2014/02/10
農業用水を活用した小水力発電や売電が広がっている。足元の電力を集落の施設で使ったり、売電収入を電気代に充てたりする「電力の地産地消」。再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度導入で初期投資に見合う収入が見込めるようになり、水路を管理する自治体や土地改良区にとっては、思わぬ“金の卵”となりそうだ。
岐阜県中津川市加子母(かしも)の小郷(おご)地区。特産のトマトやシクラメンの栽培に欠かせない農業用水が山肌に沿って勢いよく流れる。白川から水を引き、市が管理するこの小郷用水が今春、毎年四千九百万円を生む発電所に生まれ変わる。
徐々に下る用水路と並行して水圧管路を埋設。用水路から貯水槽にためた水を六十二メートル下まで落とし、水車を回す。最大出力二百二十キロワット。年間で一般家庭四百世帯分の千六百八十メガワット時を発電できる。電気は市が一キロワット二十九円(税抜き)で全量を中部電力に売る。
県が三億四千万円で整備。半分を国が補助、残りを県と市が折半した。県が市に無償譲渡し、十日に発電を開始。収入は農業用施設などの電気代や維持管理費に充てる。発電所は固定価格買い取り制度導入前の二〇一〇年度に計画。当時は一キロワット十五円程度を見込んでいた。
「順調なら、七年ほどで事業費の元は取れる」と担当者。発電機の耐用年は固定価格の適用と同じ二十年。電気代に充てた売電収入で浮く税金を、農業振興に役立てる。
農業用水路の総延長が全国三位で「小水力発電で日本一を目指す」(大村秀章知事)という愛知県が今春、豊田市で着工予定の小水力発電所(最大出力九百キロワット)も完成後、毎年約一億円の収入を見込む。
県によると、二十年前にも検討されたが、当時は採算の見通しが立たずに断念。固定価格買い取り制度と国の補助で、約九億円の事業化にこぎつけた。
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政府は「農業の体質強化」として一二年三月、農業用水で小水力発電を計画する地域を一六年度までに千地域にする目標を設定。整備や調査などの補助制度があり、農林水産省によると現在、愛知や神奈川など二十三道府県が発電できる用水路の調査を行い、整備計画を作成しつつある。
岐阜大の大西健夫准教授(水文学)は「日本は農業用水が張り巡らされ、発電ポテンシャルは高い」と指摘。「小水力発電は地形や水量などに合わせた設備のオーダーメードが必要で、製造コストが高く、多くが買い取り制度と公共事業に支えられている。制度終了後も持続可能な仕組みづくりが必要」と話す。
◆河川法の改正で手続きが簡素化
資源エネルギー庁によると、固定価格買い取り制度導入後、昨年十月までに認定された再生可能エネルギーの設備容量は太陽光が約二百四万キロワットなのに対し、中小水力は約十三万キロワット。理由の一つが水利権をめぐる複雑な規制と手続きだが、昨年十二月施行の改正河川法で、農業用水の水利権を得ている水路での導入は手続きが簡素化された。
従来は新たな許可が必要で、申請から五カ月程度かかった。改正後は一定の要件を満たせば必要な項目を登録するだけでよく、審査も一カ月程度になった。
国土交通省は個人や団体が小水力発電を行う場合の河川法手続きの支援も各地方整備局で行っている。
(山本真嗣)
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