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2016/09/13

全国一の水流を生かして小水力発電、山奥の古い農業用水路も電力源に【スマートジャパン】

2016年9月13日掲載
降水量の多い岐阜県は水力エネルギーの利用可能量が全国で最大だ。農山村では古い農業用水路を改修して小水力発電の取り組みが活発に進む。ダムに新設する水力発電所も続々と運転を開始した。農地を利用した太陽光発電や地域の森林資源を生かした木質バイオマス発電も広がりを見せる。
[石田雅也,スマートジャパン]

 岐阜県の東南端に位置する中津川市は中央に木曽川が流れている。豊かな水を利用して農林業が盛んな地域で、起伏の激しい山間部には農業用水路が広がる。その中で大正時代に造られた古い用水路があり、老朽化が進んで改修が必要になっていた。約900メートルに及ぶ用水路の改修と合わせて、水流の落差を生かした「落合平石(おちあいひらいし)小水力発電所」を建設して2016年4月に運転を開始した。
 改修した用水路の落差は64メートルになり、最大で126kW(キロワット)の電力を供給できる。年間の発電量は95万kWh(キロワット時)を見込んでいる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して260世帯分に相当する。発電した電力は固定価格買取制度で売電して、年間に3200万円の収入を得られる想定だ。買取期間の20年間の累計では6億4000万円になる。
 この小水力発電プロジェクトは飛島建設とオリエンタルコンサルタンツの2社が共同で発電事業者になって、地元の落合平石地区と中津川市が連携しながら推進した。農業用水路の改修を含めた総事業費は2億5000万円かかっている。
 発電事業者の2社は売電による収入を得る一方で、用水路を管理する落合平石地区に水路の補修や発電設備の清掃点検作業を委託する。地元の負担なしに農業用水路を改修したうえに、新たな作業を生み出して地域に利益をもたらす仕組みだ。小水力発電を実施することで農山村の活性化につなげる新しいモデル事業に位置づける。
 小水力発電所の建屋の中では、赤い色の水車発電機が稼働している。水力発電が盛んなチェコ製で、横軸を中心に円筒型の水車が回転する横軸クロスフロー式だ。水流が交差する仕組みになっていて、少ない水量でも大きな水力を生み出せる利点がある。落差が大きくて水量が少ない場所に向いている。

  小水力発電で人口を増やす

 農業用水路を活用した小水力発電は、さらに山深い地域にも広がってきた。福井県との県境にある郡上市(ぐじょうし)の石徹白(いとしろ)地区では、小水力発電による集落の再生プロジェクトを進めている。
 標高700メートルの集落には100世帯が暮らしていて、人口270人のうち約半数は65歳以上の高齢者だ。過去50年間で人口は4分の1に縮小した。地域の資源を生かした農業の復活と再生可能エネルギーの導入を通じて、全国から子育て世代の移住を促進する。
 石徹白地区では農業用水路を利用した小水力発電所が4カ所で稼働している。そのうち発電能力が大きいのは「石徹白清流発電所」と「石徹白番場清流発電所」の2カ所で、それぞれ最大63kWと125kWの電力を供給できる。両方を合わせて年間の発電量は100万kWhになり、一般家庭の280世帯分に相当する。現在と比べて世帯数が3倍近くに増えても電力を自給自足できる。
 2カ所の小水力発電所を建設するために、県が農業用水路を改修して1.6キロメートルの導水路を整備した。1つ目の清流発電所は郡上市が発電事業者になって2015年6月に運転を開始している。2つ目の番場清流発電所は地元の農業協同組合が県と市の補助を受けながら2016年4月に運転開始にこぎつけた。子育て世代の移住者も徐々に増えている。
 内陸にある岐阜県には木曽川のように太平洋に向かって長い距離を流れる川と、北へ向かって日本海に注ぐ川の2種類がある。岐阜県の北部から富山県を通って日本海まで流れる神通川(じんづうがわ)の流域には、高い山に囲まれて大小さまざまな水力発電所が運転中だ。
 北部の飛騨市を拠点とする神岡鉱業は明治時代から銅や亜鉛を掘削して精錬事業を続けてきた。自家用と売電用に10カ所の水力発電所を運転しているが、老朽化が進んだことから5カ所の設備の更新に取り組む。すべての更新が完了すると発電能力が1800kW増えて、10カ所の合計で4万kW近くに達する予定だ。総事業費は220億円にのぼる。
 その中で規模が最も大きいのは「金木戸(かなきど)発電所」で、1953年に運転を開始して60年以上を経過した。従来の発電能力は1万8000kWだったが、設備を更新して1万8252kWに増強する。2017年8月に運転を再開する予定だ。このほかに「跡津(あとつ)発電所」が1万1850kWから1万3026kWに増強して、2018年5月に運転を再開することになっている。

