2015/06/26
2015/06/25
世界遺産の棚田を守り続けるエンジニアを育てたい--。水力発電設備の設計製造を手がける中川水力(福島市、中川彰社長)はこのほど、フィリピンの小水力発電所で働く運転管理技術者ら3人を招いて研修を行った。同社が製造と現地据え付けを担当したことをきっかけに、日本の技術を学んでもらおうと中川社長が発案した。研修は福島県猪苗代町で同社が事業化した「猪苗代小水力発電所」(水路式、出力990キロワット)を活用し、運転維持管理を実地訓練した。研修生は初めて見る最新の水力発電設備と高度な発電技術に関心を寄せていた。
中川水力が手掛けた小水力発電所は、フィリピンのイフガオ州における電力供給の安定化とユネスコの世界遺産「コルディリェーラの棚田群」の保全基金拡充を目的とする国際協力機構(JICA)のプロジェクト。首都マニラの北方約350キロメートルに位置する標高600メートルの山岳地帯に出力820キロワット(410キロワット×2基)の河川流量型発電所を建設している。工事は2013年11月に始まり今年6月に完成する計画。施工管理には東電設計も入っている。
研修に招いたのは、フィリピンエネルギー省再生可能エネルギー局水力部のマーク・マルティネスさんとイフガオ州政府水力発電所運転員のジョナタン・タメレイさん、グレン・ゲナー・ナッピッグッさんの3人。
研修期間は約1週間。福島市の同社工場で水力発電の仕組みや主な水車形式、水車の構造などについて講義を受けた後、水力発電所の運転維持管理に必要な機器の保守点検や工具の使用・点検方法について訓練を受けた。続いて同社が福島県猪苗代町土地改良区で発電事業を営む猪苗代小水力発電所を訪問。設備の点検方法、緊急時対応などについて実地訓練が行われた。
猪苗代小水力発電所は、発電設備において本格的な構造の「同期発電機」と簡易な構造の「誘導発電機」の2つのタイプの発電機が稼働する全国でも類を見ない発電所。2つのタイプを同時に運転管理できるため、同社では技術者の研修育成に広く公開して活用する考えという。また所内設備がすべて電動化されており、油圧設備がない分だけすっきりとした印象が特徴でもある。
研修生からは「最新で最高水準の技術を学ぶ良い機会になった。特に日本の発電所が整然としていることに驚いた。フィリピンに戻ったら現地の発電所も日本に負けないぐらいきれいにしたい」(タメレイさん)と抱負を語る。
中川社長は「研修生はいずれも『学びたい』という向上心があり、基本的な技術技能レベルも高い。将来はフィリピンを背負って立つ優秀な技術者に成長してほしい。世界遺産の棚田を守る小水力発電を通じて、当社が日本とフィリピンとの将来に続く技術的な橋渡しになりたい」と話している。
※紙面より転載
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