2016/09/15
2016年9月15日掲載
環境省と厚生労働省が全国1500以上の水道事業者を対象に、水道の施設を利用した小水力発電の導入ポテンシャル調査を実施した。水源から浄水場や配水池へ流す水の圧力差を使って、全国の274カ所で発電できることがわかった。北海道から九州・沖縄まで各地に可能性が広がっている。
[石田雅也,スマートジャパン]
水道事業の中核になる浄水場や配水池には、標高の高い場所にある水源から大量の水が常に流れてくる。この水流が生み出す圧力差のエネルギーを発電に利用できるのだが、実際に発電設備を導入している水道施設は全体の2.7%に過ぎない。
環境省と厚生労働省は小水力発電によるCO2(二酸化炭素)の排出量削減と水道事業者の収入拡大を推進するため、全国1500以上の水道事業者を対象にアンケート調査を実施した。その結果、小水力発電を実施できる可能性がある施設は全国に563カ所あることが明らかになった。
地域ブロック別に見ると、中部が最も多くて103カ所、次いで中国・四国の99カ所、九州・沖縄の91カ所と続。関東にも83カ所あり、そのうち発電能力が20kW(キロワット)以上になる可能性がある施設数は65カ所で最も多かった。
全国で20kW以上の発電能力を見込める施設は合計で274カ所にのぼり、発電能力を合計すると1万9000kWに達する。水量をもとに算出した年間の想定発電量は1億5800万kWh(キロワット時)になった。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して4万4000世帯分に相当する。設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は95%になり、水道を流れる安定した水量で電力を供給できるメリットがある。
1カ所あたり年間1900万円の売電収入
小水力発電による電力の供給量が増えることで、CO2排出量は全国で年間に9万2000トンを削減できる。さらに発電した電力を固定価格買取制度で売電すれば、1kWhあたり34円(税抜き)で年間に53億円の収入を見込める。1カ所の平均額は1960万円になり、買取期間の20年間の累計で4億円近い収入を得られる計算だ。売電収入によって水道施設の維持管理費を軽減できる効果は大きい。
水道施設で小水力発電を実施する方法の1つとして、水道管そのものに発電設備を組み込む方法がある。環境省の実証事業で開発した「管路用マイクロ水力発電システム」が代表的な例で、これまでに富山県の南砺市、福島県の相馬市、兵庫県の神戸市の水道施設で導入実績がある(図4)。
発電能力は1台で22kWと75kWの2種類がある。水道管1本ごとに1台ずつ水車発電機を設置する方法で、1カ所の施設に複数台を導入することも可能だ。相馬市の水道施設では3台を導入して、最大79kWの電力を供給できるシステムを構築した。
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1609/15/news038_2.html
2016/09/14
2016年9月14掲載
独特のプリミティブな造形を作り出す加藤泉と、意味ありげな場景を描く陳飛。日本と中国、2人の作家がもと発電所だった美術館で共演します。大空間で出会う二人の作品に注目です。
加藤泉と陳飛(チェン・フェイ)は二人とも、個性的な「人」の表現で評価されているアーティスト。1969年生まれの加藤が作り出す人間のイメージは一目見たら忘れられない強烈な風貌で人気だ。離れた大きな眼や、黒や白、赤などに塗られた顔面が胎児や民俗彫刻を連想させる。身体はときに植物や大地と一体化したようにも見える。無垢のエネルギーを発散する、生命力の強い存在を思わせる。
陳飛は1983年中国生まれ。一人っ子政策後に生まれ、急速な近代化の中、外国の資本主義と中国の共産主義との間で揺れる、「ポスト1980年代」に属する作家だ。大学で映画を学んだ彼の作品は謎めいたストーリーを感じさせる。一見、さらっとした筆致で描かれるドライな画面に登場する人々には何か複雑な過去や関係があるのではないか、そんなことを深読みさせてしまう。
