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2016/06/28

エネルギー列島2016年版(10)群馬:エネルギー自給率40%超へ、営農型の太陽光発電にも挑む 【スマートジャパン】

2016年6月28日掲載
群馬県では再生可能エネルギーを大幅に増やして、電力の自給率を2030年に40%以上へ高める計画を推進中だ。農地で営農型の太陽光発電が始まり、山間部では豊富な水量を生かせる中小水力発電が活発に進んでいる。森林の間伐材を利用した木質バイオマス発電も地域の安定した電力源になる。[石田雅也,スマートジャパン]

 日本列島のほぼ真ん中に位置する群馬県は険しい山と流れの急な川が多く、山間部には大規模な水力発電所が点在している。水力発電だけで県内の電力消費量の20%を供給することが可能だ。それに加えて太陽光発電やバイオマス発電の導入量が拡大中で、2014年度の時点で電力の自給率は26%まで上昇した。
 引き続き太陽光を中心に小水力・バイオマス・風力発電の導入量を拡大して、2030年度に自給率を42%まで高める方針だ。国が設定した2030年度の目標は再生可能エネルギーの比率を22~24%に増やすことで、その2倍の水準を目指す意欲的な計画である。
 続々と運転を開始した太陽光発電設備の中では、北部の沼田市にある「沼田市利根町太陽光発電所」がユニークだ。発電能力1.1MW(メガワット)で2015年7月に稼働したメガソーラーだが、同じ場所で農作物も栽培する。営農型の太陽光発電設備では国内最大の規模を誇る。
 広さが4万平方メートルの用地はもともと鹿の放牧地で、農作物の栽培には使われていなかった。新たに農業と太陽光発電を両立させる「ソーラーシェアリング」に取り組むため、放牧地を農地に改良したうえで、上部の空間に太陽光パネルを設置した。細長い形状の太陽光パネルを高さ3.5メートルの支柱の上に並べて、農地にも十分な太陽光が当たる。
 太陽光パネルの枚数は合計で1万1000枚になり、年間の発電量は140万kWh(キロワット時)を見込んでいる。一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して約400世帯分に相当する。太陽光パネルの下ではトラクターを使うことも可能で、通常の農地と変わりなく農作物を栽培できる。
 農地を借り受けた地元の建設会社が2015年の夏からソーラーシェアリングを実施中だ。1年目は菜の花、クローバー、そばを栽培して、そば粉を使った新商品の開発にも取り組んだ。2年目はレンゲを追加して4種類に増やした。再生可能エネルギーの拡大と同時に、農業と新しい産業を組み合わせた6次産業化を推進していく。
 沼田市と隣り合う昭和村では、山のふもとの広大な土地に大規模なメガソーラーの建設工事が進んでいる。バブル経済の崩壊でゴルフ場の開発計画を中止した場所である。82万平方メートルに及ぶ用地に17万枚の太陽光パネルを設置して、2018年1月に運転を開始する予定だ。発電能力は関東で最大級の43MWになる。
 年間の発電量は5000万kWhに達する見込みで、一般家庭の1万4000世帯分に相当する電力を供給できる。昭和村の総世帯数(2700世帯)の5倍以上に匹敵する。この一帯は山から流れ出る川で作られた扇状地のため、大雨による洪水の被害を受けてきた。メガソーラーの敷地内に調整池と排水路を設けて周辺地域の防災にも役立てる。

