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2016/06/21

小水力発電とメガソーラーが農山村を変える、下水バイオガス発電も活発【スマートジャパン】

2016年6月21日掲載
農山村を「スマートビレッジ」へ発展させる構想を進める栃木県では、小水力発電の電力を電気自動車に蓄電して農業施設に供給するモデル事業を実施中だ。高原地帯ではゴルフ場の跡地が続々とメガソーラーに生まれ変わり、都市部には下水の汚泥を利用したバイオガス発電が広がっていく。
[石田雅也,スマートジャパン]

 栃木県は東日本大震災の直後から、農山村を対象にエネルギーの地産地消を推進する「スマートビレッジ」の拡大計画に取り組んできた。そのモデル事業の先駆けになったのが「鬼怒中央飛山(きぬちゅうおうとびやま)発電所」で、2012年3月から運転を続けている(図1 「鬼怒中央飛山発電所」の全景と水の流れ。出典:栃木県農政部)。

 この小水力発電所は宇都宮市内を流れる農業用水路に設置した。発電能力は2.5kW(キロワット)と小規模ながら、農山村で再生可能エネルギーを有効に活用するための工夫が随所に見られる。蓄電池と急速充電器を発電所に併設して、小水力発電で作った電力を電気自動車に供給できるようにした(図2 発電した電力を電気自動車に充電して農業で利用。出典:栃木県農政部)。全国で初めての試みである。

 同じ市内にある農業大学校まで電気自動車で電力を運び、園芸施設や酪農施設で利用する。災害が発生して電力の供給が止まっても農作物や家畜の育成に影響を及ぼさない仕組みを構築した。このほかに電気自動車から電動草刈機に充電できるようにするなど、再生可能エネルギーを利用して農作業に伴う燃料費とCO2排出量の削減に取り組んでいる。

 小水力発電で工夫した点の1つに、ゴミ処理の効率化がある。農業用水路には木の枝をはじめさまざまなゴミが流れていて、水車の回転を妨げてしまう状況が頻繁に発生しかねない。そこで水車の上部に除塵機を設置して、農業用水路を流れてくるゴミを除去できるようにした(図3  農業用水路を流れるゴミを除去する除塵機。出典:栃木県農政部)。

 鬼怒中央飛山発電所に設置した除塵機は材質を金属からプラスチックに変更したほか、先端部を下に向けてゴミを落ちやすくするなどの改良を加えた。この結果、人手でゴミを除去する作業は1年間に3回程度で済み、発電機の停止や発電量の低下は1度も発生していない。小水力発電の運転維持費を軽減できるうえに、年間を通して安定した電力の供給が可能なことを実証した。

 農山村の小水力発電はダムでも始まろうとしている。栃木県の北部にある「五十里(いかり)ダム」は60年前の1956年に完成して、当時は日本で最も高い112メートルの堤体で造った(図4  「五十里ダム」の全景。出典:国土交通省)。しかし洪水時にたまった水が濁ってしまい、下流の農業用水路などに供給する水質を悪化させる問題が生じていた。

 この問題を解消するため、ダムの取水設備と放水設備を更新するのと同時に、放流する水を利用して小水力発電を実施することにした。ダムから水を取り込む位置を調整できる選択取水設備を導入して、水が濁っている場合には上部から汚れのない水を取り入れる。取水設備の下に放流設備を新設して水車発電機に水を送り込む方式だ(図5 水力発電設備の導入イメージ(上)、選択取水設備の仕組み(下)。出典:国土交通省)。

 ダムからの高い落差を生かして発電能力は1100kWと大きい。年間の発電量は800万kWh(キロワット時)を見込んでいて、一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して2200世帯分の電力を供給できる。栃木県が9億2500万円を投入して実施する発電事業で、2018年度末に運転を開始する予定だ。

 ○ゴルフ場の跡地にメガソーラーが続々と誕生

 栃木県の北部に広がる那須高原は国内有数のリゾート地である。一帯にはゴルフ場が点在しているが、最近では閉鎖するケースが増えてきた。広大なゴルフ場の跡地をメガソーラーに転換するプロジェクトが相次いで始まっている。

 栃木県の北部に広がる那須高原は国内有数のリゾート地である。一帯にはゴルフ場が点在しているが、最近では閉鎖するケースが増えてきた。広大なゴルフ場の跡地をメガソーラーに転換するプロジェクトが相次いで始まっている。