  水力発電で需要のピークにも対応

 自治体や民間企業が地域の再生に向けて水力発電に取り組む一方で、岐阜県を供給エリアに含む中部電力も新しい水力発電所を相次いで開発している。特に注目すべきは2016年3月に全面運転を開始した「徳山水力発電所」である。最近では珍しい大規模な水力発電所で、1号機と2号機を合わせて16万1900kWの発電能力がある。中部電力の水力発電所の中では揚水式を除くと最大だ。
 徳山水力発電所は2008年に完成した「徳山ダム」からの水流を利用する。ダムの中にある取水塔から導水路と水圧鉄管路を通して、ダムの直下にある発電機まで水を送り込む。その間の落差は1号機が182メートル、2号機が146メートルに及ぶ。発電機は地下に設置されていて、発電能力の大きい1号機のほうが下部にある構造だ。
 1号機と2号機では使い方が違う。1号機(発電能力13万9000kW)は電力の需要が多い時に大量の水を使って発電する一方、2号機(同2万4300kW)はダムの下流の環境維持のために放流する水量で電力の供給を続ける。再生可能エネルギーでも需要に合わせて発電量を調整できる体制になっている。
 特に最近は河川の環境維持に必要な「河川維持流量」を利用した小水力発電の取り組みが活発に進んでいる。2016年6月に運転を開始した「丹生川(にゅうがわ)水力発電所」は、中部電力が県営ダムの直下に建設した2つ目の小水力発電所である。47メートルの落差を生かして最大で350kWの電力を供給できる。年間の発電量は210万kWhを見込んでいて、一般家庭の580世帯分に相当する。
 中部電力はグループ会社のシーテックのプロジェクトを含めると、河川維持流量を利用した小水力発電所を岐阜県内の4カ所で稼働させている。いずれも2015年以降に運転を開始した。さらに中部電力グループは温泉で有名な下呂市(げろし)にあるダムの直下でも同様の小水力発電所を建設する計画で、2018年7月に運転を開始する予定だ。

  太陽光パネルの下でサトイモを栽培

 岐阜県は水力発電の導入可能量が全国で最も大きくて、年間に138億kWhの電力を生み出せるポテンシャルがある。実に380万世帯分の使用量に匹敵する電力で、岐阜県の総世帯数(75万世帯)の5倍にもなる。すでに7割が開発済みだが、残りの3割で100万世帯分を超える。
 このほかに森林の面積が全国で5位、年間の日照時間でも全国で8位に入る。森林地帯が広がる県の中部から北部にかけて木質バイオマス発電が始まる一方、南部の平野では太陽光発電が活発になってきた。県内には温泉も数多く分布していて、北部の奥飛騨温泉では地熱発電の開発プロジェクトが進んでいる。固定価格買取制度の認定を受けた発電設備も風力を除いて拡大中だ。
 太陽光発電では農地を利用した営農型の導入事例が南部を中心に増えてきた。各務原市(かがみはらし)の個人農家が2014年から実施している先行事例では、2400平方メートルの農地に50kW分の太陽光パネルを設置した。支柱の上に細長いパネルを設置する方法で、農地の遮光率を30%程度に抑えている。パネルの下ではサトイモや小松菜を栽培する。
 年間の発電量は6万kWhを見込んでいて、固定価格買取制度で売電すると1年間に200万円前後の収入になる。農作物の栽培は通常に近い状態で続けることができるため、農家の所得は従来よりも増える。導入費用は1800万円かかったが、農家が日本政策金融公庫の融資を受けながら全額を負担した。10年程度で採算がとれる見通しだ。
 木質バイオマス発電では林業や製材業と連携した取り組みが3つの市をまたいで始まっている。森林から伐採する木材を品質によってA材からD材まで4種類に分類して、製品に使えないC材とD材を発電に利用する体制を構築した。従来は森林に放置していたC・D材の利用量が大幅に増えることで、森林の保全に役立つのと同時に森林の所有者の収入も増加する。
 県内で初めて未利用の木材を燃料に使った木質バイオマス発電所が、南部の瑞穂市(みずほし)で2014年12月に運転を開始した。発電所に隣接して木質チップの製造工場があり、森林から集めたC・D材を燃料に加工している。発電能力は6250kWと大きくて、1日24時間の連続運転で年間に330日稼働する。送電できる電力の規模は1万1000世帯分になり、瑞穂市の総世帯数(2万世帯)の半分以上をカバーできる。
 岐阜県では全国一の水力を中心に、太陽光から地熱、バイオマスまで含めて地域の資源を活用した発電設備が順調に拡大中だ。内陸県の特色を生かして再生可能エネルギーによる電力の供給量がますます増えていく。

http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1609/13/news018_4.html

2016/06/11

自立の精神を取り戻す 石徹白の小水力発電【WEDGE Infinity】

2016年6月11日掲載
磯山友幸 (経済ジャーナリスト)

