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2017/12/07

過疎自治体が注目「小水力発電」課題は初期投資の低コスト化【山陽新聞】

2017/12/7掲載
 過疎自治体が電力の自給自足を目指し、再生可能エネルギーの小水力発電所(発電出力1000kW=キロワット=以下)を建設する動きが注目されている。小水力は太陽光に比べ、昼夜を問わずに発電が可能なうえ、電力会社が再生可能エネルギーを買い取る場合、固定価格が太陽光より高いのが特徴。岡山県北の西粟倉村は近く小水力発電施設を建設、バイオマス、太陽光発電などとの併用で、村内の消費電力の自給率100%を目指す。徳島県の山村でも42年ぶりに小水力発電所を復活、風力発電などと組み合わせて「低炭素の里作り」を進めている。再生可能エネルギーの活用で過疎の逆境に立ち向かう自治体の現状や、水力発電システムの改良に力を入れる開発業者などの動きなどを取材、小水力発電の今後の展望と課題などを探った。

電力使用の100%自給目指す

 兵庫、鳥取県境に接した西粟倉村。人口約1500人(約600世帯)、57.97平方キロメートルの緑豊かな山村。面積の95%が森林に覆われ、スギやヒノキの植林地帯が広がっている。鳥取県境近くの若杉天然林を水源地とする吉野川(吉井川支流)がまちの中央部を貫き、国道373号線が流れに寄り添うように走っている。村役場を過ぎて少し走ると国道の右手に頑丈なコンクリートで覆われた「影石水力発電所」(同村影石、発電出力5kW)、さらに国道を数百メートル北上すると鳥取自動車道の真下に「西粟倉発電所・めぐみ」(同坂根、290kW)が目に入る。影石発電所は農業用水から取水、めぐみ発電所は約1.8キロのトンネルを掘って吉野川と支流の大海里川から取水し、69メートル下の発電機に水を落とし、落差エネルギーを利用して発電機のプロペラ水車を回転させている。

 村内ではこのほかにも登山者用トイレの照明や浄化槽の電源となる「若杉天然林Pマイクロ発電所」(同大茅、1kW)、川の木の葉やごみを取り除く除塵機の電源を確保する「大茅ピコ水力発電」(同、1.3kW)、電気自動車(EV)の充電器用に道の駅・あわくらんどの敷地内に「マイクロ水力発電」(同影石、5kW)を稼働している。

 現在、村内には出力が極めて小さいピコ、マイクロクラスを含め5カ所の小水力発電所が稼働している。さらに村中央部の吉野川沿いに6カ所目の小水力発電所「西粟倉第2発電所」も計画されている。めぐみ発電所の上流の吉野川から取水し、出力199kWのプロペラ水車の発電機を設置する。2019年からの稼働を目指し、全量を電力会社に売電する。初期投資額は約4億4000万円。電力会社が買い取る小水力発電の固定買取価格(FIT)は、出力200kW未満の場合、2017年度で1kW当たり34円(税別)。新発電所は水の落差が大きいため85%の高い稼働率を想定、年間5000万円の売電利益が生まれるという。

 構想段階だが、村営の20kW規模の小水力発電所の計画もある。同村の白籏圭三・産業観光課主任は「20年間は現在の買い取り価格の34円が保証され、太陽光発電と比べても利益率は大きい」としたうえで、「10年間で初期投資額を回収でき、あとの10年間で5億円の利益が見込める」と期待する。同村の再生可能エネルギーはすでに年間7000万~8000万円の売電利益を上げており、「計画中の第2発電所が稼働すれば年間で1億数千万円の利益が確保できる」(同村)仕組みだ。

 同村は平成の大合併で住民投票の結果、合併からの離脱を選択。主要な産業が少ない小規模自治体が生き残るために、2009年に森林を再活用する「百年の森林構想」事業をスタートした。「小規模でも幸せ感があるまちづくり」「持続可能な上質な田舎へ」をキャッチフレーズにエネルギー100%自給を目指す。その一環として2013年に「低炭素なむらづくり」推進施設補助事業を導入、再生可能エネルギーの開発に村を挙げて取り組んでいる。民間が再生可能エネルギーの太陽光、風力、水力などの発電施設を建設する際、建設整備費の一部を補助しており、水力の場合は出力1kW当たり低額だが8万円(施設全体の上限は32万円)を支給している。さらに住民が電気自動車を購入する際は、村が20万円をサポートしている。村が設置した省エネ対策を含める再生可能エネルギー関連の補助金は17分野にも及ぶ。

