールを用いて、事業者が建築主に説明することになっている。
持続可能な地域に必要なのは「長期的な視野に基づく政策」
こうした具体的な活動が評価され、長野県は2016年2月に「低炭素杯2016『ベスト長期目標賞 大賞 (自治体部門)』」を受賞しました。
エネルギー政策について、以前は県の環境エネルギー課が中心的に担ってきましたが、最近では部署の枠組みを越えて意識が変わり、県庁全体の取り組みに変わってきているとのこと。環境エネルギー課企画幹(課長級)の田中信一郎さんは、この取り組みを他の自治体にも参考にしてもらえればと語ります。
??田中さん 長野県がやっていることは、長野県でしかできないことではありません。日本全国どこの自治体でもできるはずです。
面白いと思える政策があったらどんどんマネをしてもらいたいと思います。長野県も、もともとは東京都の環境エネルギー政策を参考にさせていただいています。また、環境政策と地域経済の相乗効果を生み出す仕組みについては、ドイツやオーストリアなど海外の事例にも学んでいます。
このような分野では、他の取り組みを参考にしながら、地域の実情に合わせて改良していくという姿勢がうまくいくのではないかと思います。
太陽や風などの自然エネルギー資源は、全国どこにでもあります。しかも現代社会では「不便」「何もない」と言われるところにこそ豊富に存在しています。しかし単に発電所をつくって満足してしまっては、「何キロワット発電しています」というだけで終わり、地域活性化には結びつきません。
長野県の話ですごいと思うところは安易に「手っ取り早い成果」を求めず、持続可能な地域のために何が必要か、長期的な視野に基づいて政策を進めている点です。
そしてこの取り組みは、田中さんが言うように長野以外の地域でもできることです。長野県のように地域が主体になった事業を育て、地域内のエネルギーと経済を循環させる仕組みづくりに着目すれば、今よりもっと地域のエネルギー利用が、効果的な地域活性化につながっていくようにも思います。
(Text: 高橋真樹)
高橋真樹(たかはし・まさき)
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。世界70カ国をめぐり、持続可能な社会をめざして取材を続けている。このごろは地域で取り組む自然エネルギーをテーマに全国各地を取材。雑誌やWEBサイトのほか、全国ご当地電力リポート(主催・エネ経会議)でも執筆を続けている。著書に『観光コースでないハワイ~楽園のもうひとつの姿』(高文研)、『自然エネルギー革命をはじめよう~地域でつくるみんなの電力』、『親子でつくる自然エネルギー工作(4巻シリーズ)』(以上、大月書店)、『ご当地電力はじめました!』(岩波ジュニア新書)など多数。
2016/06/23
2016年6月23日放送
伊那市長谷の農家などでつくる上伊那美和土地改良区は、長野県の土地改良区としては初めて、小水力発電施設を建設し、23日、現地で竣工式が行われました。
この日は、関係者が出席し、起動スイッチを押して竣工を祝いました。
小水力発電施設は、伊那市長谷非持に完成しました。
一昨年11月に着工し、今年3月に完成しました。
三峰川支流の鷹岩(たかいわ)砂防ダムから非持山までの13.5キロの農業用水路を使って発電する設備です。
上水槽から地下を通って発電機のある建物まで結び、13.1メートルの有効落差でスクリュー水車を回し発電します。
発電出力は最大12.2キロワットです。
建設費用は9,750万円で、90%を国・県・市が補助し、10%を上伊那美和土地改良区が負担しました。
この日は竣工式が行われ、土地改良区や施工業者などが完成を祝い、今後の運用の安全を祈願しました。
発電した電力は、中部電力に全て売電し、収入は、農業用水路や揚水ポンプ場の維持管理にあてられます。
2016/05/16
2016年5月16日
長野県中東部、八ヶ岳の西麓に位置する茅野市。東京から特急と車を利用して約2時間半、市内の蓼科高原は避暑地としても有名で、温泉施設も多い。
その高原に2011年6月、運転休止中の小水力発電所が再開した。今回紹介する蓼科発電所だ。運営を手がけるのは、大手総合商社である丸紅株式会社の子会社、三峰川(みぶがわ)電力株式会社。同県伊那市で50年以上にわたり水力発電事業を手がけるベテランである。
●発電所の再生と開発のスタンス
戦後まもなく、全国津々浦々に送配電が行き渡っていなかった頃、標高約1300mにある温泉街も電力が確保できていなかった。そこで1954年(昭和29年)、地元の蓼科開発農業協同組合(以下、組合)は、農業用水にも使われている天竜川水系の小斉(こさい)川の流れを活用した出力250kWの旧蓼科発電所を建設、電線を温泉施設などに自分たちで引いて、一帯に電力供給を始めたのである。
やがて、電力会社によって安定的に電気が供給されるようになると、当初の発電所の価値が次第に失われていく。維持管理の負担は大きくなり老朽化も進む。改修費用など到底捻出できない。50年以上にわたり地域を支えてきた発電所は、ついに2007年発電施設のトラブルをきっかけに運転休止に追い込まれる。組合としても、そのまま放置しておくわけにもいかないため、発電所の処分を三峰川電力に依頼したのである。
このことが運命を大きく変えることになる。
(続きは転載元より有料登録のうえ閲覧できます)
2016/05/04
2016年5月4日掲載
伊那市長谷の上伊那美和土地改良区(北原幸彦理事長)が非持の美和一環水路で建設を進めてきた小水力発電施設が完成し、稼働している。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度を活用し、県内では土地改として初めての取り組み。発電した全量は和泉原の揚水ポンプの電力をまかなう。
美和土地改は黒川の鷹岩ダムから非持山までの12.5キロの一環水路を管理している。水路は農閑期にも一定の水量があり、非持の水路トンネル出口に落差がある。老朽化で維持管理の費用がかさんでいるため、発電で経費削減を図る。
有効落差は12.6メートル、使用水量は毎秒0.16立方メートル、最大可能出力は12キロワット、管路延長は70メートル。1年を通じて24時間稼働する。
建物は鉄筋コンクリートの地上1階地下1階で、美和湖を望む高台に建つ。地下部分にスクリュー水車の発電機を設置。流量を調整し、スクリューを保護するための砂やごみを取り除く水槽を備える。
総工費は9500万円で国と県、市から9割の補助を受けた。残り1割の950万円は美和土地改が負担し、6年半で償却する見込み。