2015/05/25
小水力発電の売電収入を地域活性化に生かそうと、中山間地域を中心に住民が主体となって事業化を検討する動きが出てきた。再生可能エネルギー(再エ ネ)の固定価格買取制度の活用で、施設の導入・運営費を上回る収入が得られるとの判断だ。今年度から発電事業に乗り出した地域もある。全国小水力利用推進 協議会は「農山村の豊富な水資源を生かし、新しい収入源を地域につくり出せるのが利点だ」と注目する。
棚田が広がる高知市土佐山地区の高川区。同区の自治会は、50キロワット規模の小水力発電施設を整備する方向で検討中だ。初期投資に約 7000万円掛かるが、年間約1000万円の売電収入が見込める。電力会社に固定価格で買い取ってもらう20年間で試算すると、減価償却費や人件費などを 差し引いても、約3000万円を地域に還元できる計算だ。
小水力発電の事業化には地域の合意が欠かせないため、同自治会は2013年に小水力発電検討委員会を立ち上げ、研究を重ねてきた。自治会総会で発電施設の建設を決定すれば、16年度中にも住民らが会社をつくり、運営していく方針だ。
自治会長で農家の髙橋幹博さん(64)は「小水力発電ができて地域に定期的な収入があれば、若者を雇用できる。桜の植樹、神社の修繕など地域づくりの幅が広がる」と期待する。
福島市土湯温泉町。ここでは、新たに小水力発電施設を整備し、4月から稼働に移した。住民らが設立した株式会社が施設の管理・運営に取り組んでいる。
岐阜県郡上市の石徹白地区には、小水力発電の専門農協がある。14年に農家約100人が組合員となり、発足した「石徹白農業用水農業協同組 合」だ。参事の平野彰秀さん(39)は「水と落差があり、発電できる場所に恵まれていた。地域全体の将来を考えて運営している」と強調する。
同農協は、16年度から農業用水を活用した発電事業に着手する。その売電収入は、地区の維持管理費用に充てるという。
新たに小水力発電施設を建設する場合、地域の合意形成や採算性を見極めるための流量調査など、準備に3年以上掛かるケースが多い。このため、固定価格買取制度がスタートした12年7月以降、準備期間が短い太陽光発電は一気に普及したものの、小水力発電は低調だという。
経済産業省の調査でも、同制度の認定の95%が太陽光発電に集中。特に資金力のある大企業主導のメガソーラーが目立つ。一方、中小水力発電は、ダムを活用した公共事業や土地改良区が発電している事例があるものの、全体の1%にも満たないのが実情だ。
小水力発電の企画・立案を支援しているコンサルティング会社・地域小水力発電(株)の取締役、藤島和典さん(50)は「太陽光の建設ラッシュが落ち着いてくるこれからは、地域住民が主体となる農山村の小水力発電が広がってくる」と展望する。(尾原浩子)(2015/5/25)
http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=33439