仕事を作り、身の回りの必要なものを用意するという自立の精神。そんな思いを持った人たちが「エネルギーの地産地消」に取り組み、仕事の少ない田舎でも自活する術を見出している。

 集落のほぼ全戸、約100世帯が出資する水力発電所が今年6月1日に稼働する。岐阜県中央部の郡上八幡からさらに車で1時間ほど。福井県側に峠を越えた山奥にある石徹白(いとしろ)という集落での話だ。
 石徹白は、霊峰白山への登山口に当たり、景行天皇12年(西暦82年)に創建されたと伝わる白山中居神社が鎮座する。上古から続く長い歴史を持つ集落だが、いま消滅の危機に直面している。1960年ごろに1000人を超えていた人口は減少を続け、現在270人あまり。何とかこれに歯止めをかけようと始めたのが、豊富な農業用水を活用した小水力発電だった。
 発電した電力はすべて北陸電力に売電。集落で使う電力を上回る総発電量になる。計算上の自給率は100%を超え、売電収入が入ってくることになる。その収入を集落の活性化に役立てようというわけだ。
 集落の高台を流れる1号用水の水を谷間の朝日添(わさびそ)川に導水管で落とし、途中に設置した発電機の水車を回す。落差110メートルを利用し、最大116キロワット時の発電を行う計画だ。

 もちろん小規模とはいえ、発電所の設置には資金がかかる。工事費は2億4000万円。発電が始まれば、売電収入で維持管理費などは捻出できるとしても、そのためには事業主体が要る。そこで、住民が参加する農業協同組合「石徹白農業用水農業協同組合」を新たに設立したのだ。2014年のことだ。
 2億4000万円のうち岐阜県と郡上市からの補助金で75%を確保。残りの6000万円を農協への出資と借入金で賄うことにした。地区の自治会長だった上村源悟さん(65)が新設した農協の組合長に就任。地区の代表たちと手分けして住民への説得を行った。
 「地域にどんどん元気がなくなっていく。集落の全員が力を合わせて何かに取り組むことが必要だ」
 住民の説得に当たった上村さんの危機感は強かった。11年に退職するまで、郵便局長として集落の衰退を見つめ続けてきたからだ。かつては各家庭で行っていた「おとりこし」という秋の収穫後の集まりが少子高齢化と共に衰退。お寺に集まる形で細々と続いていたが、それも2年前に中断した。
 説得に自治会が乗り出したことで、集落はひとつになり、発電所のための農協新設に漕ぎ着けた。
 実は、今回稼働する小水力発電には前段がある。石徹白が地域おこしの手段として「小水力発電」に乗り出したのは07年のこと。NPOで再生可能エネルギーなどに取り組んでいた平野彰秀さん(40)が、岐阜県内の小水力の適地を探し歩く過程で、石徹白にやってきたのだ。平野さんは大学に入学した18歳から32歳まで東京で生活、外資系経営コンサルティング会社などに勤めたが、08年に32歳で岐阜市にUターンしていた。もともと地域づくりの活動をしたいという狙いがあった。
 石徹白を訪れた平野さんと出会ったのが、石徹白で電子機器を扱う会社を営む久保田政則さん(68)。今は地域おこしを担うNPO法人「やすらぎの里いとしろ」の理事長も務める。「豊富な農業用水を目に見える形で活用すれば、地域おこしの起爆剤のひとつのツールになるのではないか」と考えた。

