2015/09/25
ダイキン工業は7月30日、福島県相馬市の大野台浄水場でマイクロ水力発電所の実証運転を始めた。出力22キロワットの発電機2基と出 力75キロ ワット1基を上水道が通る配管の途中に設置している。天候に左右される太陽光発電や風力発電と違い、ダムからの送水で常に水車が回転するため、出力が変動 せず、使い勝手が良い。単純な出力比較だと太陽光発電の6分の1で同等の効果が期待できるという。
ダイキンはエアコンに使う強力なネオジム磁石を発電機に使い、インバーター制御のノウハウを発電機のコントロールに応用して効率を高めた。水車の 形状はエアコンの室外機のファン設計用の流体解析技術で最適化した。市販されている汎用ポンプ向けの鋳物ケースを流用して水車を収納し、コストを削減し た。水密構造には油圧機器の組み立て工程の技術を盛り込んだ。
水を一部分岐して細いパイプに通し、発電機を冷やす。発熱で発電効率が下が るのを防いだ。水車の上に発電機とコントローラーを配置し、縦型の一体 形状にまとめて設置面積を小さくした。従来のマイクロ水力発電機が水車と発電機を横につなげていたのに比べ、設置面積が半分になった。
ダイキン工業が開発したマイクロ水力発電機。手前が出力75キロワット、奥2基が出力22キロワット(7月、福島県相馬市)
ダムと浄水場の高低差は45メートルあり、未利用の位置エネルギーを発電に回した。ただ、ダムは浄水場と12キロメートル離れており、途中でロス が生じて、実際には高低差30メートル相当の位置エネルギーしか利用できなかった。計算上は110キロワットの出力を持つが、実際の出力は71キロワット 強にとどまる。年間では61万9000キロワット時の電気を起こす。2014年の一般世帯の年間消費電力量は5138キロワット時(総務省統計局家計調 査)だから約120軒分に相当する。浄水場が自家消費する電気は起こした分の約半分。実証試験施設で売電はできないため、余った分は東北電力が無償で引き 取っている。
小水力発電所の開所式にのぞむ福山守環境政務官(右から3人目)と立谷秀清相馬市長(右から4人目)ら=7月、福島県相馬市
実証試験は今年12月で終了する。相馬地方広域水道企業団の企業長を兼ねる立谷秀清・相馬市長は「試験終了後の機器を使って売電し、その収益で水 道料を引き下げたい」と語る。タイミングは消費税が10%に上がった時で、「水道代を3%引き下げる」と言う。設備は実証試験の期間が終われば撤去するの が決まりだが、水力発電所の完成式典に出席した福山守・環境政務官は「せっかくの設備なので引き続き利用できるような方策を考えたい」と述べた。これに対 し、立谷市長は「無償譲渡をお願いするつもりはなく、予算措置を講じる。形の上では中古なのでできるだけ安くなることを期待している」と語った。
ダイキンの林由紀夫専務執行役員は「将来、マイクロ水力発電機の外販を計画している」と話す。縦型にまとめて設置面積を減らしたのは既設浄水場に後付けする作業を容易にして、普及を促す狙いがある。どの事業部門で扱うかは未定だが、新規事業として育ててゆく考えだ。
空調機のファン設計技術を応用し、最適化した発電用水車(7月、福島県相馬市)
「小水力発電で最もやっかいなのは落ち葉による目詰まりだ」と小水力発電システムを販売する日本小水力発電(山梨県北杜市)の永田恭文取締役は話 す。落ち葉をいったん回収してしまうと廃棄物として処理費用がかさむ。浄水場の配管内を通る水なら落ち葉に悩まされる心配は無い。
一般に 小水力発電は出力1万キロワット以下で、なかでも1000キロワット以下をミニ水力、100キロワット以下をマイクロ水力と呼ぶ。未開発の 小水力発電はたくさん残っている。農業用水の総延長だけでも約40万キロメートルあり、小水力発電に使えるだけの落差を有する地点が多数存在する。全国小 水力利用推進協議会は出力1000キロワット未満のものだけで300万キロワット分はあると概算している。平均的な原子力発電所1基が出力100万キロワットと考えれば、小水力は原発3基分のポテンシャルを備えていることになる。
(編集委員 竹田忍)[日経電子版2015年8月18日付]