  世界最大級の揚水式発電所を建設中

 群馬県は古くから水力発電が活発で、最近では中小水力発電の導入プロジェクトも増えてきた。県営の水力発電所だけで大小を合わせて現在32カ所ある。その中で最も新しい水力発電所は、東部を流れる渡良瀬川(わたらせがわ)の上流域に建設した「田沢発電所」である。2016年5月20日に運転を開始したところだ。
 田沢発電所は川の上流から水を取り込んで、山中に埋設した導水路と水圧管路を使って約1キロメートル先にある水車発電機まで水を送る。これで水流の落差は142メートルになる。最大で1.85立方メートル/秒の水量を生かして2MWの発電が可能になった。大きな落差と豊富な水量を生かせる横軸フランシス水車で発電する。
 年間の発電量は770万kWhになる見込みで、2100世帯分の電力を供給できる。発電した電力は固定価格買取制度で売電する方針だ。買取価格は1kWhあたり24円(税抜き)になり、年間に1億8500万円の収入を得られる。
 買取期間の20年間で売電収入は37億円になる想定だが、一方で建設費に35億円かかった。さらに毎年の運転維持費がかかる。買取期間が終了した後でも運転を続ければ十分に採算をとることが可能だ。水力発電は同じ設備のまま長期間にわたって運転を続けられるメリットがある。
 群馬県の北西部にある東吾妻町(ひがしあがつままち)では、珍しい湧水を利用した小水力発電事業を推進中だ。森林を流れる「箱島(はこしま)湧水」の水量は1日あたり3万トンにのぼり、町内の飲料水や農業用水に使われている。
 この湧水を発電にも利用する。取水口と発電所のあいだに生まれる85メートルの落差を使って、最大で170kWの電力を供給できる。2017年5月に運転を開始する予定だ。東吾妻町は発電事業を実施するにあたって、民間企業の資金とノウハウを生かせるPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)方式を採用した。
 群馬県内では壮大な水力発電所の建設プロジェクトも進んでいる。山岳地帯に造成した2つのダムを組み合わせた揚水式の発電所だ。東京電力が1997年に建設を開始した「神流川(かんながわ)発電所」である。合計で6基の水車発電機を設置して、282万kWの電力を供給する。揚水式の発電所では世界で最大級の発電能力になる。
 揚水式は川の上流と下流に2つのダムを設けて、そのあいだを太い水圧管路でつないで水車発電機に大量の水を送り込む。下流のダムにたまった水を夜間の余剰電力で上流のダムまでくみ上げ、昼間の電力需要が増える時間帯に水を流して発電する方式だ。2つのダムの落差は650メートルにもなり、地中には直径6.6メートルの水圧管路を1キロメートルにわたって埋設した。
 6基で構成する発電設備のうち1号機と2号機は運転を開始した。残る3~6号機は2022年度以降に運転を開始できる見通しだ。6基すべてが稼働すると、発電に利用する水量は1秒あたり510立方メートルにのぼる。
 神流川発電所が全面稼働して282万kWの電力を供給できるようになれば、1世帯あたりの電力需要を3kWと想定して94万世帯をカバーできる。群馬県の総世帯数(76万世帯)をはるかに上回る規模で、特に夏の昼間に電力需要がピークに達した時の有効な電力源になる。

木質バイオマスの電力を東京にも送る

 群馬県では太陽光・中小水力・バイオマスの3種類の再生可能エネルギーによる発電設備が拡大中だ。これまでに固定価格買取制度の認定を受けた発電設備の規模は260万kWを超えている。このうち約3分の1が運転を開始して、すでに28万世帯分の電力を供給できる状態になった。
 バイオマス発電では2011年に運転を開始した「吾妻木質バイオマス発電所」の規模が大きい。地域の森林で発生する間伐材のほか、街路樹の剪定枝や建築物の廃材などをチップに加工して燃料に利用する。発電能力は13.6MWで、年間に1億1000万kWhの電力を供給できる。一般家庭で3万世帯分の電力に相当する。
 県内の他の地域でも木質バイオマス発電所を新設するプロジェクトが始まっている。北部の川場村(かわばむら)にある森林コンビナートの構内で、2017年1月に運転を開始する予定だ。燃料の木質バイオマスは地域の森林から間伐材を調達するほか、製材所から出る端材も活用する。当初の発電能力は40kWである。
 川場村は面積の88%を森林が占めていて、主な産業は農業である。豊富にある森林資源を生かして地域を活性化する「グリーンバリュープログラム」に、2012年度から官民一体で取り組んでいる。木質バイオマス発電の規模を拡大しながら、発電時の排熱を野菜の温室栽培にも利用する計画だ。
 さらに発電した電力を150キロメートル離れた東京都の世田谷区に供給する。川場村と世田谷区は35年前から協力関係を結んで人材交流などを進めてきた。再生可能エネルギーの利用拡大に取り組む世田谷区に木質バイオマス発電所の電力を供給することで、2つの地域が連携してCO2(二酸化炭素)の排出量を削減していく。

http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1606/28/news031.html

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