2016/10/01
2016年10月1日掲載
和歌山県有田川町が、既存のダムに新たに設置した小水力発電所が大きな成果を上げている。川の流量維持のためダムが常時放流している「維持放流水」を利用し、利益は毎月400万円近くに上る。国内ではほとんど利用されてこなかった水流に着目した町の担当者は、「今までエネルギーを捨てているようなものだった。利益はエコの取り組み支援に充てたい」と意気込んでいる。
1967年に町内の有田川の水害対策と発電の多目的ダムとして建設された二川ダムに設置し、「町営二川小水力発電所」として今年2月に稼働を始めた。資源エネルギー庁によると、ダムを設置した都道府県が主体となり、所在地の市町村と小水力発電所を設置する例はあるが、市町村が単独で取り組む例は聞いたことがないという。
下流の水質維持のため、二川ダムは98年以降、毎秒0.7立方メートルの水を維持放流水として放出している。ダム湖にある取水口と下部の放出口との間には約30~50メートルもの落差があって、強い水流となる。このエネルギーに着目した町は2009年、ダム施設の大部分を所有する県に発電設備建設を提案した。
だが、小水力発電は治水ダムの目的外使用となって多額の負担金が発生することなどから、計画は頓挫しかけた。転機となったのは、11年3月の東日本大震災による電力不足だった。県との協議が再開され、14年8月に許可が下りた。
町は、資源ごみの分別の徹底によって得た売却益を繰り入れた基金なども利用し、総事業費約2億8600万円をかけて発電所を建設。放出口付近に作った建屋に放流水を引き込み、水車を通過させて発電、再び放流する仕組みだ。放流する水量自体は変わらないため、下流への影響はないという。
町営発電所の年間発電量は、一般家庭約330世帯分に当たる120万キロワット時以上。再生可能エネルギーとして電力会社が20年間全量を買い取る制度を利用しているため、町は7年ほどで事業費を回収できると見込んでいる。
県と交渉を重ねてきた町環境衛生課の中岡浩課長は「小さな町でも工夫すればいい取り組みができると信じてきた。小規模自治体のモデルケースになれればいい」と話している。【稲生陽】
2016/07/10
2016年7月10日掲載
高齢化が進み、集落人口も100人弱まで減っている古座川町平井で、和歌山大の学生ら約20人が農作業などに取り組んだ。農村技術を学ぶ実習で、国有形文化財の北海道大和歌山研究林本館を拠点に毎年実施している。学生たちは「生き残ろうと必死に工夫している集落の努力を感じた。驚くことがたくさんあった」と口々に話した。【稲生陽】
町や岩本功区長(72)によると、集落の人口は現在93人で8割を65歳以上の高齢者が占め、平均年齢は72・3歳。高齢化率は、県内30市町村で最も高い古座川町内でも特に高い。だが、約50年前から栽培するユズや山中で採る蜂蜜を使った特産品作りのほか、自前で小水力発電や道路整備にも取り組んでいる。
2、3両日にあった実習は、和歌山大産学連携・研究支援センターの湯崎真梨子教授の授業の一環。参加した2、3年生たちは、前区長の農業、松林秀起さん(74)が山中に無数に設置された養蜂用の巣箱「ゴーラ」から蜂蜜を採ってみせると、驚いた表情で見入っていた。
経済学部3年の本田昌也さん(20)は「道や橋だけでなく、電気まで作っていることに驚いた。集落を絶やさない、という強い思いを感じた」。システム工学部3年の堀内泰貴さん(20)は「この授業がなければ、農村がこれほど工夫していることを知らないままだった。来て良かった」と話していた。