加藤の絵は原始へ遡るような、生物学的な「原型」を思わせる一方、陳の絵には急速に変化する社会を泳ぎ切ろうとする「現代人」が登場する。それらは正反対のもののように見えて、同じ人間の裏表でもある。友人どうしである彼らは国も世代も異なるけれど、互いに刺激しあう関係だ。前よりももっと近くなった国の間で交わされるアーティストの対話から新しい価値観が生まれている。
会場となる「入善町 下山芸術の森 発電所美術館」は旧黒部川第二発電所を改修した美術館。巨大な発電機を取り外した広大な空間には、壁に水力発電に使った導水管が口を開け、他の美術館にはないインダストリアルな風情を見せる。出品される3mを超える加藤の大型彫刻や、陳の大作の新作絵画でまた違う表情を見せるはず。北陸新幹線の開通で東京からのアクセスも便利になった美術館に出かけてみよう。
2016/08/23
2016年8月23日掲載
古くから水力発電が盛んな富山県には流れの急な川が多く、年間を通して大量の雨や雪が膨大な水力エネルギーをもたらす。現在も川やダムのエネルギーを生かして、小水力発電の導入プロジェクトが活発に進んでいる。水量に合わせてさまざまなタイプの発電設備が相次いで運転を開始した。
[石田雅也,スマートジャパン]
富山県は南側に標高3000メートル級の立山連峰がそびえる一方、北側の富山湾の海底は1000メートル以上の深さがある。その間の高低差4000メートルの地形が全国でも有数の水力エネルギーを生み出す。高い山から流れる川は急な場所が多く、黒部川をはじめ治水用や発電用のダムが数多く造られてきた。
県内で稼働中の水力発電所が供給する電力量は年間に100億kWh(キロワット時)を超えて、47都道府県の中で最大だ。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して280万世帯分にのぼり、富山県の総世帯数(39万世帯)の7倍に匹敵する。さらに水力エネルギーの包蔵量(利用可能量)は岐阜県に次いで第2位で、まだ利用可能なエネルギーが30億kWh以上も残っている。
新たに取り組んだ水力発電の代表的な例が「片貝別又(かたかいべつまた)発電所」である。県の東部を流れる片貝川は流れが急なことで知られている。川の上流から約1キロメートルの導水路を敷設して、下流にある発電所まで水を送り込む。この方式で水流の落差は298メートルに達する。
発電能力3000kW(キロワット)で2015年11月に運転を開始して、2016年4月から4500kWに引き上げた。年間の発電量は1830万kWhになり、一般家庭の5000世帯分に相当する。最大で毎秒1.8立方メートルの水量を発電に使うことができる。特に春の融雪期に水量が増加する。
この中規模な水力発電所は北陸電力が建設・運転する。一方で関西電力が小規模な水力発電所を2015年11月に稼働させた。関西電力は「クロヨン」で有名な「黒部川第四発電所」をはじめ、富山県内に数多くの水力発電所を運転している。新たに稼働した「出し平(だしだいら)発電所」は関西電力が所有するダムの直下に建設した。
ダムから下流にある2カ所の大規模な水力発電所に水を供給するほかに、下流の自然環境を守るため維持流量を放流している。この維持流量を生かして、37メートルの水流の落差で発電する仕組みだ。ダムの壁面から発電所までを水圧鉄管でつなぎ、最大520kWの電力を供給できる。
年間の発電量は171万kWhを想定していて、一般家庭の480世帯分に相当する。設備利用率(発電能力に対する実際の発電量)は38%で、小水力発電の標準値60%と比べると低い。維持流量が大幅に変動して発電量が変わるためだ。出し平発電所では流量に合わせて発電機の回転速度を変えながら安定して運転できるシステムを導入した。
古い水車を更新すれば発電量が増える
小水力発電の取り組みは農業用水路にも広がる。東部の朝日町を流れる「小川用水」には、2016年7月末に完成したばかりの小水力発電所がある。川の右岸を流れる用水路から発電所まで、700メートルにわたって導水管を敷設した。水流の落差は12メートルになり、最大で190kWの電力を供給できる。
年間の発電量は166万kWhを見込み、一般家庭の460世帯分に相当する。発電した電力は全量を固定価格買取制度で北陸電力に売電して、地域の土地改良施設の維持管理費にあてる方針だ。発電能力が200kW未満の買取価格は1kWhあたり34円(税抜き)で、年間に5600万円の売電収入になる。