 その中で最大の「KEN那須烏山太陽光発電所」は2016年4月に運転を開始した。ゴルフ場のレイアウトに合わせて太陽光パネルを設置して、発電能力は28.8MW(メガワット)に達する(図6  「KEN那須烏山太陽光発電所」の全景。出典:ケン・コーポレーション)。年間の発電量は3500万kWhになる見込みだ。一般家庭で約1万世帯分の電力を供給できる。

 同じ高原地帯で2015年11月に稼働した「神奈川電力栃木太陽光発電所」も、ゴルフ場の跡地を利用した大規模なメガソーラーである。40万平方メートルを超える用地に7万7000枚の太陽光パネルを設置した(図7  「神奈川電力栃木太陽光発電所」の太陽光パネル(上)、ゴルフコースの跡地(下)。出典:オーイズミ)。発電能力は20MWで年間に2300万kWhの発電量を想定している。

 このメガソーラーの近くにあるゴルフ場の跡地では、「LS那須那珂川発電所」が2016年4月に運転を開始した(図8 「LS那須那珂川発電所」の全景。出典:タカラレーベン)。発電能力は15MWだが、発電設備の構成を通常のメガソーラーから大きく変えた点に特徴がある。発電した電力を外部に供給するためのパワーコンディショナーに小型の製品を採用して、建設費を抑えながら故障時のリスクを分散させた。

 合計で750台の小型パワーコンディショナー(出力20kW)を配置して電力を供給している。ゴルフ場の跡地は土地の形状がさまざまで、1カ所に設置できる太陽光パネルの枚数にばらつきが出る。小型のパワーコンディショナーを使えば、区画ごとに最適な台数を設置して効率を高めることができる。

 海に面していない栃木県の再生可能エネルギーは太陽光発電を中心に、中小水力とバイオマス発電を加えた3種類が拡大中だ。固定価格買取制度の認定を受けた太陽光発電設備の規模は全国で4位に躍進した(図9  固定価格買取制度の認定設備(2015年11月末時点))。最近の1年間ではバイオマス発電の導入量も大きく伸びている。

 ○下水と食品廃棄物でバイオガス発電

 特にバイオマス発電の取り組みが活発に進んでいるのは、下水を処理する浄化センターである。栃木県が運営する4カ所の浄化センターでは、2015年2月から5月にかけてバイオガスを利用する発電設備が相次いで運転を開始している(図10 栃木県が運営する浄化センターの再生可能エネルギー導入状況。出典:栃木県県土整備部)。

 従来は下水の処理過程で発生する大量のバイオガス(消化ガス)を焼却処分してきたが、新たに発電用の燃料として用途が生まれた。4カ所を合わせて7台の燃料電池と8台のガスエンジン発電機を導入して、合計で935kWの電力を再生可能エネルギーで供給できる(図11 「県央浄化センター」に設置した燃料電池。出典:建築技術研究所)。年間の発電量は1900世帯分に相当する680万kWhになる。

 県営だけではなく市営の浄化センターにもバイオガス発電の取り組みが広がっている。県内で最大の下水処理量を誇る宇都宮市の「川田水再生センター」では、年間に330万立方メートルも発生するバイオガスを使って発電事業を実施中だ。発電能力が105kWの燃料電池8台を導入して2016年4月に運転を開始した(図12 「川田水再生センター」のバイオガス発電設備。出典:メタウォーター)。

 年間の発電量は717万kWを見込んでいて、2000世帯分の電力使用量に匹敵する。この発電事業は宇都宮市が民間企業に委託する方式で、市は初期投資なしにバイオガスと土地の使用料を得ることができる。一方で民間の発電事業者は固定価格買取制度で電力を売却して、建設費と運転維持費を回収するスキームである。

 宇都宮市の西側に隣接する鹿沼市でも、同様のスキームによるバイオガス発電事業に取り組んでいる。下水や食品廃棄物を処理する「黒川終末処理場」に発電能力250kWのガスエンジン機を設置して、2015年7月に運転を開始した(図13 「鹿沼市黒川消化ガス発電所」の全景(上)、ガスエンジン発電機(下)。出典:月島機械、サンエコサーマル)。

 当初は下水の汚泥だけを利用して年間に90万kWhの発電量を見込んでいる。2016年度以降に食品廃棄物も加えてバイオガスの発生量を増やし、160万kWhまで電力の供給量を拡大させる計画だ(図14 下水汚泥と食品廃棄物を組み合わせたバイオガス発電計画。出典:月島機械、サンエコサーマル)。そのために食品廃棄物からバイオマス液を作り出す装置も導入する。下水と食品廃棄物を混合処理するバイオガス発電は全国でも珍しく、先進的な事例になる。

http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1606/21/news026.html

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