小林 久

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後藤 眞宏

私は、農業土木試験場(現、(独)農研機構農村工学研究所)に配属され、小水力発電の研究を始めました。その後、水力協の中島大さんが事務局長を務めていた分散型エネルギー研究会に参加するようになったのです。

農業用水路は、農業用水を水田に安定・安全に送る目的でつくられた施設で、流速を一定範囲内に収めるように設計されています。このため水路を流れる水のエネルギーで高い出力の発電を行なうことは困難です。1m以上の落差が得られる地点、たとえば貯水池や大きな落差工が発電に有望な地点です。農業水利施設を利用して小水力発電を普及させることが求められており、そのためには次の三つの段階があると考えています。

第一段階は、まずは既にある農業水利施設内の落差を可能な限り利活用することです。農業用水を利用した小水力発電のメリットは、発電に必要な水、落差、施設が既にあり、建設費は基本的に発電関連施設のみであることです。既存施設における発電利用を進めるためには、水車や発電施設の設置による水路内の水流への影響解明、水車停止時の溢水防止施設の設計法、除塵装置の開発など技術開発が必要になります。

第二段階は、農業用水の通水期間・通水量の検討です。非かんがい期に水量が減る地域では、その時期には発電量が減少します。一年中一定の水量を流すことができれば発電出力が安定し、経済的です。そこで農業用水を取水している河川、そして流域全体の水資源のなかで小水力の利用を考えることも重要です。この問題は簡単ではありません。多くの関係者による検討が必要です。しかし、みんなで智慧を働かせれば乗り越えることも可能です。富山県の山田新田用水では、新たに非かんがい期に発電水利権を取得して発電を行っています。

第三段階は、既存の農業水利施設の改修や新たな建設事業計画に小水力の導入を考慮することです。これまでは、水を安全に送ること、そして経済性を考慮して施設設計が行なわれてきました。このため農業水利施設でエネルギーを積極的に生産する発想には至らなかったと言えます。しかし、これからは農業水利施設においても本来目的である農業用水の送水に加えて、エネルギーの生産に着目することが大切です。地形条件や水利条件、水路やため池の配置など、地域、施設を俯瞰して、柔軟な発想で計画することが大切ではないでしょうか。

一度建設すれば60年以上も運転し続けている発電所があります。昨年、小水力発電を実施している大分県の土地改良区の方から、先人の苦労に思いをはせながら、先人より引き継いだ施設を守り、後生に引き継いでいくために奮闘しているお話しを伺い、胸が熱くなりました。これからも農業、小水力に関わっていきたいと考えています。