農業用水路の水量も季節によって変動する。小川用水発電所が導入した水車発電機は、水流を取り込む入り口の部分で流量を調整できる仕組みだ。このタイプの水車発電機は保守が簡単なことから、農業用水路で水量の多い場所に適している。
富山県内では古い水力発電所の水車を新しいものに交換して、発電能力を増強する取り組みも進んでいる。1962年に運転を開始した発電能力1万kWの「奥山発電所」では、2015年10月に水車を更新して発電能力を300kW引き上げた。これで年間に250世帯分の電力を増やすことができる。
北陸電力は水力発電所の新設と設備更新を通じて、年間の発電量を2008年度から2020年度までに1億kWh拡大する計画を推進中だ。すでに2016年度内に目標を達成できることが確実になり、2020年度の目標値を1億3000万kWhに修正した。一般家庭の使用量に換算して3万6000世帯分の電力が増える。
富山県では固定価格買取制度がスタートした2012年よりも前に稼働した水力発電所が多い。それでも新たに買取制度の認定を受けて運転を開始した中小水力発電の規模は全国で10番目になった。加えて太陽光発電とバイオマス発電の導入量が徐々に増えてきた。
アルミ廃棄物から水素も作る
太陽光発電では富山湾に面した富山新港で2016年3月にメガソーラーが運転を開始している。港の一角を占める7万平方メートルの用地に2万枚の太陽光パネルを設置した。発電能力は4.5MW(メガワット)で、年間に約500万kWhの電力を供給できる。
富山新港が立地する射水市(いみず)では木質バイオマス発電所も稼働中だ。地元のグリーンエネルギー北陸が発電能力5.8MWで2015年5月に運転を開始した。年間の発電量は3900万kWhを見込んでいて、1万世帯分を超える電力を供給できる。
燃料の木質バイオマスは周辺地域の森林で発生する間伐材などを年間に約7万トン利用する計画だ。県の森林組合連合会と長期の供給協定を締結して、安定した調達体制を構築した。さらにグリーンエネルギー北陸が100%出資して木質チップの製造会社も運営している。
このほかに再生可能エネルギーのユニークな試みとして、アルミ系の廃棄物から水素を製造するプロジェクトが進んでいる。富山県内の有力企業が共同で設立したアルハイテックがNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援を受けて2014年から取り組んできた。2016年4月には検証用のプラントが稼働して、周辺の工場から排出するアルミ系の廃棄物を使って水素の製造に着手した。
検証プラントでは廃棄物からアルミを分離して、アルカリ溶液と反応させて高純度の水素を発生させる。すでに1時間あたり2キログラムの水素の製造に成功して、今後は最大5キログラムまで製造能力を拡大する予定だ。燃料電池車の走行距離に換算して700キロメートルに相当する水素を1時間ごとに製造できるようになる。
アルミ系の廃棄物は紙パックや強化プラスチック製品などに付いているアルミニウムを利用可能だ。原料が生物由来ではないためにCO2フリーの水素ではないが、廃棄物の再資源化で水素エネルギーを生み出せるメリットは大きい。検証プラントで実用性を確認したうえで、アルミ廃棄物を排出する全国各地の工場に展開していく。
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1608/23/news034.html
2016/07/05
2016年7月5日
朝日町山崎を流れる農業用水を利用した小水力発電所「小川用水発電所」が四日、発電を開始した。開始式には同町土地改良区の関係者約三十人が出席。安全操業を祈願した後、鹿熊正一理事長がボタンを押し、発電機が音を立てて動きだした。
同改良区が七億二千万円をかけて整備。農業用水から最大で毎秒二千百一立方メートルの水を引き込み、付近の地形の落差一一・六メートルを利用して水車を回し発電する。年間の電力供給量は百六十六万四千四百キロワット時で、一般の家庭約五百五十世帯分の年間電力使用量に相当する。
発電した電力は北陸電力に売電する。年間約五千六百万円の売電益を見込んでおり、農業用水の補修や整備費に充てる。 (伊東浩一)
http://www.chunichi.co.jp/article/toyama/20160705/CK2016070502000038.html