 久保田さんは様々な形の小水力発電の実証実験を平野さんたちと共に始める。タテ軸型、らせん型、上掛け水車型。手作りできるものは手作りし、コストを下げた。始めは失敗を繰り返したが、徐々にコツをつかんだ。
 改良した「らせん型水車2号機」はパイプの中のらせん状のプロペラが水流で回ることで発電する。設置から7年たった今も動き続け、最大800ワットの電気を起こしている。これは売電せず、NPOの事務所などで使っている。
 集落の中心近くに設置したのは上掛け水車型。水車が勢いよく回ることで発電する。この電気は隣接の農産物加工場に供給。使われていなかった減圧乾燥機を復活させ、とうもろこし粉や乾燥フルーツなどを製造する。寒暖差の大きい石徹白のとうもろこしは糖度が高く名産品。形が悪く出荷できないものをパウダー状に加工し、パンやケーキ用として販売している。
 初めは奇異な目で見ていた住民たちの意識が変わったのは、こうした取り組みに全国からの視察が相次いだのがきっかけだった。今でも年間500人以上が水車を見にやってくる。09年には石徹白にやってくる人たち向けにカフェをオープン。4月から10月の土日に営業を始めた。何せ300人に満たない集落なので、飲食店も土産物店もなかったのだ。
 住民の変化を目にして平野氏も本気になる。いつまでも「よそ者」としてかかわっていたのでは、本物の地域おこしはできない。11年に石徹白への移住を決めたのだ。移住を前に奥さんの馨生里さんは洋裁学校に通い、集落で「石徹白洋品店」を始めた。集落の伝統的なものに惹かれ、石徹白に伝わる野良着「たつけ」を復活させた。そうした地道な取り組みが、小水力発電への住民の理解を深めていったのだ。

 住民出資の水力発電所が稼働すれば、売電の利益だけで2000万円前後になる。減価償却分の積立金や利払いなどを除いても数百万円が残る。これを地域振興に活かしていくことになる。
 平野さんの移住をきっかけに、都会の若者が石徹白に移って来るケースが増えた。この7年で12世帯にのぼる。実は09年に地域で「石徹白ビジョン」を策定したが、その際に「30年後も石徹白小学校を残す」という目標を掲げた。それを実現するためには移住者は必須なのだ。「石徹白人」という集落の公式ホームページを立ち上げ、「子育て移住してみませんか?」と呼びかけている。
 そんな取り組みの結果、移り住んだひとりが廣中健太さん(34)。東日本大震災を機に、震災直前に生まれた子どもと奥さんを連れて神奈川から移住した。平野さんの講演を聞いたのがきっかけで石徹白を初めて訪れたが、白山中居神社を詣でた際に魂を揺さぶられる思いがしたのだという。移住に当たっての問題は「仕事がない」こと。今は、移住前に取得したヘルパーの資格を活かし、介護施設で働く。そのかたわら、農作業や釣り、狩猟など自然を満喫した〝仕事〟をする。
 「昔は仕事を作っていたんです。自分で身の回りの必要なものを用意した。自立の精神です」と平野さんは言う。もともと石徹白には「自立の精神」が宿っているという。江戸時代の石徹白の村人は全員、白山中居神社の社人、社家という扱いで、名字帯刀を許され、年貢は免除されていた。住民たちで物事を決める伝統が根付いているのだ。大正13年には村人が皆で出資して発電所を作った歴史もある。石徹白が小水力発電で自立しようとしているのは、実は90年前の再現だったのである。
 都会から遠く離れて隔絶された土地で、自然に囲まれて自活する。自立心旺盛な若者たちを引き寄せる空気が石徹白には満ちている。

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6318?page=1

2016/05/27

岐阜県の農業組合、農業用水で125kWの小水力発電スタート【環境ビジネスオンライン】

2016年5月27日掲載
 岐阜県は、農業水利施設を活用した小水力発電所「石徹白番場清流(いとしろばんばせいりゅう)発電所」(郡上市白鳥町石徹白)が、6月1日より運転開始すると発表した。石徹白農業用水農業協同組合が主催する通電式が、同日の10時30分より開催される予定だ。
 この小水力発電所は、県の「朝日添地区(わさびそちく)小水力活用支援事業」を活用し設立されたもの。事業主体は同農業協同組合。設計から工事施工まで地元が主体となっておこなった。県単補助事業による売電を行う小水力発電所としては、県内で初めてとなる。
 総事業費は2億3千万円。この費用の内訳は、県が55%、同市が20%、地元の組合や住民などが25%を負担した。朝日添川から取水し、有効落差104.5メートルを利用し、毎秒140リットルの水で125kWの電力をつくる。年間発電量は、61万kWh(一般家庭130世帯分の年間使用電力量に相当)を見込む。CO2削減効果は年間約340トン。
 同地域では、以前から地域活性化を目的とし、小規模な小水力発電によるエネルギーの地産地消の取り組みを行ってきた。今回の事業は、地元の過疎化・高齢化が進んでも集落として存続できる地域づくりをめざし、地元のほぼすべての世帯が参加し実施された。

https://www.kankyo-business.jp/news/012699.php

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