2015/05/27
2030年の電源構成、いわゆるベストミックスの議論が大詰めを迎えている。その中で、再生可能エネルギーとして注目されている水力発電がどのようなものかを確認するため、先日、静岡県の大井川水系を取材した。
全長168キロの大井川は、明治43(1910)年に最初に発電所ができてから、現在は12のダム、18のえん堤(=河川を横断して設けられる工作物。ダムより小規模)を有する13の発電所が稼働している。
水力発電は、自然界を循環する水を利用し、二酸化炭素の排出量が極めて少ないクリーンで安定性の高いエネルギーのため「ベースロード電源」と位置付けられている。現在の供給量は全電源の1割程度だが、原発依存度を下げるのであれば、水力発電の役割はより重要となってくる。
ところが、水力発電所を維持・管理していくには、エネルギーのことだけを考えていては、とても不可能だという実態を目の当たりにした。
水力発電はその仕組み上、山の奥深いところにある。今回も、建設から80年を超える「千頭(せんず)ダム」(静岡県川根本町)へ行くために、小さめの軽自動車1台がやっと通れるような狭い道を行くしかなかった。道の両側は、深さ数百メートルの崖と、倒木や岩がごろごろしている、今にも崩れそうな山肌が続いた。
もともと、その道はダム建設時に使用した貨車の線路跡であり、舗装はしてあるが外灯もなく、携帯電話も通じない。ダムの無人制御化により、現在は各ダムに監視員は常駐していない。月1回の定期点検や、気象状況や時間帯を選べない台風や地震などの災害時には“命からがら”で現場に行くことになる。
千頭ダムだが、土砂の堆砂率は98%だった。つまりダムの容量のほとんどが水ではなく、土砂なのだ。これらは、開発による水や土砂の流れの変化と、山の手入れ不足、つまり「ほったらかし」に起因する。国有林にある発電所は、電力事業者の一存で山の手入れができないのである。
日本は国土の3分の2が森林だが、その4割は、拡大造林政策による人工林である。人工林の51%が、植林から約50年たった伐採時期に来ているのに、手が付けられていない。木材輸入の自由化などによる林業の衰退は、森林の「国土保全機能」「水源涵養(かんよう=養い育てること)機能」を衰退させた。そして、危険な状態を放置することは、私たちの日常生活に欠かせない電力を供給する上でも支障が生じることにもなりかねないのだ。
再生エネルギーの普及を進めるにも、単にその技術力の開発だけで「安全」「安定」が担保されるわけではない。とかく水力発電の増強には、山の手入れ、つまり日本の林業の在り方を考える方が急務であると思わざるを得なかった。
■細川珠生(ほそかわ・たまお) 政治ジャーナリスト。1968年、東京都生まれ。聖心女子大学卒業後、米ペパーダイン大学政治学部に留学。帰国後、国政や地方行政などを取材。政治評論家の細川隆一郎氏は父、細川隆元氏は大叔父。熊本藩主・細川忠興の末裔。著書に「自治体の挑戦」(学陽書房)、「政治家になるには」(ぺりかん社)
http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20150527/plt1505270830002-n2.htm