 村内では現在、太陽光2基(各20kW)、バイオマス(75kW)も稼働。再生可能エネルギーによる電力自給率(2015年調べ)は42%で、県内では久米南町(自給率151%)、鏡野町(同118%)、真庭市(同80%)に続いて高い。白籏主任は「村内にはガソリンスタンドが1軒しかない。それも早かれ遅かれ閉店する可能性がある。それを見越して影石発電所に充電器を併設し、住民に気軽に利用してもらっている」という。将来は村民全員にマイカーを電気自動車に切り替えてもらい、自動車の電気も村の自前で調達する予定だ。

徳島県は独自の補助制度でサポート

 徳島県の山間地にある佐那河内(さなごうち)村。人口2200人余りの過疎の村は、西粟倉村と同じく平成の大合併から離脱した。産業に乏しく将来の村の存続基盤が危ぶまれることから、エネルギーを地産地消する「低炭素の里作り」を目指している。高原地帯にあり、風、太陽光、水が豊富な土地柄。その立地条件、豊かな自然環境を生かし、「何にもないまち」だから「何でもあるまち」のキャッチフレーズを掲げ、過疎を逆手にふるさとづくりに挑戦している。

 同村には再生可能エネルギーを手がける民間業者が進出、プロペラの風力発電機15基(1基出力1300kW)を備えた四国で最大規模の風力発電所「大川原ウインドファーム」を操業している。村にはかつて小水力発電所があったが、老朽化などから1973年に廃止。「低炭素の里作り」の一環として2年前に新府能小水力発電所(出力45kW)を建設した。村が県の補助金制度を活用し、国との共同事業で2015年、実に42年ぶりに水力発電が復活した。徳島県内では市町村が主体となった初の水力発電所だ。

 同県は現在、太陽光、バイオマス、風力など再生可能エネルギー施設の整備に補助金を支給。小水力発電の場合は発電出力が200kW未満のケースで施設整備費の上限2000万円、事前調査費の同100万円を補助している。制度が追い風となって「大川原ウインドファーム」を呼び込んだ。同村産業環境課の佐河敦主幹は「低炭素な村づくりを推進するなか、環境に優しいエネルギーのまちとして、県外にも知られるようになった。県の支援制度を活用し太陽光、バイオマス、風力、水力発電をさらに推進していきたい」と意欲的だ。3、4年後には50kW級の小水力発電をもう1基建設するほか、村独自で2000kW級の風力発電所の構想も浮上している。

 山間地の多くの過疎の自治体は、主要な産業もなく、「ないない尽くし」の厳しい現実に直面している。「何もないから何もできない」と、あきらめムードが先行しているが、一部には恵まれた森と水を再評価し、環境にやさしいまちづくりに挑戦するケースも出てきている。西粟倉村と佐那河内村はともにこれといった産業がなく、深刻な人口減少や高齢化と向き合っている。かつては企業誘致などに奔走したこともあるが、地元には若手労働力が不足し、思うような成果は上がらなかった。両村は「外部からの他力本願では村の存続基盤を確保できない」(西粟倉村)として、足元にある森や河川、豊かな自然資源を見直し、エネルギーの「自給自足」、農林資源の6次産業化の動きを強めている。共通の「低炭素のまちづくり」は、サバイバル(生き残り)戦略ともいえる。

 真庭市などのバイオ発電をはじめ、再生可能エネルギーによる経済波及効果の研究に精通する岡山大学の中村良平教授(大学院社会文化科学研究科)は「売電で自治体が収益を得るのは当然だが、大切なことはその収益金を地元の活性化のためにどう再投資するかだ。例えば森林や河川の資源を再活用するための新しいビジネスや農産物の6次産業を創造するなどして、売電で得た利益を地元で循環させる仕組みをつくらないと、効果は一時的になってしまう」とアドバイスする。

小水力は太陽光の1%の普及率

 電力会社の再生可能エネルギーの固定価格買取制度による買取電力量(2016年11月末時点)をエネルギー別に見ると、太陽光(住宅、非住宅)がトップの912万8783kWh、次いで風力209万9558kWh、バイオマス169万7389kWhと続き、小水力(出力1000kW以下)は49万9402kWhで最も少ない。全買い取り量に占める割合は、太陽光が67.9%、風力15.6%、バイオマス12.6%に対し、中小水力は3.7%。中国電力管内の施設の稼動状況(電力系統の接続済みと、接続申し込み分を合わせた電力量)は、今年11月17日現在で太陽光の624万kWに対し、小中水力は7万kWで、太陽光の1%にすぎない。

