第3部:地域のための小水力発電を目指して

FITが導入されましたし、これからは小水力発電所を一つ一つ建設していく段階です。

私は小水力も含め自然エネルギーが活発に利用されるようになるには4発のエンジンが必要だと考えています。
一つはFIT。これはすでに導入されています。
二つ目は電力システム改革。配電網への接続を容易にするということです。
三つ目は技術開発とファイナンス。地域の自然エネルギー利用に投資できるシステムをつくること。小水力発電は最新技術ではないとはいえ、パワーエレクトロニクスや遠隔操作による自動制御システムなどの新しい技術も利用されています。
四つ目に地域単位でエネルギーシステムを築くこと。これが効率的な発電方法にもつながります。

小水力発電は現代社会にとって新規の分野です。
技術開発という点で言うと、新たなアイディアが必要となり、とてもやりがいのある仕事です。
落差が比較的小さなところでも効率よく発電できるよう、水車自らが落差をつくり出す装置を考えるなど工夫をしています。

ヨーロッパにくらべて日本の小水力発電の技術は非常に遅れています。日本の水力開発は、大規模化、大容量化の道を歩んできたため、規模の小さな小水力発電にはほとんど目が向けられませんでした。これからどう日本の小水力発電技術を高めていくか、これが非常に難しい。

ドイツでは年間百数十カ所という単位で小水力発電所が増えていると、以前に金田さんから聞きました。そういう社会だからこそ水力発電とそのための機器供給は成熟した産業として成立していると思うんです。また小水力発電に国民の理解があり、制度や政策も後押ししているからでもあるのでしょうね。

ヨーロッパには「ESHA(European Small Hydropower Association)」という団体があります。ヨーロッパ小水力発電協会と訳されますが、ESHAの活発な活動はそういう小水力市場の形成に貢献していると思います。水力協もESHAのようにどんどん小水力を普及できるようにしていきたいと思っています。

私が手がけるものの多くは10kWや20kW程度の小水力発電所です。そういう発電所では土木工事に一番費用がかかり、1kWあたり数百万円かかることもあります。土木技術者としてその部分をできるだけ抑えたいと考えており、簡単ではありませんが建設費全体で1kWあたり100万円を目指せればと考えています。

採算をとるためには、最低でも出力100kWの施設が必要と言われています。現在、100kWの小水力発電所を建設する場合、1kWあたりの相場が100万円だったとしても、総建設費は約1億円にもなります。地方で小水力発電の話をすることがあるのですが、具体的な金額を伝えると話が尻すぼみになってしまうことも少なくありません。

確かに建設には莫大な費用がかかるので、資金融通の仕組みが重要ですね。現在、その仕組みができつつあります。完成するまでの道筋をモデル化し、そのモデルを広めていきたいと思います。
それから、小水力発電所を建設する際に重要なのは地域主導で進めることです。そこで力を発揮するのが各地に設立した小水力利用推進協議会です。

地域の資源は地域で活かす。そういう動きが全国各地でみられますね。例えば、2013年4月に長野県飯田市で「飯田市再生可能エネルギーの導入による持続可能な地域づくりに関する条例」が施行されました。この条例に書かれた「地域環境権」は、市民や行政、地域の銀行も参加し、先ほど述べた新たな地域エネルギーシステムづくりにつながるものです。

小水力で大都市のエネルギーまでをも支えるには、ポテンシャルからみて力不足です。大都市と地方という構図の中で自然エネルギーを考え、地域を支えるエネルギー源として可能性をさぐりたいと考えています。

さらに、日本には水利共同体をもとに村や町が形成されてきた歴史がありますから、小水力発電は地域社会を動かす核となり得るんです。

小水力発電はそれ自体が目的ではなく、地域で自分たちのことを考えたり決めたりするためのツールだと思うんです。地域のみなさん、将来をどう生きていくか真剣に考えています。小水力発電所は建設すれば他に何もしなくてよいというのではなく、そこからがスタートなんですよね。

小水力発電は地域の特性が活かせる手段です。収益だけを目的とするのではなく、社会全体で小水力発電のいいところを共有できるように、普及啓発活動にも力を入れていきたいと思います。

他の自然エネルギーとちがって、小水力には古い歴史がありますので、関係者や関係する地域がとにかく多い。一般的に関係先が多ければ、利権争いなどでこじれそうですが、小水力の場合は開発地点が限られているため、大規模な開発ができませんし、旨味のある発電事業にはつながりにくいので、これまでうまく活動を続けてこられたんだと思います。
水力協はボランティアの市民団体でありながら、業界団体の役割をも担う、日本では珍しい組織です。これが私たちの団体の特色です。ところが特定の部分で利害のある企業が主張を始めると小水力はうまく回りません。ですから、それぞれの立場の関係者や企業から力を借りながら、調整しつつ、そう言うのは簡単ですが、これからますます小水力発電所の建設が増えますので、それらが円滑に進むよう活動を進めていきたいと考えています。
今日はみなさんありがとうございました。

金田剛一 NPOハイドロクリーン21
古賀康正 NPOクリーンエネルギー・フォーラム顧問
後藤眞宏 (独)農研機構 農村工学研究所
小林 久 茨城大学教授
中島 大 環境エネルギー政策研究所理事
気候ネットワーク運営委員
一般社団法人小水力開発支援協会代表理事
中込秀樹 山梨県小水力利用推進協議会副会長
秀建コンサルタント代表取締役
永井健太郎 早稲田大学大学院政治学研究科博士課程
前田典秀 NPOクリーンエネルギー・フォーラム理事長
松尾壽裕 一般社団法人小水力開発支援協会理事