2016/05/23
2015年5月23日掲載
●農業用水や上水道管路 豊富な雪解け水活用
主要国首脳会議に先立つ15~16日に環境相会合が開催中の富山県では、再生可能エネルギーの小水力発電が普及している。
豪雪地帯の立山連峰から豊富な水が流れ出し、富山湾に注ぐ地形ならではのエネルギー活用に、新たな可能性も開けてきた。
●自前の発電所
豊富な雪解け水が農業用水から取水され、水田地帯の地下に埋設された長さ約900メートルの管路に流れ込む。その先には、滑川市の早月川沿岸土地改良区が昨年6月に完成させた早月川沿岸第一発電所があった。
「多くの業者が水力発電をやりたいと言ってきたが、自前でやることにした」。改良区の事務局長、稲場秀雄さん(71)は胸を張った。
「小水力」発電と呼ばれ、最大出力は530キロ・ワット。924世帯の年間電力使用量と同量の電気を作る能力がある。1キロ・ワット時29円で北陸電力に売電し、年約5000万円の収入を見込む。工事費など事業費約9億円の8割を国、県、市の補助で賄い、残りは農協から借り入れた。5年後には返済の見通しが立っている。
稲場さんは「農業用施設の耐震化や更新には莫大ばくだいな金がかかる。農家の負担は大きく、売電収入でそれを減らしたい」と話す。
同土地改良区はこれ以外にも、二つの大きな水力発電所を保有し、1980年に、全国の土地改良区に先駆けて設立した全額出資の電力会社が運営している。
●伝統的な水活用
現在、富山県内の小水力発電所は、計30か所を数える。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度の運用が始まった4年前から普及に弾みがつきだした。
富山県内72の土地改良区が加盟する連合会の調査では、小水力発電の適地は119か所あることが分かった。同県は2014年4月に「再生可能エネルギービジョン」を策定し、最大出力1000キロ・ワット以下の小水力発電の導入促進を盛り込んだ。2021年度までに45か所の整備を目指す。
富山県内では伝統的に水力を農作業などに活用してきた歴史があり、連合会指導監の大森裕一さん(68)は、「富山の農家は水のエネルギー利用に慣れている」と語る。
大森さん自身も、かつて自宅の庭に渦巻き型の水車があり、精米やもちつきの動力にしていた記憶があるといい、「小水力発電で得られた収入は、ミソなどの加工品の開発や保存にも役立てたい」と意気込む。
●発祥の地
国などの研究も、富山から始まった。県小水力利用推進協議会長を務める富山国際大学の上坂博亨うえさかひろゆき教授(59)によると、科学技術振興機構の研究者らが、水利ネットワーク懇談会を発足させたのは08年のこと。国土交通、農林水産、環境、経済産業の各省と県、大学、電力会社、土地改良区の担当者が富山県に集まり、議論を重ねた。
法制度が順次改善されていく。農業用水を利用した発電収入は従来、排水機場など関連施設の電気料金の支払いに限られたが、2011年には施設の維持管理費にも使えることになり、複雑だった水利権の申請手続きも簡易になった。
●進む技術革新
普及拡大に伴い、技術的な工夫や改善も進んだ。
富山市の常西用水土地改良区で昨年に完成した「西番(にしのばん)小水力発電所」(最大出力30キロ・ワット)は、水車が可動式で、水路の水を止めずに修理や手入れができる。豪雨時には自動的に水車が水路から上がり、危険を回避する。
最近では最大出力100キロ・ワット以下のマイクロ水力発電の研究が熱を帯び、設置場所も農業用水から上水道の管路へと広がってきた。
「ダイキン工業」(大阪市)は、超小型の発電機を開発。昨年は環境省の委託を受け、富山県南砺市にある水道事業所の施設で10か月間の技術開発・実証事業を行った。担当の沢田祐造専任部長(60)は、「上水道事業者は全国で約1500。全国津々浦々の上水道を有効活用できれば大きなエネルギーになる」と話す。(河野博子)
◆水力発電としてすでに利用している水力が多い県
〈1〉富山県〈2〉岐阜県〈3〉長野県〈4〉新潟県〈5〉福島県
(資源エネルギー庁2014年3月現在のデータによる)
http://www.yomiuri.co.jp/eco/feature/CO005563/20160516-OYT8T50000.html