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2015/10/30

水力発電の電力を中小企業に安く、東京電力の「やまなしパワー」【スマート・ジャパン】

東京電力は山梨県と共同で電力供給の新ブランド「やまなしパワー」を2016年4月に開始する。山梨県の企業局が運営する20カ所以上の水力発電 所の電力を買い取って、県内の中小企業を対象に割引料金で販売する地域限定のサービスだ。割引率は電力量料金の3~6%を予定している。
[石田雅也,スマートジャパン]

電力会社と自治体による地域特化型の電力供給サービスが誕生した。東京電力が山梨県と基本協定を結んで、県内の中小企業に電力を供給する「やまな しパワー」の販売に乗り出す。山梨県の企業局が運営する水力発電所の電力を通常の料金よりも安く販売して、地元の企業を支援しながら他県からの進出も促す 狙いだ(図1)。

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図1 「やまなしパワー」を運営する目的。出典:山梨県、東京電力

山梨県の企業局は大規模から小規模まで23カ所の水力発電所を運営している(図2)。発電能力を合計すると12万kW(キロワット)に達して、全 国の自治体でも有数の規模を誇る。東京電力は年間に4億7000万kWh(キロワット時)の電力を買い取って、やまなしパワーのブランドで販売する。販売 量は一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して13万世帯分になる。

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図2 山梨県営の水力発電所の代表例。「奈良田第一発電所」(左、発電能力2万7600kW)、「野呂川発電所」(右、同2万300kW)。出典:山梨県企業局

通常の電気料金は月額固定の「基本料金」と使用量に応じた「電力量料金」の2本立てで課金するが、このうち電力量料金を3~6%割り引く予定だ。 販売する対象は山梨県内の中小企業に限定して、県の企業局が募集して選定する(図3)。ただし大企業でも新規に山梨県に進出する場合には対象になる。

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図3 「やまなしパワー」の事業スキーム。出典:山梨県、東京電力

販売する電力は契約電力が50kW以上の「高圧」で、県内の中小企業は500kW未満の「高圧小口」に限る。新規に進出する大企業には 500kW~2000kW未満の「高圧大口」でも供給できるようにする。電力を供給する期間は2016年4月から2019年3月までの3年間を予定してい る(図4)。

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図4 電力を供給する企業の条件。出典:山梨県、東京電力

電力市場の環境変化が背景に

東京電力と山梨県が新しい電力供給のスキームを開始する背景には、東日本大震災後に急速に進んだ電力市場の環境変化がある。これまで県営の水力発 電所の電力は東京電力が安価に調達してきたが、固定価格買取制度が始まったことで、水力を含む再生可能エネルギーの電力の価値が高まった。

その一方で小売の自由化が進み、東京電力から新電力へ契約を切り替える企業が増えている。電力を高く売りたい自治体と、電力の利用者を維持したい電力会社、双方の思惑が一致して生まれた電力供給のスキームと考えられる。

山梨県は全国の自治体の中でも先頭を切って再生可能エネルギーの導入を拡大してきた。富士山をはじめとする周囲の高い山々から流れてくる豊富な水量を生かして、県内には76カ所の水力発電所やダムが運転中だ(図5)。

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図5 山梨県内の再生可能エネルギーによる発電所(画像をクリックすると拡大)。出典:山梨県企業局

水力発電所は東京電力が28カ所(揚水式を除く)、山梨県の企業局が23カ所(ダムを除く)を運営している。このほかの水力と太陽光やバイオマスを加えると、再生可能エネルギーによる発電能力は56万kWに達する。

ただし新サービスには課題も残る。供給力の大半を水力発電所が占めているため、降水量によって電力の供給量が大きく変動してしまう。過去の実績を 見ると、2009~2011年度は年間に5億kWhを超えていたが、2013年度には4億kWhまで減少した(図6)。やまなしパワーで供給する予定の4 億7000万kWhには足りない。不足分は東京電力が補充することになる。

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図6 山梨県営の発電所の供給電力量と契約単価の推移。出典:山梨県企業局

水力に限らず再生可能エネルギーの電力を販売する場合に生じる問題である。その代わりに電力会社の火力発電所や原子力発電所にトラブルが発生して 運転を停止しても、地域の送配電ネットワークに支障がなければ電力の供給を続けることが可能だ。災害に強い電力インフラがある立地条件は企業のBCP(事 業継続計画)においても重要になっている。やまなしパワーの適用を受ける大企業がどのくらい出てくるかにも注目したい。

http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1510/29/news040_2.html

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