 水力発電が予想以上に低迷している理由について、岡山県環境文化部の水内均彦副参事(新エネルギー・温暖化対策室)は「FIT価格は水力の方が断然有利だが、河川や用水の水利権者の許可が必要なうえ、取水口などからの導水管の敷設工事などで初期投資コストが高く、着工までに長い準備が必要なことが敬遠されているのでは」と話す。

 中小水力発電の普及のネックになっている問題は、国や県のサポート体制が原因だと指摘する声も多い。発電した電力は電力会社の送電線に接続して売電するが、その系統接続の容量が太陽光などですでにオーバーするケースが出始めている。結果、容量アップのための工事負担金を請求されることがあり、結果的に小水力発電のコストを押し上げるケースもある。西粟倉村の白籏主任は「再生可能エネルギーは太陽光が大きく先行している。系統接続の容量が太陽光でいっぱいになれば、小水力発電の普及にブレーキがかかる。電力会社や国、県は水力発電をサポートする補助制度などを強化してほしい」と訴える。同村は隣接する兵庫県管内の関西電力にも系統接続の可能性を探っている。佐那河内村の佐河主幹も「容量がいっぱいで変電所の容量アップが必要となり、電力会社から負担金を求められている」という。

市場ポテンシャルは原発10基分

 東京・芝浦の東京工業大イノベーションセンターで今年9月6日、「小水力エネルギーの利用とシステム開発に関するセミナー」が開かれた。主催はプロパンガス販売つばめガス(岡山市南区福田)のグループ会社で環境エネルギー事業を展開するエリス(同)と長崎大(長崎市)。エリスは長崎大、西日本流体技研(長崎県佐世保市)、岡山県産業振興財団などと共同で、低落差の用水などの水力エネルギーを高い効率で電力に変換できる羽根形状の小水力発電設備を開発。新製品の発表を兼ねた同セミナーは、再生可能エネルギーの関心の高さを反映し、多くの自治体関係者らが詰め掛けた。

 電力会社の固定価格買取制度(FIT、2017年度、税別)は、太陽光が21円(10kW以上)に対し、中小水力は34円(200kW未満)で、同価格での買い取り期間はいずれも20年間が保証されている。調達価格算定委員会は太陽光に比べ昼夜安定している水力の電力を優先させ、買取価格を高く設定している。岡山県内で再生可能エネルギーの発電設備を施工する業者によれば、小水力発電の年間売電利益は5kW当たり太陽光が約150万円に対し、小水力は発電効率が高いため約500万円になるという。

 エリスは全国で数少ない小水力発電の装置メーカー。これまでに岡山県内では岡山市をはじめ、新見市、鏡野町、新庄村、津山市などで小水力発電所を設置、売電や電気自動車の充電、照明の電源などに活用。全国からの引き合いも多く、広島、滋賀県でも稼動させている。取水源は養魚場の放流水、農業用水、工場排水などさまざま。直近では津山市加茂町黒木の黒木キャンプ場近くに、JA桑谷発電所の放流水を利用して500kWの発電施設を建設した。同社としては9基目の発電施設となる。電力は超小型モビリティー(電気自動車)の充電に活用し、地域内の経済循環のモデルケースを構築する。

 同社は農業用水など水の低落差発電を目的に、効率の良い発電ができるシステムを研究。2タイプの開放型周流水車を開発。全く水流の落差がない下掛けタイプは、水力エネルギーを電力に変換する水車型の羽根形状を枚数8枚、ピッチ角を30度にして、最大限に発電効率を高め、従来の水車(開放周流型)よりも性能を17.6%向上させることに成功した。小水力発電は昼夜を問わず発電でき、40~80%の発電効率が得られる。しかし、低落差の農業用水などを利用する場合は適地が多い半面、効率が20~40%に落ちるため、発電機の改良が課題になっている。
 
 課題のもう一つは初期投資をいかに抑えられるかだ。設備の初期投資は1kW当たりで太陽光が30万円以下、水力は約200万円前後になり、水力は太陽光に比べ約8~10倍高いともいわれている。エリスの桑原順社長は「今回開発した開放型周流水車のうち、低落差タイプ(落差1~2メートル)は効率が50~60%あったため、適地に設置すれば十分に採算は取れるようになった。さらに初期投資を3分の2程度に抑えれば、太陽光以上のビジネスモデルが期待できる」としている。小水力発電の市場ポテンシャルについては「日本の国土の70%が山地・森林で、落差の大きい地形や豊富な水を利用して小水力発電を導入すれば1000万kW、原発10基分の発電出力が得られる。特に水利権が比較的に簡単な農業用水や工場排水、上下水道などの小規模分散型の小水力発電は有望」と期待する。

http://www.sanyonews.jp/article/636446/1/

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