2019/02/24
2019年2月24日掲載
廃れていた小水力発電が再生の動きを見せている。背景には再生可能エネルギー(再エネ)の促進策や技術の進歩があり、かつての立地場所が復活している。奈良県の二つの村では市民生協が協力。買い物難民問題や雇用などで連携協定を結び、地産地消や地域おこしを通じて過疎化対策にもつなげている。
◇FIT導入で採算
小水力発電はダムによる大規模な水力発電ではなく、中小河川や用水路を使う小規模な発電。森林面積が全体の95%以上を占める東吉野村では、1914年から小水力発電「つくばね発電所」(45キロワット)が地元の家庭や製材業に売電していたが、63年に老朽化を理由に廃止された。
その後、林業が衰退して過疎化が進み、村人口はこの半世紀で約8000人から4分の1以下までに減少した。元関西電力社員で村議だった森田康照さん(68)が「なんとか地域おこしをしないと。そのために小水力発電の復活は可能だろうか」と専門家らと相談したが、売電単価が安く、採算が合わないとして進展がなかった。
流れが変わったのが国による「固定価格買い取り制度」(FIT)の導入だった。水力や太陽光、風力などの再エネで発電した電気を、電力会社が決まった価格で一定期間買い取るもので2012年に始まった。200キロワット未満の小水力電力の価格は採算が可能な1キロワット時当たり34円とされ、期間は20年間となった。
さらに市民生活協同組合「ならコープ」(組合員約27万人)が小水力発電復活のため、協力に乗り出した。奈良県の世帯の半分近くが加入するならコープは原子力発電(原発)に頼らず、再エネ推進を活動の目標に掲げている。吉野地方のくらしと経済を元気にする独自計画「吉野共生プロジェクト」の理念にも沿うとして、立地可能性の調査費の一部を負担。ならコープ子会社が新会社「東吉野水力発電」に出資し、14年11月の設立に参画した。
新会社の社長には森田さんが就任。導水管や発電設備を新築し、17年8月に売電を開始した。発電出力は旧つくばね発電所の2倍近い82キロワットに達し、約210世帯分を賄える規模に。年間2000万円の売り上げを見込む。
ならコープは地元で生み出した再エネは地産地消になるとアピール。現地には昨年1年間で全国から500人以上が見学に訪れた。そのうち約100人は電気を購入した組合員で、地産地消の原動力を自分たちの目で確認した。東吉野水力発電は売電の収益を基金運用し、地元の林業活性化や教育などに生かすことを目指している。
◇生協と包括的連携
ならコープが支援するもう一つの村、下北山村では、小さな渓流を利用した村営「小又川発電所」が93年から稼働していた。電力の大半は地元のスポーツ公園で自家消費し、余った電力を関電が1キロワット時当たり11円で買い取っていた。しかし、11年ごろ、電気制御設備に故障が起こるなど、老朽化が目立ち始めた。主要な水車や発電機などの更新時期も迫り、財源が限られている村では廃止も検討していた。
そこに東吉野村で実績を作っていたならコープが15年、「一緒にやりませんか」と提案。これを受けて下北山村が調査を依頼したところ、取水量を増やし主要部分を新設すれば、出力を2倍に増強できることが判明。FIT認定で、従来価格の約3倍の1キロワット時当たり34円で全量を売れるとの見通しが立った。
小又川発電所の出力は176キロワットで来年6月に発電を開始する計画だ。下北山村を知ってもらう「社会的投資ファンド」として、一般から出資者を現在、募集している。出資すれば村の特産品が送られる。インターネット上で告知している。
計画では、下北山村は発電設備の建屋など既存の使える設備を賃貸し、ならコープ側が水車や発電機などを更新して運営する。また、両者は昨年10月、「村づくりに関する包括連携協定」を結んだ。協力する内容は、再エネ導入拡大のほか、買い物や食事の支援、観光の振興、雇用の創出など多方面に及ぶ。
下北山村は東吉野村同様に林業の衰退などで人口減少が著しい。60年代は3000人を超えていたが、今年1月1日現在、790人(推計)まで減っている。同村の森岡和久総務課長は「食品を扱う商店も数軒しかなくなり、移動手段のないお年寄りを中心に『買い物難民』の問題が深刻だ。宅配を本業とする生協の強みとノウハウを生かして、地域の実情に応じた仕組みができないか」と期待を寄せる。
ならコープは下北山村の隣の川上村で取り組みを既に始めている。同村は民間団体「日本創成会議」がまとめた若年女性人口の減少見通しから全国で2番目に「消滅可能性が高い」とされている。ならコープの宅配を村設立の会社が請け負い、その担い手として村民を雇用し村の活性化に努めている。この実績を基に、下北山村でも具体的な連携策を検討していく方針だ。
◇最新技術も後押し
小水力発電が復活できた理由は、技術が発展したことも大きい。落ち葉などが川の流れを止めるため、以前は頻繁に人の見回りが必要だった。それが自動の除塵機(じょじんき)が生まれ省力化が実現。発電機も高性能で小型化し、導水管も進歩した。また、小水力発電の適地は、高低差があり水量が大きい場所だ。この条件を満たすところとして、過去の立地場所が最新技術の後押しもあって見直されている。
例えば、三重県伊賀市では19~58年に稼働した馬野川小水力発電所が60年以上を経て復活する。再エネに注目した地元の建設会社が取り組む。三重大の坂内正明客員教授(環境・省エネルギー)が協力して導水管を水で満たす閉水路方式を考案し、サイホン効果により従来の開放方式よりも流量を増やす。廃止時に50キロワットだった出力を約4倍の199キロワットにして今年7月に発電を始める予定だ。
元日本環境学会長の和田武・和歌山大客員教授は「小水力発電は多くの地域で取り組め、特に資源が豊かな山村地域(過疎地域)の発展につながる。ただ、初期投資が必要なのが課題。それだけに生協が資金調達などで協力する奈良の事例は、地域社会と協働で再エネを普及させるモデルとして意義は大きい」と評価している。【大島秀利】
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190224-00000021-mai-bus_all