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2015/09/08

小水力発電で村おこし、農業用水路が新たな価値を生む【スマート・ジャパン】

 面積の8割以上を森林が占める岐阜県には水力とバイオマス資源が豊富にある。過疎に悩む農村では農業用水路に小規模な水力発電機を設置して電力の自給自足が始まった。ダムを利用した小水力発電も相次いで運転を開始する一方、都市部では地域ぐるみのバイオマス発電が広がっていく。
[石田雅也,スマートジャパン]

 岐阜県の中部に、小水力発電による村おこしで全国の注目を集める農村がある。郡上市(ぐじょうし)の「石徹白(いとしろ)」と呼ぶ古くからの集落 だ。標高700メートルの高地にあって、夏の涼しさを生かしたトウモロコシが主な農産物である。冬には大量の雪が降り、厳しい寒さから過去50年間で人口 が4分の1以下に減ってしまった。現在は100世帯の270人が暮らしている。

 地域の住民が村を活性化するために取り組んだのが小水力発電である。2007年から小規模な発電設備を農業用水路に設置して実験を開始した(図 1)。一時は反対の声も上がったが、2014年に発電事業の主体になる「石徹白農業用水農業協同組合」を設立して小水力発電を本格的に推進中だ。

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図1 石徹白地区の小水力発電の取り組み。出典:石徹白農業用水農業協同組合

 小水力発電は2カ所で実施する。1つは郡上市が建設して2015年6月に運転を開始した「石徹白1号用水発電所」である。農業用水路を利用して 63kW(キロワット)の電力を供給することができる。年間の発電量は39万kWh(キロワット時)を見込んでいる。一般家庭の使用量(年間 3600kWh)に換算すると、石徹白の全世帯をカバーできる110世帯分に相当する。

 もう1つの小水力発電所は地元の協同組合が建設・運営するプロジェクトで、発電能力は103kWを予定している。総事業費は2億4000万円にのぼり、県と市が75%、残り25%を協同組合が負担する。2016年内に運転を開始できるように準備を進めているところだ。

 市が運転中の発電所と同様の発電効率を想定すると、年間に60万kWh程度の発電量になる。固定価格買取制度を適用すれば、年間の売電収入は約 2000万円を見込める。維持管理費などを除いて出る利益を新たな農業の振興策に役立てる方針だ。豊富な水量を発電に生かしながら、農産物の生産・販売量 を増やして地域の魅力を高めていく。過疎に歯止めをかける期待は大きい。

 こうして小水力発電で地域を活性化する試みは、岐阜県を横断する木曽川の上流でも始まっている。東部の中津川市では大正時代からの農業用水路を改 修して小水力発電に利用するプロジェクトがある(図2)。64メートルの落差の水流から最大126kWの電力を供給する計画で、2015年12月に運転を 開始する予定だ。

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図2 中津川市の小水力発電計画。農業用水路の改修前(左上)と改修後(右上)。発電機の外観(左下)と構造(右下)。出典:飛島建設、オリエンタルコンサルタンツ

民間企業2社が発電事業者になって、地元の水路管理組合から農業用水路の使用許可を受けた。小水力発電に欠かせない設備の清掃・点検業務の一部も管理組 合に委託する。発電事業による農業用水路の効率改善に加えて、清掃・点検業務による新たな収入が地域のメリットになる。
<h4> ダムが放流する河川維持流量を生かす</h4>

潜在する水力のエネルギーは農業用水路のほかにもある。数多くの川が流れる岐阜県には治水用と発電用のダムが各地域に設けられている。ダムには大 量の水を貯めるだけではなく、下流の自然環境を守るために常に一定の水量を流し続ける必要がある。「河川維持流量」と呼び、最近は小水力発電に利用する ケースが増えてきた。岐阜県は全国の先頭を切って河川維持流量を生かした小水力発電を拡大中だ。

2015年に入って2カ所のダムで小水力発電所が相次いで動き出した。1つは石徹白と同じ郡上市にある「阿多岐(あたぎ)水力発電所」である(図3)。岐阜県が1988年から運営している治水用のダムの河川維持流量を利用する。

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図3 「阿多岐水力発電所」の小水力発電設備。出典:中部電力

発電事業者は中部電力で、ダムの直下に発電所を建設して7月に運転を開始した。ダムから放流する毎秒0.7立方メートルの河川維持流量を38メー トルの落差で取り込んで発電する。発電能力は190kWになり、年間に130万kWhの電力を供給することができる。一般家庭で360世帯分の使用量に相 当する。

もう1カ所は「新串原(しんくしはら)水力発電所」で、中津川市の隣にある恵那市で6月に運転を開始した。中部電力が1970年から発電用に運営している「矢作(やはぎ)第二ダム」からの河川維持流量を利用した小水力発電所だ(図4)。

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図4 「新串原水力発電所」の小水力発電設備。出典:中部電力

水流の落差は20メートルだが、毎秒1.6立方メートルの水量を生かして発電能力は230kWになる。年間の発電量は170万kWhを見込んでい て、470世帯分の使用量に匹敵する。阿多岐水力発電所と合わせれば830世帯分になり、これまで未利用だった水流が新たな電力源に生まれ変わった。

環境省の調査によると、発電能力が3万kW未満の中小水力発電の導入可能量は岐阜県が全国の都道府県の中で最も多い。固定価格買取制度の導入量で も現時点で第3位になっている(図5)。さらに最近になって太陽光とバイオマスが増えてきた。特にバイオマス発電は都市部で先進的なプロジェクトが始まっ ている。

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図5 固定価格買取制度の認定設備(2014年12月末時点)

※以下省略

http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1509/08/news021_3.html

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