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2016/03/10

光れ!市民電力 3・11から5年 <上>小水力発電 大学と協同【西日本新聞】

2016年3月10日掲載
 まさに滑らかな白い糸が岩を滑り落ちるようだ。白糸の滝(福岡県糸島市)には雪が降るこの日も、観光客が訪れていた。茶屋では従業員がうどんや団子でもてなしている。青木一良店長(69)は「ここの電気は全部、滝の発電で賄っているんですよ」と声を弾ませた。
 滝の水は30メートルほど下流の丸太小屋に引き込まれ、小型水車の発電機を動かす。「滝で集落の電気をつくりたい」という住民の声を受け、市が2013年度に約4400万円かけて作った「小水力発電所」だ。
 ダムと異なり、少ない水量でも発電できるのが小水力発電の特徴。白糸は出力15キロワットで、一般家庭27世帯分に当たる。
 滝一帯の観光施設「ふれあいの里」は、住民組織である白糸行政区が運営している。小水力発電を研究する九州大大学院の島谷幸宏教授(60)や学生たちと一体となり、古い木造水車を再利用して発電の仕組みを学ぶなど、当初から深く関わってきた。発電所の完成後も、元区長の青木さんら住民を中心に維持管理している。
 東日本大震災による福島第1原発事故以来、大手電力に頼らず、住民主導で自然エネルギーを活用して電気をつくる「市民電力」が注目されている。
 出資し合って発電所を作ったり、家庭に発電設備を置いたりして、地域のエネルギー自給を目指す。太陽光発電などで大手電力に売電するか、自家消費する方式が多い。
 実は白糸も、「ふれあいの里」で使った残りは九州電力に売電している。電気事業法により、集落に直接供給できないのだ。発電した敷地内で使うことしか認められていない。
 小水力発電はさらに、河川法や土地改良法も関係する。島谷さんは「法的手続きや利害関係の調整が複雑なこと」が導入の壁となっていると指摘する。
 島谷さんと連携して発電機を開発する明和製作所(同市)が、会社前の水路で発電機の実証実験をしたときのこと。水路に関与する県と市、地元行政区に相談し、水路の利用者でつくる水利組合の了承を得るため、総会での説明も求められた。生野岳志社長(53)は「規制緩和は進んでいるが、利害をうまく調整するには、白糸のように住民が主体的に取り組むことが重要だ」と話す。
 高いコストも課題の一つだ。例えば水車は、技術を持つ国内メーカーが限られるため、価格競争が乏しく、納入にも期間を要する。島谷さんは海外の設計技術を使い、地場企業と水車や発電機を開発することで、より低コストで早く製作できるようにした。
 小水力発電には多岐にわたる知識と技術が要求される。だが地域で導入するには、専門家だけでなく、住民の熱意も欠かせない。白糸のように地域一体で売電までし、採算が取れている例は珍しい。
 島谷さんのノウハウを生かし小水力発電を普及させようと、九州大は13年にベンチャー会社「リバー・ヴィレッジ」(同市)を設立した。発電場所の選定から法的手続き、地域の合意形成までを後押ししている。
 島谷さんは「発電に取り組むことで、電気を消費する側から生み出す側になる。地域の将来像を共有し、地域の資源を新たなかたちで次世代に引き継ぐ事業でもある」と語った。
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 東日本大震災以降、停止していた全国の原発は、九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)を皮切りに再稼働し始めた。電力各社は来月からの電力小売り全面自由化に向け、「手ごろな料金」を競い合う。3・11から5年。私たちは電力にどう向き合えばよいのか。地域で模索する「市民電力」の動きを追った。

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小水力発電所の中で、発電機を調整する青木一良さん。円形窓の中で水車が回っている

http://www.nishinippon.co.jp/feature/life_topics/article/230368

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